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第1話完結

「市川……さん」 「……ッ」  市川雪哉は、体を大きくビクつかせた。  背後から後輩に抱きしめられ、シャツのボタンを一つ一つ外される。 「緒方……やめ……」  市川より一回り大きな緒方勇刀は、はだけたシャツの隙間から手を滑り込ませた。  皮膚が引き攣った胸の古傷から、ツンとした突起をたどり、腹の裂傷痕へと移動する。  白い滑らかな肌に無数に残る傷。  勇刀の手がそれに触れるたび、市川は手のひらの感覚に大きく体をふるわせた。   --傷口が開く。  市川の体に残る裂傷痕は、完全に塞がっている。  傷口が開くことはない。  それにも拘らず、勇刀が傷跡にふれる感覚に、市川の下腹部の底は、グズグズとした熱量を溢れさせた。  古傷が疼く、とは違う。勇刀の暖かく大きな手が、傷口を通して淫らにさせるのだ。 「感じ……てる、んですか? 市川さん……」 「ちが……ッ」 「勇刀って、呼んで……市川さん」  耳元で囁かれる勇刀の声。勇刀の声は耳を刺激し、頭に甘美な痺れを生じさせるには十分だった。 「勇……刀……! 勇刀!」 「市川さん!」 「ッん!!」  肩越しに勇刀の唇と市川の唇が、触れる。  柔らかな感触が軽く触れた、瞬間。  激しく舌を絡ませ、貪るようにキスをする。  息が詰まる、感情が昂る。 何も考えられないほど、市川と勇刀は、互いの唇の中を掻き乱した。  夜の帳が下りる。  漆黒の闇を孕む宇宙には、大きな満月。  月か放つ光はマンションの掃き出し窓から差し込み、絡み合う二人の輪郭を薄らと浮かび上がらせた。  頭がぼんやりするほどの激しいキスと執拗に古傷を貪る手が、市川の全身から力を奪っていく。  必死に自立しようとする市川の膝が、瞬間、ガクンと折れた。 「……っあ!」  媚を含んだ甘い吐息が、市川から漏れる。  勇刀は市川の華奢な体を支え、熱くなった耳たぶに唇を近づけた。 「市川さん……凄く濡れてる」 「……ッ……触……やめッ」  勇刀の右手が市川のスラックスの中に入り、熱を帯びた局部に触れる。  大きな手のわりには、市川に触れる勇刀の繊細な手。  市川は堪らず、体を退けぜらせた。 「今日は……いいですよ、ね? 市川さん」 「……名前」  上がる息の間から、市川が小さな声で勇刀に囁く。 「勇刀……私も、名前で……」 「市川さん……」 「名前で……」  涙を含んだ澄んだ市川の瞳が、勇刀を真っ直ぐに捉える。  勇刀は、ゴクッと喉を鳴らした。 「雪哉……!!」 「……勇刀!!」  一気に二人の熱量が上がる。  勇刀と市川は互いの体を引き寄せ、再び激しく唇を重ね舌を絡ませた。  凄惨な事件を乗り越え、生き延びた二人。常人には計り得ない絆が生じていた。  自分のせいで沢山の仲間の命を奪ってしまったという後悔に苛まれる市川と、その命を救うことが出来なかった勇刀と。  二人は互いに寄り添い、深い傷口を埋めるように距離を縮めていく。  それが、体を求めるほどの関係になるのに、さほど時間もかからなかった。 「ん……はぁ」  ベッドに横たわり足を広げる市川に、体を熱らせた勇刀が覆い被さる。  市川の古傷に舌を這わせながら、勇刀は市川の秘部に指を入れ、市川すら触れない場所を奥へ奥へと刺激していく。  古傷が外側から内側から刺激され、市川は理性が飛んでしまいそうなくらいの快感に襲われた。  市川の白い腹の上は、淫らに白く濡れていく。 「雪哉……顔、隠さないで」  顔を覆っていた両腕を、勇刀は荒々しく振り解き、ベッドに貼り付ける。 「……見る……な」 「見せて。雪哉の全てを……見せて」 「あッ--!!」  瞬間、市川の秘部が焼けるような熱さを感じた。  中を押し広げる熱は、深く浅く市川を掻き乱す。  今まで味わったことがない快楽が、市川の体内を突き抜けて脳天まで痺れさせる。  無意識に腰が浮きあがった。  理性も何もかも、壊れていく気がした。  市川を長い間苦しめていた事件も、後悔も全て、勇刀がもたらす快楽が輪郭を薄くしていく。 「勇刀……勇刀……ッ!」 「……雪哉ッ!!」  今は、それでいい--!!  市川も勇刀も、同じ気持ちで肌を寄せ合った。  触れる肌の暖かさも、柔らかさも。  今はそれだけが、全てだった。  朝になったら、また。  市川も勇刀も、心に沈む後悔を隠して日常を過ごす。  朝を迎えるまでの僅かな時間。  二人は、互いの傷を舐め合い、触れ合い……明日も、生きていくのだ。

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