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第3話
ユンユンが姿勢をずらしていく。後ろから抱き着かれるような形ではなくなり、少々の不安も覚えた。けれど、彼が「大丈夫、そばにいるアルヨ」と優しく囁きなるべく体を密着させてくれているから、大人しく身を任せる。重なっているところは人肌に触れて熱いようにさえ感じた。
「あ、う、」
やんわりと陰茎を手のひらで包まれて、ぎゅっとベッドのシーツを掴む。そんなところを人に触られるなんて、初めてのことだ。いや、初めては言い過ぎかも、赤ちゃんの時とかは触られてるだろうし……などと、どうでもいいことを考えているうちにユンユンは指を絡めて、ソレをゆっくりと動かし始める。
「う、……っ、うぅ、」
トウマは眉を寄せて声を抑えた。性的な関係の無い人生を送ってきた彼にだって、独りでする時はある。彼はこれまでずっと、自分が一番気持ちいいやり方を知っているのだと思っていた。ところがどうだろう、ユンユンは最初からトウマのことを知り尽くしているかのようだ。巧みに指や手首を使って、的確にソレを弄ぶ。
「ま、待ってくれ、……っあ、あ、ユンユンんんん……ッ」
弱い裏筋を撫でられ、竿を扱かれると、我慢できずに腰が震えた。
「待って、まっ、……あうぅう……っ」
「ご主人様はどうされるのが好きアルかな? こう? それともこう……」
「あっあ、あ、ダメ、……んんぅ……!」
巧みな指使いで責められて、正直に言って何をされてもたまらない。気持ちいいか、すごく気持ちいいかしかないようなもので、トウマは不自由な姿勢のまま首を僅かに振った。
自分でする時は、なんだかんだ言って加減をしているのだ。気持ち良くなりすぎるのが怖かったのもある。休み休み時間をかけていたものだから、ユンユンが与えてくる的確な刺激は強過ぎて怖いほどだ。しかし、それがわかっているのか、ユンユンに優しい声で囁く。
「いい子ネ、気持ち良くなって大丈夫ヨ」
「……ッ、ダメだ、……っこんな、ダメ……ッ」
「ほら、体は素直ネ。えっちなお汁が溢れてきたアル。いっぱいクチュクチュしてあげるネ……」
「ひっ、あ、あぁああぁ、……っんん〜〜ッ!」
ヌルヌルした先走りを利用して先端を撫でられると、たまらず腰が跳ねた。先っぽはダメ、気持ち良すぎるから、という言葉を紡げないまま腰を逃すようにしても、ユンユンの手が優しくソコを包んでいて逃げられない。愛撫自体は優しいのだと思う。それでも。
「……っ、き、気持ちい、から、それ、ダメぇ……ッ」
びくびくと腰を震わせながら訴える。気持ち良くなりすぎないように加減してきたトウマにとっては、過ぎる快感だ。呼吸を荒げ、必死にシーツを握りしめて訴えた。
「気持ち良くなって、いいアルヨ?」
「や、やだ、や、気持ちいいの、やだ、怖いから、」
「大丈夫。ユンユンがそばにいるネ。安心して」
何を安心しろと言うのか。反論は口にできなかった。先端を撫でる手をそのままに、竿を扱かれ始めたのだ。
「あっあ、あ! ダメ、それダメ!」
「気持ちいいアルネェ……。どんどん濡らして、可愛いアル。おちんちん、いい子いい子してあげるネ。いい子、いい子……」
「やぁああ……っ、あ、アッ、も、ダメ、ダメだから、も、あああっ、い、イくぅ……ッ」
腰の奥から熱くて苦しいモノが迫り上がってきて、トウマはぎゅっと目を閉じた。この気持ち良くてたまらない、少し辛いとさえ感じる時間も、射精してしまえば楽になる。そう本能的に感じて身構えたのに、突然ユンユンは手を離してしまった。
「あっ⁈ な、なん、で……⁈」
思わずそう口にしてしまったのが、また冷静に考えると恥ずかしい。あれほどダメと言っていたのに、結局ユンユンに与えられる刺激を待ち望んでいるのだ。うぅ、と身じろぎしてユンユンを見ると、彼は何かベッドの下を漁っているようだった。
「……ユンユン、」
「ゴメンネ、ご主人サマ。すぐに再開するアル」
そう言いながら姿勢を戻したユンユンは、手にローションのボトルを持っていた。
「……え」
トウマはポカンとしてソレを見る。いやトウマだってその存在は知っていた。最近はコンビニとかにも置いてある便利な時代だから。しかし、どうしてそんなモノがうちに、おまけにベッドの下に有るのだろう。もちろん、トウマは購入したことがない。
となれば。
ユンユンの顔を見ると、彼は「てへ」とばかりに舌を出した。
そう言えば、身に覚えの無い服、サングラス、アクセサリーに靴。アレがユンユンの物だとしたら、彼にはそれなりの経済力が有る。今もエセ中国人風バーとやらで働いているのかはわからないけれど、もしかしたら、ローションを買うお金も有るのではなかろうか。
つまり。ユンユンはこの日が来ることを見越してローションを買い、ベッドの下に隠していた……ということになる。
「ユ、ユンユン……お前……」
「あ、コレはワタクシが個人的に買っておいた物ネ。お客サンのお金は使ってないアルヨ」
「お客さんって言っちゃってるし……」
「あ〜ゴメンネ? なかなかクセが抜けないアルネ」
「それに、なんでそんなモノ、」
「それはだって、そうデショ? ワタクシ、ご主人サマにご恩を返したかったわけアル」
ほんまに恩返しの方法、それしか思いつかなかったか? トウマの疑問は口にできなかった。ユンユンが、ローションを手にドポリと落とし、指先まで濡らし始めたからである。
「ま、待って」
それで何をされて自分がどうなるか、薄々勘づいてしまった。だから止めようと思ったけれど、所詮もう熱の灯った身体も頬も頭も逃げる事なんて選べなくて。
「コレでクチュクチュしたらもっと気持ちイイヨ?」
「待って、あ、ひぅ、くっ、あぁあ……!」
ローションの塗り広げられた手で陰茎を包まれて、それだけでトウマは未知の感覚に震えた。そんな手で扱かれたりしたら、と不安になると同時に、たまらないほど期待が高まる。頬を真っ赤に染めながら、「ダメ」と微かに漏らしたけれど、それが本気の制止ではないことなど、トウマにさえわかりきっていた。
「……あ、ご主人サマ」
しかし、ユンユンは前を握り込んだまま思い出したように言う。
「な、何」
「ストップの合図は、『やめろ』にするネ?」
「え……」
何を言われているのだかよくわからずにユンユンの顔を見ると、彼は本当に優し気に――いうなれば慈母かお姉さん、といった様子で――微笑む。
「ヒトの世界には『イヤよイヤよも好きのウチ』って言葉が有るネ。だから、ダメとかイヤとかはユンユン、「もっと」って意味だと解釈するアル。本当に嫌な時は、『やめろ』ってはっきり言ってネ」
「な、なるほど……?」
性行為にはそういう習わしが有るのか……と、素直なトウマが納得している間に。
「ということで、続けるアル」
「えっ、あ、ちょ、っあぅううう……ッ!」
陰茎を水音を立てて擦り上げられ、トウマは見悶えた。彼だって先走りの滑りを利用したことはあるけれど、ここまでぐしょぐしょに濡れるわけではなかったから、未知の快感だ。気持ち良すぎるのがずっと続いて、腰ばかりか脚までビクビク震える。本能的に逃げようとするのをユンユンに抱きこまれて封じられ、「ヨシヨシ」とまるで幼子のかわいがるように先端まで撫でられると、悲鳴のような声が自然と漏れた。
「ひああぁあ、っ、ダメ、それダメだからあああっ」
「ちゃんと気持ちよくなれて偉い子アルネェ、これからもっと気持ちヨクしてあげるから、楽しみにするヨロシ……」
「あっ、ダメ、まっ、あぅううう……っダメ、も、ムリ、イくからッ、イッちゃうからあ……っ!」
ヌルヌルと弱い所ばかりを撫で上げられて、涙までこみ上げてきた。腰が切なく戦慄いて、また絶頂を迎えそうになった頃、再びユンユンは手を止めてしまった。
「あっあ、なんで、なんでぇ……っ」
なんで止めるの、と泣き出しそうな気持ちになる。終わりを待ち望んでいた身体はピクピクと震えて、それが恥ずかしいやら情けないやら。抗議するようにユンユンに視線を移すと、彼は再びローションを指に絡めながら、うっとりした様子で言った。
「ここからが本番、アルヨ? ご主人サマ……」
その言葉に、トウマは察してしまった。けれどもう熱い身体は逃げようともせず、絶頂の気配を前に震えるばかりだった。
「あう、う、う……っ」
大丈夫、力を抜いて、怖くないアル、もっともっと気持ちよくなれるヨ。艶めかしい言葉遣いで囁かれながら、本当にゆっくりと自分で触れたことも無い場所を撫でられ、解され、そしてやがて指が一本胎内に潜り込んできた。
ユンユンの言う通り、それは多少の違和感を伴うばかりで、苦痛は無かった。というより、案外すんなりと入ってしまったことにトウマは困惑していた。
(は、入っちゃったよ……)
そもそもソコは何をとは言わないが日常的に出す場所であって入れる部位ではない。だからトウマはきっと大変な作業になるのだろうと思っていた。ところが、本当に何の苦も無く1本の指を――ユンユンの細くて長い、しなやかなそれを――受け入れてしまった事に、動揺する。しかし同時に、また快感への期待で頭が熱く焼けてくるのだった。
「上手に呑み込めたネ、偉い子アル……。これから、ゆっくり抜いたり、また挿れたりしてあげるネ」
「え、あ、んんぅ、う、あ……っ」
ユンユンが宣言するや否や、胎内に入った指が、ヌルヌルとゆっくり抜けていく。その感覚が何とも言えずゾワゾワして、しかしそれは不快ではなく、むしろ気持ち良いに似ていた。完全に抜けきる前に止めて、また奥まで押し込むを繰り返される。慣らすように指を捻りながら、内部を撫でるのを繰り返されると、なんだか変な気分になってきた。
トウマが当初想像していたような、強くてどうしようもなくなるような快感は、残念ながら得られない。しかし、そのやわやわとした刺激だって確実に気持ち良いのだ。うう、と眉を寄せ、背を丸めてその感覚を受け入れる。これが前立腺開発なのか、と思っていると、ユンユンの指の動きが変わった。
抜き差しは止めて、何かを探る様に指先で腸壁を撫でられている。彼が探しているものが何かぐらい、すぐにトウマも察しがついた。そして複雑な心境になる。このまま何も見つけられず、アナルの快楽など知らないほうが幸せのような、しかし無上の快感とまで言われているその境地を知りたいような――。逃げたいような、もっとと腰をくねらせて求めたいような。トウマはわけがわからなくなって、結局何もできずにユンユンに身を任せていた。
と。
「ひう……っ?」
くい、と何処かを撫でられた時。トウマはゾクゾクと腰の奥から快感に似た何かが湧き上がって来るのを感じた。今のは、何だ。不安になって振り返ると、ユンユンがにっこりと微笑んでいた。
あ、これ、ダメなやつだ。トウマは察して、「ユンユン」と名を呼んだ。それでどうにかなるものでもなかった。
「あっ、ゆ、ユンユン、そ、ソコは、だ、ダメだ、だめ……っ」
「わかってるアル。ここがイイアルネ」
「ちが、ちがわないけど、ちがう、だめ、それだめ、ダメだってばあぁああ……っ」
くいくいと優しく撫でられているだけなのに、ゾクゾクゾワゾワと沸き起こって来る感覚は、次第にはっきりと気持ち良いと感じられてきた。逃げたいけれど、指が入っているのに下手に動いたらどちらかが怪我をするかもしれないし、それに気持ちいいし、でわけがわからない。ただひたすら、シーツを握りしめて耐える。
「ちゃんとココで気持ち良くなれて、えらい子アルネェ、いっぱいなでなでしてあげるアル。ほぉら、なでなで……」
「やああぁあ、あ、あ、っ、や、だ、ユンユンんん、も、ダメだからああ」
くにくにと指先が的確に弱い場所を撫でる。胎内がキュンキュンと悦んで、ユンユンの指を締め付けるのがわかるし、それによりまた刺激が増すものだからどうにもならない。トウマは半ば泣きながら「やめて」と「ダメ」を繰り返しつつも、『やめろ』とは言えなかった。
ここまで昇ってしまったなら、最後まで昇り詰めたい。触られていない陰茎が痛いほどで、トウマは恥も外聞も無く、イかせてほしいと懇願したくなった。けれどまだ羞恥が勝っていて、言えない。それでも、苦しい程気持ちいいのだ。解放されたい、出したい、と頭がそれだけになってしまう。
「も、おねがい、だからぁ……っ、ユンユンぅ……っ」
可能な限りの甘えた声を出す。涙ぐんだ瞳では彼の顔も見えないけれど、きっと微笑んでくれているのだろうとは思った。
「いい子ネ、今日はちゃんとシてあげるアル。うんと、気持ち良くなって、ココが好きになってネェ」
「え、あ、アッ! だ、め、ソレ、」
クチュリ、と反対の手が、先端を撫でる。ソレはダメだ、気持ち良すぎるから。言えるわけもなく、前立腺を撫でられると当時に、陰茎を擦られ、先端を撫でられて。目の前がチカチカするほどの強い快感にむせび泣くほど喘ぎながら。
「あ、あああ、ゆんゆ、ん、・・・・・・ッあ、イく、イくぅう……ッ」
トウマはビクビクと全身を震わせながら絶頂に昇り詰めた。
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