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第17話

 そういえば、さっき二人でシャワーをしてしまったし、ある意味では準備は整っているわけで。なし崩しにベッドに横たえられて、ちゅ、ちゅと猫が甘えるように頬や首に口付けられると、どうも弱い。 「ネ、ご主人サマ。トウマ、って、呼んでもいい……?」  耳元で熱く囁かれて、断る術があるだろうか。小さく頷くと、ユンユンは「トウマ」と名を呼びながら、唇に口付けてきた。トウマにとってそれはファーストキスにあたる。柔らかい唇が触れ合っているだけなのに、それは妙に幸福で恥ずかしくて、けれど確かに気持ちいい。ただのキスだけでこうなのに、映画なんかで見るようなキスをしたらどんな心地だろうと、トウマは想像しただけで胸が高鳴った。 「……あ、キスして、大丈夫だったカ?」 「ん、い、いい、もっとしたい……」  思わず素直に求めてしまってから、アッと声を漏らす。けれど、ユンユンが満面の笑みを浮かべて顔を近づけてきたから、ぎゅっと目を閉じる。  再び唇が触れ合う。今度は違う角度から。ぺろりと舌で舐められて、なんとも言えずソワソワした心地になる。本当にすぐそばで「口を開けて」と促され、おずおずと従うと、口内にユンユンの熱くて少しザラりとした舌が潜り込んでくる。 「んんっ、ん、ぅ、……は、」  どうしていいかわからず逃げる舌を絡め捕られ、ぬるりと舐め上げられるとたまらない心地になって、身を引こうとする頬と後頭部に手を添えられた。そうするともう、されるがままになってしまう。  何度も角度を変えながら貪られてクラクラしそうだ。呼吸をするタイミングがわからず、溺れるようにしていたら、「鼻で呼吸して」と言われたけれど、そんなのは恥ずかしいと思ってしまった。できる限り我慢していたら酸欠と気持ち良さが相まって頭まで蕩けてしまいそうだ。  熱く濡れた舌が絡み合うのは、なんだかセックスのようにも感じられて、それだけでトウマの身体はすっかり熱くなってしまう。後頭部に回っていた手が、悪戯に耳を撫でたものだから、声にならない声を上げて震える。 「んんっ、ふあ、あ、ユンユン……っ」 「フフ、トウマ。ワタクシのかわいいご主人サマ……」  頬を両手で包まれて、思わず瞼を開ける。涙で滲んだ視界に、幸せそうに微笑むユンユンがいた。 「たくさん愛してあげる、世界で唯一愛しいヒト……」 「……っ、あ、ゆんゆ、んんぅううっ」  ぐりぐりと前立腺を指で押されて、悲鳴のような喘ぎ声を上げる。仰向けで散々ドロドロに愛された身体は赤く染まり、トウマは息も絶え絶えだ。  200年分の愛情がいかほどのものなのか。それだけ長い時間想えば、猫だっておかしくなるということなのか。人間がそうするように、たっぷりと愛情を注がれ、愛撫され、溶かされた。これからセックスをするということは、指やこれまで使ってきたオモチャなどとは比べ物にならないモノが入るのだろうし、ユンユンの前準備は入念であったが故にトウマはもうすっかり蕩けて、何が何だかわからないほどになっていた。  涙はぽろぽろ零れて止まらないし、意味を成さない喘ぎ声は止まらないし。膝を立てた脚も身体もビクビク震えて、何度も絶頂を迎えそうなのに、それが叶わない。陰茎からはトロトロ先走りが溢れて、早く解放してほしいと泣いている。けれど、トウマはもうとっくに前立腺を開発されてしまっているわけで。  早く、ユンユンが欲しい。  熱に浮かされるように、快楽に流されながらそう思う。グチュグチュと淫靡な音を立てていじめられるソコに、ユンユンを受け入れ一つになったらどれほど気持ち良くて満ち足りて幸せなことだろうと、考えただけでどうにかなりそうだ。 「ゆん、ゆ、……も、頼むからぁ……っ」  甘い懇願を聞き届けて、ユンユンが指の動きを止める。彼は「トウマ」と愛しげに名を呼んで、それから「もう大丈夫かなあ……」と少しだけ不安げに呟いた。 「も、いいから、」 「そうネ、ワタクシも初めてだから……辛かったら言ってネ?」  その言葉にトウマは一瞬何事か考えかけた。初めてってどういうことだ、と。もしそれが、人間とのセックス、あるいは猫との交尾をさすのであれば、とんでもないことだ、と一瞬思う。これまで何度かユンユンが「一途な猫」だと主張しているのを聞いた気がするが、一途が過ぎる。200年の間、他の何をも愛さなかっただなんて、そんなのは。  しかしそんな思考は、ずるずると指を引き抜かれたことでかき消えてしまう。 「ひあ、あ、あ……っ」  それだけで気持ちいい。ゾクゾクした快感に夢中になっていると、「うつ伏せになって?」と囁かれる。何が何だかわからないけれど、それに従って力の抜けた身体を動かした。ユンユンが姿勢を動かして、結局上体を突っ伏し尻だけを上げているようになる。その背中にユンユンがのしかかって来て、裸の肌と肌が触れ合う。いよいよこれから交わるのだという実感が湧き上がって、心臓が爆発しそうだ。 「……っ、ユンユン……」 「いい子で力抜いててネ? トウマ……」  熱くて硬いものが押し当てられて、ビクリと震える。そういえば、まだユンユンのソレを見たことが無い。大きいんだろうか、いやだって身長高いし、と考えて急に不安になったものの、今更どうなるわけでもない。 「ユン、ゆ、あ、う、ぅううう……っ」  ぐ、と質量が胎内に侵入してくる。流石に、これまで受け入れたモノとは比較にならない苦しさに、思わず眉を寄せる。ユンユンもキツイのか「ぅ」と小さく呻いて、それからトウマの身体を撫でた。 「いい子、いい子。大丈夫アルヨ」 「は、初めてなのに、わかるのか……? っ、く、ぅう」 「大丈夫、ホラ、こうすると気持ちいい」 「あ、あ⁉」  くちゅり、とそれまでほったらかしだった前を撫でられて、びくびくと脚が震える。自然と力が抜けたのだか、それでズルズルとユンユンの熱が奥まで侵入してきた。 「~~っ!」  身体を貫かれていく異物感もすごかったのだけれど、なによりそれほど太いものが前立腺を擦り上げた時の快感といったら。それだけで弾けてしまいそうなのを必死でシーツを掴んで耐える。震える身体を抱きしめて、ユンユンが最奥まで身を進めると、彼もまた「はぁっ」と熱い呼吸を落としながら、トウマの首筋にキスを落とす。  流石に苦しいので待ってほしい。そう言いたくても言葉が出なかったが、ユンユンもくみ取ってくれてそれは助かった。ただ、少しでも動かれたらとんでもないことになってしまいそうで、期待と不安で呼吸が鎮まらない。ユンユンはトウマの名をしきりに呼びながら、首の後ろに口付けていた。  そういえば、猫の交尾では噛むんだったろうか。噛まれるのは困るかもしれない、痛そうだから。そう考えていると。  かぷり、と歯を立てられる。痛みは無い。ただ。 「ア、ぁ……ッ」  ゾクゾクと、快感が走り抜ける。今、支配されている、抱かれているのだという実感に震えた。愛する者と一つになっているのだという事実。手の甲にユンユンの手のひらが重なり、もう一方の手はトウマの陰茎をやんわりと撫でる。 「あ、だめ、ユンユン、それ、ダメだから……ッ」  それだけで気持ち良くて、ぴくんと身体が跳ねると、内部を締め付けてしまってありありと侵入している熱の形を感じる。それでまた震えて、を繰り返してもうどうにかなりそうだ。ユンユン、と甘えた声で名を鳴き、どうにかしてほしいと訴える。 「ワタクシの、この世で一番かわいいネコちゃん……」  ユンユンが、熱っぽく囁きかけた。 「アナタのことを愛させて?」 「……っ」  この上なく愛してもらっていた。これ以上何を遠慮するのだろう。俺に断る権利なんて無いほどの愛だ。  トウマは不自由な頭を動かして、ユンユンの顔を見ようとした。片目で見つめた彼はうっとりとした表情で顔を赤らめ、こちらを見下ろしている。 「……っ、俺、も……っ」  ユンユンのことが、好きだ。そう口にすると、ユンユンはふんわりと微笑んで。 「……っ、ひっ、ぁあ!」  ぐん、と中を突き上げられて、トウマは悲鳴を上げた。いつもの責めの比ではないほどに気持ちいい。いや、快楽だけで言えば、そうではないのかもしれないけれど。満たされているという感覚が圧倒的に違う。 「トウマ、トウマ……っ」 「待っ、ああっ、ゆん、ゆんんんん……っ!」 「ゴメンネ、もう、待てない」  トウマ、トウマと数え切れないほど名を呼ばれ、首を甘く噛まれながら腰を揺さぶられる。抜けていく感覚も、突き上げられるのも、ずりずりと内壁を擦られるのも気持ちよくて仕方ない。ポロポロと涙が、喉からは引っ切り無しに嬌声が漏れて止まらないし、なのにそれがどうにも幸せで仕方がないのだ。  気持ちいい、何もかもが。どうなってもいいくらいに。 「ゆんゆんっ、も、イっちゃう、イっちゃうからあぁあ……っ」  シーツを握りしめて、ぎゅっと目を閉じる。身体も頭も胎内も何もかもが熱い。絶頂がすぐそこまできているのを感じて、トウマが訴えると、ユンユンはトウマの腰を掴んでより激しく突き上げる。その苦しさまで快感に変わるようだ。 「ひあぁ、あっ、ゆんゆ、んんっ、も、ダメ、あっイくぅうう……っ!」 「イイヨ、一緒に、イこ?」  興奮した声が耳元で囁く。ユンユンもまた、気持ちがいいのだと、それを認識してしまったらもうダメだった。 「あ、ああぁああ……っ‼︎」  背を逸らせて、絶頂を迎える。頭が真っ白になって、何も考えられない。ただ気持ちいい。息も忘れるほどに。 「トウマ……っ!」  ユンユンが震えて、それで恐らく胎内に精を吐き出したのだと思う。何にせよ、トウマはまた少しの間意識を手放していた。     「お前は本当にかわいい猫だなあ。この世で一番かわいいやつだ」  ユンユンによく似た猫を、時次は撫でていた。人々に鬼と呼ばれて恐れられる男が、柔らかく微笑んで。その小さな命を撫でている。  ゴロゴロと喉を鳴らす猫は、幸せそうに男に撫でられていた。まだ猫又などではないただの猫と、そして鬼でも何でもない男、たった二人の世界がそこにあった。 「こんな俺のそばにいてくれてありがとうなあ。どんな事があってもお前を捨てたりなんかしねえぞ。ずっと一緒だ。ずっとずっと、お前が死ぬまで、ずっとだ」  幸せそうな光景を見ながら、トウマは思った。  ああ、約束を守れなかったのは俺のほうだったのに、そんな奴をユンユンは、あんなにも一途に想い続けたんだな。  目を覚ますと、ユンユンの腕の中に抱かれていた。どうやらまだ人の姿のままのようだ。すうすうと満足そうに眠っている彼もトウマも裸のままで、その素肌の温もりが心地良い。  トウマはユンユンの髪をそっと撫でてやった。急に猫又になって人として生きるのは、苦労もあったに違いない。孤独に震えた夜も有ったことだろう。泣きじゃくるほどに愛していた男と再会できた時、ユンユンはどれほどの幸福に包まれただろうか。  トウマは胸の痛みを覚えて、その愛しさにユンユンを抱き返した。 「ごめんな。今度こそ、ずっとずっと一緒だ。今度はお前が眠るその時まで……」

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