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 全てが終わり、妊娠に関する誤解を解いてやると、原くんは死にそうなくらい真っ赤になっていた。 「おれ……先生が何回も中出しするから、赤ちゃんいっぱいできちゃうと思いました」 「想像力が豊かですね。射精の回数分子供ができるのだとしたら、五つ子くらいになっていましたか」 「恥ずかしいです……」  身を縮こまらせる原くんの髪を、さらさらと撫でる。  原くんは、こてんと頭を傾けて、僕の肩に体を預けてきた。 「あの。先生は、その……どうしておれとエッチしてくれたんですか?」 「君がして欲しいと言ったからですよ。お姉さんの部屋で、泣いて懇願していたでしょう」 「……おれに合わせただけですか?」 「別に、合わせたというわけではないですよ。僕もしたいと思ってしました」  原くんは黙ってしまった。  チラリと表情をうかがうと、なにやら緊張しているように見える。 「何か言いたいことがあるのではないですか?」 「あり……ます」 「遠慮せず言ってください」  数十秒、もじもじと指先を擦り合わせたのち、原くんは上ずった声で言った。 「おれはっ、石田先生のことが。す、きですっ」 「ええ。知ってます」 「先生は、なんとも思ってないかもしれないけど。そんなもん知ってるよって感じかもしれないけど、でも、真剣で」 「それも知ってます。原くんはいつも一生懸命で、何事にも真剣に取り組みますね」  僕は原くんの手を握り、形を確かめながら言った。 「僕は毎日、君の動画を見ながら何度もシコッていますが」 「し、しこっ……!?」 「はい。原くんがオナニーを見せてくれるようになってから、投影用のスクリーンを買ったくらいです」 「なんで!?」 「可愛くて好きだからですよ」  原くんは固まっている。 「見ますか? 毎日僕が、君の動画で抜いている動画。撮ってるんですよ」 「……っ、先生のその、おれのこと好きっていうの。エッチな意味だけですか?」 「まさか。原くんの人柄に好意を抱いています。なかなか見苦しい映像だと思いますよ。先生が生徒に欲情して、めちゃくちゃオナニーしてガンガン射精している様子は」  原くんは、潤んだ目で僕の見つめながら、ぽすんと胸を叩いた。 「なら、なんで早く挿れてくれなかったんですか。保健室で、してくれたらよかったじゃないですかっ」 「見るのが好きだからですよ。ベッドに腰掛ける君がガニ股開いて、ちんこ剥いていじくってる姿を見るのがね」 「せんせぇ、の、ばかあ。ヘンタイ」 「それはそうでしょう。生徒に自慰を指示して動画におさめさせるなんて、変態行為以外の何物でもありませんので」  僕は原くんを押し倒し、激しく口づけながら言った。 「好き。ねえ、好き。全身見たよ。乳首も玉もお尻もちんこも全部好き。可愛いね。なんでも言うこと聞いて、健気で可愛い。好きだよ。僕だけのものにしちゃいたい」 「ん、ふ……っ」 「好き。可愛い。また勃ってる。あんなにしたのにね。夏休み、ずっと僕の家に居て? 1ヶ月、24時間エッチしよう?」  原くんの目が、恍惚のものに変わる。 「他の先生のこと見ちゃダメ。目を合わせたら怒るよ。友達に触るのも触られるのも禁止。食べるのも飲むのも絶対保健室でして? いい? それが先生と付き合うってことだよ?」 「うん。分かった。全部言うこと聞く。石田先生大好き」 「可愛い。好きだよ。原くん」 ***  これが、いまから3年前、東京都江東区で起きた『中学生洗脳事件』の全貌である。  17歳になった元生徒はいまだ洗脳が解けず、これは純愛だと主張し続けている。  押収された動画は1,600本。  夏休み初日に失踪した生徒が保護されたのは、翌年の春だった。  少年は治療のために現在も入院しているが、他人との接触を一切拒み、誰とも目を合わせず、人が触れようとすると暴れ出してしまう。  そして一日中、病室の窓の外に向かって、つぶやき続けている。 「先生……会いたいよ。赤ちゃん作りたい。どうやったら会えるの?」  きょうも原くんは悩んでいる。  これは、石田先生に会いたくて会えなくてずっと恋焦がれている、『悩める原くん』のお話。 (了)

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