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第1話
朝日と夕日どっちが好きか?
大抵答えるのは夕日だ。
まるで俺らみたいだ。
朝陽より夕陽の方がみんなに愛されるんだ。
兄の俺は対して頭がいいわけでもなく、体力があるわけでも、愛嬌があるわけでもなかった。何に関してもだめだった。
弟の夕陽はかなり頭がいいし、運動神経も抜群で何より愛されていた。何に関しても良かった。
でもこいつは兄さんの方が、兄さんの方が、って慰めるように声をかける。だが俺は性格さえもだめだから、こいつに見下されてるとしか思えなかった。
そして家にいられなくなった俺は家を飛び出した。
もうまる2日帰っていない。高校生にもなって実家暮らしは恥ずかしいけど、ほぼ1人だし、一人暮らしと言ってもおかしくはなかった。
ただ、少し家出したことを今後悔している。
出来損ないの俺が連れ込まれるとは思わなかったから。
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「…やめろッ…ぅ゙、ぁっ」
ぱちゅん、ぱちゅん、と肌が打ち付けられる音と嬌声が薄暗い路地裏に響く。
全く知らない男のそれが俺のそこから出入りしているのを見て、また吐き気が止まらなくなる。だが、口から出るのは嬌声ばかりで思わず指を噛む。
黒い前髪で視界が隠れるのが幸いだ。
「あ〜ッ、そろそろでる。中に出すぞっ」
「あ゙ッ、待っで…、イくからっ…うぁ゙ッ」
中に熱いのが注がれるのと同時に絶頂を迎え、目がチカチカする。
着ているシャツに白濁がベチャッとついている。男がそれを抜いたかと思うと俺の顔の前で扱き始めた。脱力しきっている俺はそれを見ていることしかできなかった。
その数秒後、男が顔を歪ませたかと思うと、白濁が俺の顔目掛けて飛んできた。どろっと、前髪にかかる。男は満足したのか、服を着てそのままどこかへ行ってしまった。
痛む腰を抑えながらズボンを履く。そしてため息をついて壁にもたれる。
「っぐす…ッぅ…ふぅ゙…ッ」
泣き声が路地裏に響く。地味で掠れた泣き声が。
もう全て出し切ったのか、涙は出てこない。
ぼーっと汚れた路地裏を見ながら座っていた。立てないんだ。気持ち悪さと腰の痛さと自己嫌悪で。死にたい。物凄く。
数分くらいぼーっとしていると誰かの声が聞こえた。聞き覚えのあって、憎らしい声。
俺の前にしゃがみこんではだけたシャツを直そうとする。
「…触んな」
枯れた声を出しながらそいつを睨む。いつものように。
声は枯れていて、力だって入らないくせに口を開いたせいで言葉がどんどん出てくる。
「…どうせ」
「どうせこんなことからも自分の身1つ守れない馬鹿で弱い兄って思ってるんだろ!?そうだよな!お前だったら、絶対こんなことにならないもんな!」
さっき沢山出したくせにまた涙が溢れてくる。なんで俺、弟に八つ当たりしてんだろ。
「…あっち行ってよ…お前なんて」
先程の行為を思い出してまた身体が震える。
すると何か温かい服のようなものが被せられる。同じ柔軟剤を使っているはずなのに落ち着く。
そのせいでまた涙が溢れる。こんなだから、お前なんて、
「お前なんて大っ嫌いだよ夕陽……」
夕陽は嫌いだと泣き崩れる俺を優しく包み込むと小さく呟いた。
「俺みたいな出来損ないの弟がいてごめん」
お前が出来損ないなら俺はなんなんだ。
涙で歪む視界と自分に心のなかで悪態をついた。
「兄ちゃん…朝陽。」
初めて、初めて、こんなに優しい声で名前を呼ばれた気がする。
思わず顔を上げて夕陽を見る。
「俺は朝陽が一番好き。」
こいつが言っている「あさひ」は朝日なのか朝陽なのか分からないまま、こいつのふにゃっと歪ませた顔に胸がきゅ、と締まる。
ああ、でももしかすると俺はずっと「ゆうひ」が好きだったのかもしれない。
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