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第5話

*****  流れる読経の中、参列者の焼香が始まった。前の席のほうから順番に祭壇の遺影の前に立っては故人に手を合わせ、そして残された遺族に対し一礼をしていく。プログラミングされたようにその作業を皆、淡々とこなしていき、やがて悠希もその列に加わった。目の前を歩く太田のきつそうな首回りを眺めて、これで息が詰まったりしないものなのかとぼんやりと思った。  前の元同僚三人の焼香が終わり、やっと悠希の番になった。焼香台の前に立って祭壇の故人の遺影を見つめる。この笑顔は忘れもしない、あの人の心からの笑顔だ。いつ撮られたの写真なのだろう。だが、悠希と撮ったものでは無いことは明らかだ。  そして白い布で覆われた長方形の箱。背が高く体格も良かったあの人がこんなに狭い箱に納められているのかと思うと、悠希はなぜか呼吸が苦しくなった。  指先にざらつく香を一摘まみして焼香を済ませる。手を合わせ、もう一度、彼の笑顔を眺めたが、やはり何の感情も湧き出ては来なかった。  悠希は祭壇から少し横へずれて、後ろの参列者へと焼香台の前を明け渡すと、残された遺族の前に進み出た。横一列に並ぶ遺族をさっと眺める。故人の両親だろうか、手前には年老いた男性と女性。その横の和服の女性が彼の妻だ。  こんな状況で彼女の顔を拝めるとは思いもしなかった。あの頃は、この青白い表情の女を疎ましくも思っていたのに。そして、彼の残した子供達。二人とも項垂れたままで、特に女の子のほうは今にもその場に崩れ落ちそうで、親戚の女性に肩を支えられている。  悠希は彼らに一礼をした。彼らも頭を下げてくれ、上体を起こそうとした時だった。 (――なんだ?)  先ほど感じた射すような視線。さっきよりもはっきりと感じる視線の先を頭を上げながら追っていくと……。 (な……、んだ?)  辿った先には彼に良く似た青年の瞳があった。笑みもなく、また哀しんでいる様子もない青年の目は、悠希をきつく見つめて離れようとしない。  思わずその瞳に捕らえられて心臓が大きく打った。金縛りにあったようにそこから足が動かない。だが、直ぐに後の弔問客が焼香を終えて、悠希は押し出されるように彼らの前から離れていった。

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