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28 再会編 判定2

「それで、どうするの? ヴィオはカイ兄さんと番うの?」 「それは……、僕は兄さんとは番たくない。……本当に、僕自分がオメガだなんて考えたこともなかったんだよ。それは信じて。発情期にもなったことないし、ぴんと来ないよ」  昨日カイに抱きしめられたことは流石に姉に黙っていた。やはりあれがカイのフェロモンであるならば、以前は感じなかったそれが分かるようになってきたこと自体、少しずつオメガとして成熟している証なのかもしれない。 「僕にはやりたいことがあるから」 「そんなことだろうと思ったわ。中央で勉強するんでしょ? 看護師の。それで大好きなセラフィン先生の傍にいって手助けがしたいんでしょ?」 「姉さん知ってたんだ」  少しだけ姉の方に近づいて座りなおす弟に、リアは苦笑した。 「当たり前でしょ。先生たちから聞いてたわよ。私だって学校にたまにいってるんだから」  リアも料理上手な腕を買われて月に何度かある学校での昼食会の食事の準備でカレブを手伝っていた。 「姉さん、僕のことに興味がないと思ってた」 「弟のことが興味がないわけないでしょ。昔は暇さえあれば私にまとわりついてきたのに。でも最近のあんたはすっかり大人びちゃって、沢山勉強して、私のことなんてどうせ学もないやつって小ばかにしているから話もしてくれないんだと思ってた」  そういって笑った顔は少し歪んだ哀し気な顔で、いつも明るく自信満々な姉がそんな風に感じていた姉の気持ちを知ってヴィオは驚いてしまった。 「そんなわけないでしょ。僕たち里の中ではもうたった二人の姉弟なんだよ……。姉さんのことそんな風に思うはずないよ。ただ僕は、学校に行ってやりたいこととか考えたいこととか沢山沢山できて……」 「わかってるわよ。あんたの世界が広がったから、あんたの中の私はそれだけ小さくなったってことだわ」  本当にそうなんだろうか。  世界が広がると大切な人が小さくなるなんてことあるのだろうか。頭の中で占めている時間は減っても、大切な人は大切な人のままだ。だけどその時ヴィオは上手い言葉が思いつかなくて言えなかった。  いつもそう。肝心な時は言葉が詰まって、ちっぽけで泣き虫のヴィオに戻ってしまうのだ。それが歯がゆくて、久しぶりに瞼が目がしらが熱くなってしまった。 「姉さん、馬鹿にしないで聞いてくれる? できれば反対もしないで聞いて欲しいんだ」  姉は頷きもせずただじっと弟の瞳を見つめ返してきた。面差しはよく似た姉弟と言われてきたが、やっぱりリアの方が逞しくて強いとヴィオは感じる。 「僕は、このまま、この街に残るよ。それでまず仕事を探して働きながら学校にいってみる。ずっと僕らの学校を支援してくれていた、全国社会的少数者支援教師協会にいって、ジブリール様と連絡を取らせてもらってくる。僕、中央の看護学校に入りたくて、その推薦書を先生がジブリール様にお願いしていて、その合否がそろそろ家に届くと思うんだ。もしくは学校に……。でも先にこっちに来ちゃったから直接聞きに行くつもりなんだ」 「そっか……、やっぱりヴィオは里をでていくつもりなんだ。カイ兄さんのことはどうするの?」  ヴィオはぎゅっと握っていた封筒に目をやった。そしてその中身を取り出す。それぞれのバース性がかかれているということをぬいたら、ただの紙切れ。しかしその価値は重たい。一枚にはベータであると書かれ今まで通りの生活スタイルを続けてよいとの記載が、もう一枚にはオメガであること書かれていて日常生活の注意事項などが細かく記載されていた。  リアと二人でまた無言になってそれを覗き込んでいると、不意にリアの瞳が急にいつものように力強い煌きを増し、何かを見つけたようにつぶやいた。 「……ヴィオみて。この紙。名前の記載がないわ」 「それがどうしたの?」  多分誰にでも配れるように大量に摺られたそれには、名前の記載がないのだ。  封筒の方にだけ二人の名前が書いてある。  リアは無言でベータの方の紙を抜き取り、手早く畳んでヴィオの手の中に押し込んできた。 「ヴィオ、あんたこっちをもっていって。私はこっちを持っていくから」 「姉さん?」 「ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないけど。私がオメガだったってことにして、カイ兄さんと里に帰るから。先生の話じゃ、どうせすぐに発情期がくるわけじゃないんでしょ? ……あんたはこっちで仕事を見つけて学校に通って。それでセラフィン先生にあったら……。項噛んでもらいなさい」 「ええ!? 何言ってるの? 姉さん」  姉のリアの思いがけない提案にヴィオは動悸が止まらず、手の中の紙切れを再び握りしめてしまったのだ。 「私の目が誤魔化せると思ってるの? あんたのあの先生への執着、会った瞬間から好き好きってあんなに普通傾倒する? あんたやっぱりオメガで、あの先生はきっと絶対アルファでしょ」 「違う、僕は先生が僕を助けてくれて、勉強することの楽しさを教えてくれて、恩人だから……」 「そうかしら。ただそれだけなはずないわ。先生の話をする時のあんた。幼くっても、いつも色っぽい顔してた。まるで雌って感じのね」

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