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第52話 仁の心の意図
ベランダに出ると、
急に突風が吹いた。
「ヒャア!」
と、猫がビックリしたような裏返った声を上げて、
リビングに続く窓ガラスによろめいてぶつかった。
高層階のベランダでは割とある事だが、
頭が回っていなかった僕は、
不意打ちをつかれた様に凪出されてしまった。
部屋の中を未だ這いずり回っていた仁が、
その音を聞きつけてビックリして飛んできた。
「何だ?! ぶつかったような
大きな音がしたけど大丈夫か?!」
僕は、頭の後ろを摩りながら、
涙目で仁を見つめた。
思ったよりも強く頭をぶつけたようで、
目から火花が散ったようになって
その場にしゃがみ込んだ。
「ごめん、風に殴られてチョットよろめいた隙に
窓ガラスで頭をぶつけただけなんだ」
そう言うと仁が床にしゃがみ込んだ僕を
悠々とお姫様抱っこすると、
リビングのソファーまで抱いて行ってくれた。
「何処をぶつけたんだ?」
そう言って僕の頭の後ろを指でなぞると、
僕の前身に鳥肌が立った。
それはゾワッと気持ち悪いと言う鳥肌では無く、
感動した音楽を聴いた時や、
予測していなかった感動する話を聞いた時の感覚に似ていた。
僕の鳥肌に仁は気付いたのか、
「スマン、気持ち悪かったか?!
そうだよな、好きなヤツが居るお前に
簡単に触るわけにはいかないな……」
仁は悲しそうな微笑みを僕に向けると、
スクッと立ってキッチンへと歩いて行った。
そして冷凍庫をゴソゴソとし始めると、
「アイスパックは無いのか?
お前の頭、
少しコブになってるから冷やしておいた方が
後々楽だぞ?」
そう言って冷凍庫のポケットに入っている
アイスパックを見つけると、
キッチンタオルを巻いて僕の所へ持ってきてくれた。
緊張で僕の心臓はバクバクと脈打っていたけど、
陣が僕の前に立つと、
勇気を持って仁の手を取った。
仁は目を白黒していたけど、
直ぐに僕の頭にアイスパックを当ててくれた。
心拍数と一緒に頭の血管も強く脈打っている様で、
初めて鼓動と主にそこに痛みを感じた。
ジンジンと脈打つそこは
どれだけ僕が緊張しているかを
教えてくれている様だった。
陣の手を取った事に急に恥ずかしさを感じた僕は
恥ずかしさのあまり少し俯いて
「ありがとう……」
そうお礼を言った。
でも直ぐに仁をみあげると、
唾をごくりと飲み込んで、
一生懸命僕の気持ちを伝えた。
「僕は仁のことを気持ち悪いなんて思った事は一度もないから!
いつでも僕に触れても良いよって言うのは変だけど、
僕の事を気遣ってくれる時に変な気遣いはしなくても良いから!
どちらかと言うと、
仁に触れられるのは感動だから!
ジュン君の事は……本当に僕の片思いだから……
だから……彼の事は遠慮しなくても良いから!」
真剣な顔をしてそう言うと、
仁は大きな声で笑い出した。
「何? 何?
僕の日本語変だった?!」
本気で心配してそう言ったのに、
仁は少し俯いて、
「サンキュー」
と言っただけで、
仁の笑った意図は分からないままだった。
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