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「魔王様」

 オレはゆっくり立ち上がって、ユイカと向かい合った。 「分かんないっていうのは、どういうこと? 何でオレを、ここに……?」 「私、頼まれたから、ソラを連れに行ったの」 「頼まれたって、誰に?」 「……魔王さま」 「――――……」  予想はしてた。この世界で、そんなことする、こんなところに住んでる誰かって……そうかなって。でも実際に聞くと、衝撃だった。 「えっと……魔王は……何で、オレを?」 「それが分かんないの。何でだろうね? 魔王さまが人間に興味持つなんて、無いのに」 「――――」  興味持たれたの?? 何で?  ユイカは特に悪びれる様子もなくて、しかも、なんか、魔王の部下と言うには、なんか……怖い感じが全然しないというか。  とりあえずそれは、ありがたかった。ちょっと話を聞いておこうと思って、でもなんだか変にドキドキしながら、ユイカを見つめた。 「あのさ……」 「うん?」 「魔王って……人間、食べる?」  そう言ったら、びっくりした顔をして、それから、ユイカは笑った。 「食べないから、安心して?」 「……あ、そう」  良かった。この世界に来た時に洞窟で会ったデカいモンスターバージョンの魔王は、正直、なんでも食べちゃいそうだった。 「ここに居る、魔王って、人間の形、してる?」 「うん。……ていうか、私、それしか見たこと無いけど。ソラは、変身した姿、見たことあるの?」 「うん。ある」  テレビで。ゲームで、倒そうとしてたし……ルカ達と初めて会った時、その形だったし。怖かったなあ……。 「あのさ……オレを、ルカのところに帰せるの? ユイカは、魔法、使えるんだよね?」 「うん、帰せるよ。ただ、魔王様が、良いって言わないと無理なんだけど」 「…………」  魔王。  え、もう何でだよー? オレになんの用……?? 「魔王って、なんの用がオレに……?」 「あのね、ソラ。――魔王様って言った方がいいよ、絶対!」 「……魔王、様……」  ルカのことすら、様つけたことないのに、なぜ魔王に様をー!!?  心の中の葛藤はあれど。 「食べられないけど、殺されちゃっても知らないよ?」 「――――……」 「多分ソラなんて、一秒で、死んじゃうよ」  ちーん。 「魔王様で行く」  さらっと呼べちゃうオレ。  いや、だって、ルカ達に会わないで死ぬなんて、絶対やだもん……! 「ソラは、王子のところに帰りたいの?」 「うん。帰りたい。帰してくれる?」 「だから……魔王さまの許可が出たらね?」  ……魔王さまの許可。  つか、オレになんの用だよ!! 早く出てきて、しゃべって、そしてオレをルカのもとに……!  と思ったけど、出てこられて喋るとか、無理かもしれない。  覚えてる。  魔王の、人間バージョンの姿。  銀の長い髪。黒い服と、魔法陣が刺繍されたマント。デカい魔法の杖みたいなのを持ってた。イケメンだったけど。やっぱり、ラスボス。邪悪な感じの、性格悪そうな笑顔、だったような。あっ、あれだ、不良漫画の敵番長みたいな感じ……?   ちょっと待てよ、全然会いたくないんですけど。  なんでオレと会いたいの。 「今私がここに来る前、魔王様は部下の人達と話してたから、多分まだしばらくは来れないよ」 「ユイカの大事な人って……」 「魔王様。決まってる」  ふふ、と笑う無邪気な感じ。  この子って、魔物に見えないんだけど……?   あ、でも魔王があんな感じだから、人型なのかな。ってことはこの子も、もしかして、魔物型はあんな感じ……? 急にぞっとする。なるべく怒らせないようにしようっと。と、ちらっと思うけど、やっぱり、なんかすごく人間ぽいなあと思う方が強い。  何にしても、この子がその気になってくれたら、ルカの元に帰れるっていうのは、ありがたい情報な気はする。

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