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黒鳥の湖 35
腕を掴む手の熱さに身が竦んだ。
今まで幾度も教えられてきたことだし、自身で何度も想像をした。
けれど、覆い被さってくる熱はオレが想像していたものよりも更に熱いものだった。
カシ と歯が当たって首のガードが音を立て、その度に胸の底の方からゾワゾワとしたものが駆け上がってくる。
時宝が……αが、オレを……Ωを欲しがっているんだって思うと、胸に縋りついて嬉しくて泣き出してしまいそうだった。
性急に足を左右に割られ、熱い軌跡を残す掌が探るように太腿を撫で上げてあっと言う間に双丘の奥に到達する、そうすると時宝に触れられるのを待ち望んでいたのか、いつの間にか綻んでいたソコがこぽりと蜜を滴らせる。
その瞬間、時宝は戸惑ったかのように低い呻き声を上げ、オレの上で体を小さく縮込めた。
獣のように低い唸りが皮膚のすぐ傍で鳴る。
「 っ あ、の、旦那 様?」
まだ触れられてもいないのにぬめりを示してしまったせいで、はしたないと思われたのだろうか?
淫乱だと思われたのだろうかと、軽く触れられただけでぴんと主張を始めてしまっている胸を押さえて唇を噛む。
「す、すみませんっ こんな 見苦しくて……」
「 っ、ちが 」
「 でも、オレっ嬉しくて 」
「嬉しい?」と繰り返す時宝は熱に浮かされているように感じさせる。
「旦那様 と、こうやって ひぁっ」
急にちゅうっと胸に吸い付かれて跳ねた体を力強く抱きしめられて、またも言葉が途切れてしまった。
けれど、ど ど と大きく脈打つ心臓の音が触れ合った箇所から響いてきて、その振動を感じて心が震える。
時宝が、オレを抱き締めている と、
「なんなんだ……なんだ、いったい 」
譫言のようなそれはオレに聞かせているよりも自問自答で、答えを返せないまま不安に苛まれてその胸に縋りつく。
「どうされました?具合でも……」
「なんでだ、 どうして」
耳元ですんすんと繰り返し匂いを嗅がれると、羞恥心のせいかかぁっと顔に血が集まるのを感じた。
「どうしてお前を 愛しい なんて、思うんだ 」
折れてしまいそうなほどきつく抱きしめられて、苦しさを感じると同時に時宝の言葉を聞いて目が回りそうだった。
それは抱き締められた嬉しさと、時宝が蛤貝を愛しいと言ったことによる落胆で……
今、愛でられているのはオレだけれども、
時宝が愛でているのは、オレじゃない、
先程まで時宝の熱を受けて蕩け始めていた体が、冷えて強張ったのが自分でわかった。
もういつ発情期に入ってもおかしくないオレの体は、時宝に刺激されて受け入れようとしていたのに……
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