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旅立ち***1

 Ⅰ  遙か上空では一点の曇りもない澄んだ青が広がっている。  一頭の駱駝(ジャマル)に身を預けるマライカは一人、天を仰いだ。  頭上にはぎらつく太陽が今にもこの地を焦がさんとばかりにその雄々しさと威厳を誇示している。  季節は7月。マライカが住んでいるこの地域は猛暑が続いている。この時期から8月にかけては平均気温が38度と高く、最高気温は47度を超える。――とはいえ、標高が高い山脈にもなると気温はぐっと下がる。1月から2月にかけては最低気温が10度とかなり低く、過ごしづらい。  ここは広大な大陸が連なった南西にある国。アルシャ湾とメルダ湾に面した、アブリヴィアン。  アブリヴィアンはアルシャ湾の南岸700キロメートルにわたって海岸線を持ち、最大の天然港を持つ。メルダ湾もまた、北岸500キロという巨大な海岸線である。しかしジェルテンと呼ばれる山脈が隣国を隔ててそびえ立っているため、山脈をかいくぐり、小さな海岸がいくつかできる程度になっていた。このため、メルダ湾はアルシャ湾ほど大きな貿易港ではない。  とはいうものの、これらふたつの海岸線がアブリヴィアン大陸に集まるのは世界各国といえどもこの地域だけだ。おかげでアブリヴィアン国は貿易国としてたいへん栄えていた。

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