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第3話 シゲさん1

 これは突然の出来事だった。  湊音のスマホにいきなり着信がなった。剣道の指導を終えた湊音はその足で秋にできる市の施設の研修に向かうところであった。着信と同時にメールも届いていた。  まずは着信を優先せねばと名前を確認すると李仁であった。  李仁は湊音のスケジュールを知っていて、電話よりもメールで連絡するはずなのだが。 「もしもし、李仁? どしたの……なんかあった、それとも僕が恋しくなったー?」  と周りに人がいないことを確認しつつ冗談を言うが電話先の李仁はその冗談にならない。いつもなら違うわよーって言い返すのであろうと思っていた湊音だが滑ったと少し恥ずかしくなったが、その後も続く沈黙、そして鼻を啜る音。それで湊音は何かを察した。 「……李仁……どしたっ、なんかあったんか」  湊音は立ち止まった。そう言っても返事がない。 「今どこに……て、うちだよな」 『ミナくん……ミナくん……っ』 「李仁、なんかあったんか?」 『……シゲさん……』  シゲさん……李仁の元彼で湊音もお世話になってるスーツテーラーの真津重三《まつしげぞう》のことだ。  正月の次の日に彼のマンション先でお年賀のワインを二人で持って行ったことを湊音は思い出した。  またワインを楽しく一緒に味わえるといいね、と。  湊音は電話先の李仁の声を聞いてゾワッとした。まだ何も伝えられてないのに。 『シゲさんが死んだって……』  電話先の李仁はその言葉を最後にずっと泣き続けている。  李仁は滅多に泣かない。どちらかと言うと湊音のほうがよく泣く。湊音は放心状態でその場に立ち尽くすが今はそんな場合ではないと思い駆け出す。 「李仁、待ってて! 今すぐ帰るから!」  自転車に乗ってすぐ家路に急いだ。湊音自身も長年シゲさんにスーツを作ってもらい、お世話にもなった。そのことを思うと気持ちが込み上げるが1番辛いのはシゲさんと付き合っていた李仁である。いくら別れて湊音と家族になってもシゲさんは大切な人である。  懸命に漕いで込み上げてくる気持ちを掻き消す。  そしてマンションにつき部屋に戻り李仁の元に走る。 「李仁っ!!!」  するとリビングで喪服の前に立っている李仁がいた。 「おかえり、ミナくん」  電話先とは違ってケロッとしてるようだが目のまわりが赤い。  息を切らして湊音は李仁に抱きつく。すると同時に李仁は声をあげて泣いた。  用意していた喪服はシゲさんが仕立てたものである。

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