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第8話

 昨日と同じ時刻、同じ場所に優希を見つけて、要人はひとまず安心した。  返事どころか、ここに来てくれないかもしれない、とも考えていたのだ。  逃げられるより、ずっとよかった。  たとえ、いい返事が聞けないにしても。 「昨日の返事、だけど」  要人がそう切り出すと、優希の肩が震えた。 (ごめん、優希)  きっと昨日は眠れなかったに違いない。  俺の言葉で心が乱れて、頭がいっぱいだったに違いない。  そして、優希の唇が動いた。 「要人、僕は」  待って、と要人は優希の言葉を遮った。 「聞くのが、怖い。これまで散々、言葉で別れを告げられてきたから」  そして要人は、両手を前に差し出した。 「もしOKなら、この手に触れて」  NOの場合はどうするか、を言わない要人。  ずるいぞ、要人。  それでも、魅入られたように腕が上がってゆく。  この手を払って、立ち去っても良し。  この手に触れて、握りしめても良し。  ギリギリまで、迷って震えて伸びてゆく優希の手。  ふと、顔を上げた。  要人の髭は、もうきれいに整うまで伸びていた。

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