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第3話

薄暗く静寂に包まれた部屋。 整理の行き届いた綺麗な部屋だが、ベッド付近にはその部屋には似合わない乱雑に脱ぎ捨てられた衣服が点々と散らばっている。 ♪~RRRR~♪ 空調の僅かな音だけに包まれていた部屋に、突然機械音が鳴り響く。 「…っ…」 ベッドにて、布団に包まり寝息をたてていたこの部屋の主人、神谷叶多は、響き渡る着信音に不快感から眉間に皺が寄っていく。 ♪~RRRR~♪ 「っ、あ~っ!うっせーなっ!!おぃっ、旬っ!携帯っ!」 一向に鳴り止む気配のない音に我慢の限界に達し、隣りですやすやと寝息を立てる旬の肩を強めに揺すった。 「ぅぁ?なに…?」 「何じゃねーよっ。携帯っ!うるせーから何とかしろよっ」 あれだけ長い間うるさく鳴り響いていたというのに、全く気付かず寝ていられる旬の神経に呆れる。 叶多は未だ呼び出し音を響かせたままの旬の携帯を、業と彼の耳元に投げ落とした。 「~っ、ぁ~っ、もぉ~っ。うっせーな~っ。誰だよこんな時間に~」 流石に、というか漸く音の煩わしさを実感した旬は、起こされた不快感と相まって、不機嫌を露に携帯を手に取った。 「つかマナーにしとけって、っ!?んぐっ!?」 しかし不機嫌なのは彼だけではない。 安眠を妨害されたのは叶多とて同じで、確かにこんな夜中に電話をしてくる相手が1番の非常識だが、旬とて人と会っていてしかも寝る時に、何故音を出さない気遣いが出来ないのだと叶多は思う。 なんの為のマナーモードだと言ってやろうとした所で、何故か叶多の口が塞がれた。 「し~っ!」 「?!」 は?!なんで?? という疑問が叶多の頭を埋めつくす。 「もしも~し。どうした?ん?いや、寝てないよ。大丈夫大丈夫~」 先程までの悪態は何処へやら。 まるで別人の様に明るく弾む声で電話に出る旬に、空いた口が塞がらない。 「うん、斗真は?仕事?そっか、お疲れ様~」 しかし旬が相手の名前を口にした瞬間、叶多は自分の口を塞がれた理由も、意気揚々と言葉を交わしている旬の態度もどちらも理解させられた。 が、納得出来る訳ではない。 叶多は苦虫を噛み潰したような表情で、軽く溜息を吐くと物音を立てぬようキッチンの方に向かった。 叶多は冷蔵庫から取ったミネラルウォーターで、乾燥した口内をうるわした。 見たくなくとも見えてくる旬の姿。 1LDKの間取りな以上、キッチンに移動した所でその楽しそうな顔や声を捉えてしまう。 叶多と旬は所謂恋人関係にある。 しかし旬の1番好きな相手は叶多ではない。 自分は2番目。それを解っていて叶多は旬と関係していた。 だから今回のような事はざらにある。 その度胸を締め付けられる思いを感じながらも、叶多は旬から離れられずにいた。 ダイニングチェアに座りぼんやりと叶多が思い浸っていると、思いのほか近くで旬の声が聞こえはっとさせられる。 「え?ビッグニュース?」 いつの間にかこちらに来ていた旬が、叶多の手からペットボトルを奪い、よく冷えた水を口に含みながら言葉を発する。 『そうっ。加藤未來って覚えてる?』 近距離に旬がいる為、電話口から斗真の声が叶多にも伝わってくる。 「え?加藤未來?あぁ~、天才子役って言われてた?」 旬同様、叶多もその名前からかつてそう呼ばれ世間を賑わせていた子供を思いを浮かべた。 誰もが可愛いと称えずにはいられない天使の様な可愛らしい容姿に加え、ずば抜けて高い演技力。 天才の名前を欲しいままにしていた加藤未来という子供。 『そうそうっ。その子がね、なんとうちに入ったんだって~っ!凄くね~っ…?』

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