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第51話

レッスン日。 更衣室で着替えを終えた未来がスタジオに入ると、すぐに大和が声をかけた。   「み~らいっ、ドラマすげー好評じゃんか」 「え、あ、ありがとうございます」 大和に笑顔を向けながら、未来は大和の言うように各方面から賛辞を貰えているドラマに、そこそこ満足していた。 そしてそれは勿論自分の出演が大きいと未来は思う。 可愛くて才能があり、それに加えて視聴率もとれてしまう天才子役。 こんな全てを兼ね備えてる自分の事を、蔑ろにする人なんてまずいないと、未来は先日の優香の台詞を思い出しながら思っていると 「ってかさぁ~、本当に未來にぴったりだよね~、大輝の役柄って」 「だよな。純粋で無垢で素直な所が本当に合ってる」 「そうですか?ありがとうございます」 純粋で無垢で素直。 そう自分を表現した蒼真と大和に、未来は内心で苦笑う。 素直はいいとして、自分はそんな皆が思うほど純粋でも無垢でもないんだけどなと思う。 がしかし、それが自分の周りからのイメージで、そんな自分を皆が好きならば、このイメージを壊さないように守り続けさえすれば大概の事は許される。 ちやほやされる様に自分がそう演じてさえいればいいだけの話だと、未来はそう思った。 ※※※ 「でもそれって疲れない?だって自分を偽ってるって事でしょ?しかも身内にまで」 撮影の待ち時間。 スタジオ撮影の今日、斗亜と共に未来は自分の控え室にて寛いでいた。 二人がけのソファーに寄り添いながら座り、暇つぶしに話していた未来の自論に対し、斗亜はそう言って柔らかく笑った。 「別に疲れないよ。それに身内って言ったって先輩だからね。どっちにしろ素では接せれないでしょ?」 「まぁ、そうかもしれないけど…」 確かに未来の言い分も分からないではないが、そこまでしなくてもと斗亜は思う。   「ってかそうする事で僕に利があるんだから、多少疲れたとしてもしといた方が楽出来るし、そういう疲れはきっと友達が癒してくれると思うし?」 そう言って、未来はニヤリと悪戯な笑みをしたのち、斗亜の肩にその身を預けた。 「わぉ、そう来る?まぁ勿論癒してあげるけどね」 「ありがと、斗亜君」 クスクス笑いあいながら、お互いの体温を味わうように二人は抱き合った。   「だけど未來は上手いね。人に甘えるのが。それに頭もいいし、勘違いしそうになっちゃうよ。僕が君の特別だって」 さらさらと指通りの良い未来の髪に、斗亜は指を絡めながらそう言った。   「何それ。何言ってるの?勘違いじゃなくて斗亜君は僕の特別だよ?だって僕は本当に好きな人としか友達にならないし、友達以外に本心は打ち明けないから。因みに今のとこその友達は日本では斗亜君と琉空だけ」 ほら、特別じゃない? と、小首を傾げ言う未来は、斗亜には凶悪に可愛く見えてしまう。 「そう、だね。ありがとう。君にそう思ってもら得て嬉しいよ。じゃぁこれからも君の特別でいれるよう努力するね」 友達、という所が引っかかってしまうが、しかし付き合う事に興味のない斗亜は、とりあえずそれはいいとするかと思う。   「あははは、従順だね。ってか本当僕の事大好きだね、斗亜君って」 「うん、大好きだよ」 ケラケラと甘いムードとは程遠い笑い声を出す、まだ幼い未来の首筋に顔を埋めながら、斗亜はそう囁くように言った。 本当に大好きだ。 未来は斗亜の初恋だった。 未来を初めてTVで見た時に斗亜は未来に恋をした。 凄く可愛いその姿に目を奪われて、自分より小さいのに仕事をしているなんて、純粋に凄いなと感心した。 俳優という仕事に斗亜が興味を持ったのは、未来ががいたからだった。 単純に斗亜は未来に憧れていた。 だから未来に近づきたくて、未来に会いたくて斗亜は芸能界に入った。 だがそこにはもう未来はいなかった。 未来のいない芸能界で、しかし斗亜は未来に会えると信じていた。 だから未来に会った時に恥ずかしくない役者でいよう、天才子役と言われた未来に認めてもらえる様な役者になっていようと努力してきた。 そしてついに夢は叶った。 本物の未来は斗亜の想像以上に可愛くて綺麗で、だけど自分など全く眼中になかった。 未来の気を引くために斗亜は必死だった。 他の子達なんかと一緒にされたくなかった。 未来に自分を見てほしかった。 雲の上の存在だった未来が、今こうやって自分の腕の中にいるように、自分だけを見て欲しかった。 この現実が斗亜にとってどれだけ夢のような事かなど、未来に伝える気はさらさらなかった。 だけど願わくば、友達で十分だからこれからも、このドラマが終わっても未来の傍にいさせて欲しい。 自分を未来の特別な一人でいさせてほしいと、そう斗亜は未来を抱きしめながら思った。

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