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第16話2.アルカシス、彰を古参王と対面させる。

カラマーゾフはアルカシスから視線を外し、彼の背後にいる5人に向けた。5人に緊張が走る。  カラマーゾフの魔力は淫魔王達の中でも最強だ。簡単に組み敷かれるのは目に見えている。 「アルカシス。君のペットを味見させてくれないというのなら、彼等のうちの誰かには私の食料になってもらうよ。最近小腹が空いて仕方ないんだ」  座ったままカラマーゾフは5人を品定めするように視線を泳がせる。すると、黙っていたアルカシスがスッと椅子から立ち上がった。 「主上っ」  グレゴリーが焦った様子でアルカシスを呼んだ。他の4人も、アルカシスが立ち上がった事で戦闘態勢を取る。 「皆、魔力を鎮めなさい。今は会談中だ。争いは私の好むところじゃない」 「でも主上!ショウはっ」  ユリアンが焦ったようにアルカシスに尋ねる。アルカシスは、そんな彼の頭に手を置いて大丈夫だと言った。 「心配するな、ユリアン。君達はカラマーゾフ王の部下達を客室に案内しなさい。ここからは、カラマーゾフ王には私が同伴申し上げる」  アルカシスの言葉に5人は押し黙った。自分達の判断で争えば、アルカシスに罰を受ける。現在のように他国王が来訪中に、戦闘が発生しようものなら重責が課せられる。会談中の戦闘はご法度だからだ。  察した彼の秘書のグレゴリーはアルカシスに恭しく頭を下げた。続けて他の4人も頭を下げた。 「承知致しました。では、ご用があればお呼びください」 *   *   *  アルカシスの淫魔城は艶やかさはなく、シックな雰囲気だ。廊下の灯りを灯すランプは品があり、床には濃淡な赤ワイン色の絨毯が敷かれている。この回廊は全体的に会談を行った部屋と違い、空間に歪みを感じる。アルカシスがこの回廊にまで結界を張っているのだ。  会談当初、彼の言った『鳥籠』という表現に言い得て妙だとカラマーゾフは思った。だがこれは過剰ではともカラマーゾフは思い、アルカシスに言った。 「部屋に張るなら分かるが、廊下までとは警戒心が強いな。そんなにペットに逃げられるのが怖いのか?」 「あれは無力な人間です。ペットの防犯も主の義務ではありませんか?」  主の義務。  かつての弟子の言葉に、カラマーゾフは含み笑いを浮かべた。  なぜなのか。今の彼から、かつて彼を手に入れた頃の自分と被るようだとカラマーゾフは思った。 「防犯とは殊勝な。それなら尚の事、そのペットの味を確かめなくてはいけないな」  それほど日本人の精気は美味いのかと楽しみが増す。  カラマーゾフの言葉にアルカシスは何も言わず、両扉がある部屋の前に止まると、ドアノブに手を付けて扉を開いた。 そこには、窓から大きな雨音と雷雨を聞く彰の姿があった。 *   *   * 「アルカシス様・・・」  扉が開き、振り返った彰はアルカシスともう一人の壮年の男性に彰は目を見開く。 「その人、は?」  アルカシスの隣の男性は、彰の姿に驚いて固まっている。彼も彰と会うのは始めてのはずだが、信じられないと表情が訴えている。 「何という芳しい精気の香りだ。まるで熟れた果実そのものではないか」  カラマーゾフは、驚きながらもアルカシスと彰を交互に見ると、窓にいる彰に近づいた。彰は知らない壮年の男性が近づくと、驚いて窓から離れた。 「待ちなさい。君には何もしない」 「やっ、やだっ」 「ショウ、止まりなさい」  カラマーゾフを見て反射的に離れようとした彰を、アルカシスは逃がさないと羽交い締めにした。 「アルカシス様っ、こっ、怖いです」 「心配いらない。カラマーゾフ王に顔を見せるだけでいい」 アルカシスに羽交い締めにされ、目の前には顔も知らない壮年の男性。何をされるのかと、彰は彼の腕の中で震えた。 「不安にならなくていい。少しだけ精気を頂くだけだ」  カラマーゾフは彰の頭を固定すると、彰の唇を覆うようにキスをする。彼の暖かくて厚い舌が彰の口腔内に侵入して、歯列と歯茎を丁寧に舐めていく。 「ふっ、ふぅん・・・」  チュパ、チュ、チュ、チュ  カラマーゾフはキスの角度を変えて、彰の口腔内を堪能する。彰の舌と絡め、唾液を流し込み、自身の唾液と絡ませて吸い取っていく。  それを繰り返し行い、彰の全身の力が抜けて自失したところを見計らい、カラマーゾフは彰の唇から離れた。  すると壮年の姿だった彼の姿が、アルカシスと見た目が変わらない青年の姿まで変化した。 「やはりそうだったか」 「アルカシス、君気づいたのか」  アルカシスは自失した彰をベッドへ寝かせると、カラマーゾフに向き合った。 「会談の壮年の姿は擬態かと思いましたが、貴方と話していくうち、やはりと確信したのですよ。カラマーゾフ王、貴方に死期が迫っているのですね?」

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