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小学二年生

 彼はいつだって、僕のヒーローだった。  今では教室の一番後ろ、窓側の席で外を見つめている、少し暗くて話しかけにくい人かもしれない。ほとんど話すこともなくなって、目だって合わせてくれなくなってしまった。でも、今でも彼は僕のヒーローだ。いつだって一緒にいて、いつだって僕を助けてくれた、たったひとりの、僕のヒーロー。  始まりは鮮明に覚えている。小学二年生のときだ。あの日も僕はいつも通りクラスメイトに馬鹿にされていた。デブだの、ブスだの、言われ始めて数週間経ったある日だった。  食べるのが好きだった僕は、毎日のようにたくさんご飯を食べていた。けど、本当の理由はそんなものじゃなかったのかもしれない――ストレス。どっちが先かと言われれば難しいところだけど、馬鹿にされるようになってからさらに食べる量が増えたのは確かだった。どれだけ辛くても苦しくても、そんな言葉を跳ね返すための肉をつけ続けた。 「おいデブ、早くしろよ」  いつもだったら登下校中やトイレにいるときなど、僕がひとりでいるところを狙って攻撃をしてきていたのが、その日は違った。薄らとクラスに「太田(おおた)は、いじめてもいいんだ」という認識が広まり始めたのに気付いたのか、主犯は教室内で僕を突き飛ばしながらそう言った。これを機にクラス全体で僕をおもちゃにしようと思ったのだろう。意地悪く笑っているそいつの顔が見えた。教室内の心配そうな視線の中に、クスクスという笑いが広がっていく。  どうせ僕はそんな立場だろうと、嫌がらせが始まって数日で気付いていたし、ここで反論したっていじめっ子たちに勝てっこないことも知っていた。だから倒れたそのままの格好で震えていた。涙だけは流さないと、口内を噛んで耐えていた。 「――やめろよ」  だからこんな言葉が教室を静かにするだなんて思ってもみなかったのだ。 「太田が、いやがってる」  パッと顔を上げて見ると、そこには僕をかばうように両手を広げた英雄(ひでお)くんがいた。そのときまでは、一言も話したことのない、ただ同じ教室で授業を受けているだけのクラスメイトだと思っていた英雄くん。その姿は、いつもテレビの向こう側に見るヒーローそのものだった。 「な、なんだよひでお」  怯んだいじめっ子を、英雄くんは何もせず、まっすぐに見つめ続けた。悪を貫くような、正義の光を宿した綺麗な瞳だった――

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