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プロローグ

   オレの愛した男は ── 生きているのだろ  うか。       それとも ── 死んだのだろうか。  ── それすらも、わからない。 **  少しの陽も透さない水の底で ── 何かが揺らめいているのが見えた。近づくと、それは人間だった。それも、一糸纏わぬ姿の。  裸体は、それ自体が発光しているかのように、鈍く輝いている。  ふたりの男は、生きてはいない。呼吸をしていない。  しかし、生きているかのように完全な肉体を持つ。そして、この世のものとは思えない、神々しいまでの美しさ。  ふたつの肉体は溶け合うように、互いの背に腕を回し密着していた。彼らは腰の辺りまで覆われた水草に繋ぎ留められたまま、自然の理に反した姿で、永遠に水底にいるのだろうか。  怖い。  でも、魅せられ、眼が離せない。  その時、異変は起きた。  生きてはいないものは、自ら動きはしない。それなのに。  繊細な顔と細い肢体をもつ男の目蓋が震え、そして、ゆっくりと開いていくのだ。  こちらを見る瞳は酷く挑戦的で、彼のその唇も少しずつ弧を描く。  やがて、水草で見えない足を爪先立ちさせたかのように、背の高い男の顔に、自らの顔を近づけ口づけする。  長い、長い時間。  それでも、眼だけは、ずっとこちらを見ている。 ( ……やめろ……っ )  そう叫ぼうとして口を開けた途端、ごぼっと水が入り込んできた。口からも鼻からも。  そうなってみて、自分が水中にいながら地上にいるように呼吸をしていたことに、今更気がつく。  苦しくて踠きながら見えたのは、激しく口づけを交わしながら、どろどろと溶けていくふたりの姿だった。

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