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起
広がる青空。太陽は高く、遠く。手を伸ばしても届かない光を、僕は今日も焦がれて見上げるだけ。
「危ない!」
突如、横合いから掛けられた声。振り向いた直後、目の前に星が散った。
「やっべ!」
「悪ぃ! 円谷 !」
痛 った……。
校庭でボール遊びをしていた同級生達の大暴投を脳天に食らったのだということは、数瞬後に気付いた。実はこれが初めてじゃない。
「また円谷? こないだも当たってなかった?」
「的がでかいからな。にしても、どんくさ」
周囲からそんな声が飛び交う。そう、僕は鈍臭い。
円谷 真澄 、高校二年生。身長百八十五センチ。背は高いのに、気は小さくて臆病。この無駄に人目を引く長身がコンプレックス。
運動神経皆無なのに、上背だけでスポーツが出来ると勘違いされることが多かった。去年の球技大会ではバスケのメンバーに選出されてしまい、大いにへっぽこっぷりを露呈して皆に迷惑を掛けてしまった。
周囲の期待の目が徐々に曇っていくのを見るのが辛くて、人と目を合わせられなくなった。今では、前髪を長く伸ばして、防護幕を張っている。
「大丈夫か? 円谷」
頭上から降ってきた声に、心臓が騒いだ。額を押さえて蹲る僕を気遣わしげに覗き込んできたのは、やっぱり香椎 くんだった。
「か、香椎く」
「おでこ、腫れてないか? 見せてみろよ」
香椎君の手が、僕の額に伸ばされた。前髪を掻き分けようとするその動きに、僕は慌てて顔を逸らしてしまう。
「だ、大丈夫! だから!」
そのまま、逃げるように駆け出した。香椎くんが僕を呼ぶ声を背に感じるも、立ち止まらず一直線に去る。
――ああ、また逃げちゃった。
去年から同じクラスなのに、ろくに彼と話せていない。香椎くんの方からああして話し掛けてくれているのに、いつも緊張して逃げてしまう。……本当にダメだなぁ、僕。
香椎 透 くん。サラサラの明るい茶髪。爽やかな好青年然とした端正な顔立ち。頭が良くて運動も出来て、おまけに優しくて。男女共に人気のあるクラスメイトだ。
そう、香椎くんは優しい。こんな僕のことも、いつも気に掛けてくれている。僕はそんな彼に、分不相応な恋をしている。――だけど。
この気持ちは、伝えるつもりはない。だってきっと、困らせるだけだから。いや、それどころかドン引きされるかもしれない。男同士なのに、恋なんて……気持ち悪いって、思われるかもしれない。
香椎くんにだけは、嫌われたくない。だから絶対に、この気持ちは秘密だ。僕はただ、前髪越しの世界、遠くから彼を見ていられるのなら……それだけでいい。
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