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イベント番外編 二人で迎えるクリスマス②
厚切りのローストビーフは肉汁たっぷりで、かけてあるグレービーソースと相性抜群だ。
人参のポタージュもほうれん草とエビのキッシュも並べられている食事すべてがプロの料理人が作ったような出来栄えだった。
「う~ん!美味しい……!こんな美味しい料理はじめてです!」
フォークに刺したローストビーフを大きく口を開けて頬張る。
食べた瞬間から目を細め幸せそうな顔をする楓の食べっぷりに桔梗は見とれていた。
「喜んでくれて良かった。ほら、楓の高校の入学式のお祝いで連れて行ったレストラン。あそこで食べたローストビーフに感動してただろう?」
「覚えててくださったんですね!……嬉しい。それに!桔梗様がこんなに料理が上手だなんて知りませんでした」
「あー……いや、その……。習ったんだ」
ポツリ、と耳を澄まさないと聞こえないほど小さな声で呟いた。
「え……?今、なんて」
「……『男の料理教室』調べて通ったんだ。二週間くらいだけどね。レストランには及ばないが家でもレストランデートの気分を味わってほしくて。いろいろ考えたけど少しでも楓と過ごしたかったんだよ」
恥ずかしそうに頭をかきながら笑う桔梗。
部屋に流れるクリスマスソングのBGM。赤とゴールドを基調としたクリスマス仕様のテーブルコーディネート、リビングに飾られた楓の身長ほどあるクリスマスツリー。
そのすべてが桔梗が用意したものだった。
ー-桔梗様、僕のために考えてくださったんだ……。
桔梗の優しさに胸がきゅうっと苦しくなるような感覚になる。
「桔梗様っ……!あ、ありがとうございます……。僕、こんなに幸せでいいんでしょうか」
「当たり前じゃないか。私も楓がいるから幸せだ。だから……いつも傍にいてくれるお礼にこれも受け取ってくれないかい?」
そう言いながら桔梗が取り出したのは赤い包装紙に包まれた細長い箱だった。
「あ、あけていいんですか……?」
楓の質問に答えるように桔梗は微笑みながらゆっくりと頷く。
受け取った箱にはゴールドのリボンが巻かれている。
それをゆっくりと解き包装紙を外す。
中にはベロア調の黒い箱が入っていて少し重みのある蓋をあけるとそこには腕時計が入っていた。
「桔梗様、これ……!」
ピンクゴールドの文字盤にダークブラウンのワニ革のベルトはシンプルながらも品のあるデザインだ。
桔梗は目をまん丸にして驚く楓の頭を優しく撫でる。
席を立ち楓の座る椅子の横で片膝をつくと楓の左腕に腕時計をつけ始めた。
「楓、これからの人生上手くいくときもいかない時もある。でも、忘れないで……。どんな時も必ず私がそばにいる。受験の時はこれを私だと思って着けてくれ」
バックルを優しく止め、手首を撫でる。
そのまま何度も愛おしむように撫でていると腕時計の上にポツリと雫が落ちてきた。
「桔梗様、僕焦ってました。ヒートと試験が被らないようにとか、ちゃんと合格できるのかなって不安でした。……でも、もう大丈夫。僕には桔梗様がいます!」
「うん、楓なら大丈夫。大丈夫だよ」
抱きしめながら頬に伝う涙を掬うように何度もキスを落とす。
体を小刻みに震わせながら泣いていた楓だが、しばらくすると桔梗の腕の中で次第に落ち着きを取り戻し始めた。
「楓、落ち着いた?」
「……。桔梗様、二時間しかダメなんでしょうか……?」
「え……?」
「出来ればこのまま今夜は一緒に……。僕をプレゼントしちゃだめですか?」
首や頬をほんのり赤く染めながら遠慮気味に桔梗のセーターの裾を引っ張る。
それと同時に桔梗にしかわからない楓のフェロモンがほのかに鼻腔をくすぐった。
「あの、はしたないですよね?ヒートまだなのに……ごめんなさい」
恥ずかしい、と顔を真っ赤にしながら両手で顔を隠す楓。
だが次の瞬間、楓は突然の浮遊感に驚きの声をあげた。
「えっ!うわぁ……!」
見ると桔梗が楓の膝裏と背中を両腕で持ち上げている。
「桔梗様……!降ろしてください!」
「楓、危ないからじっとしてて。もう私の理性もぎりぎりなんだ。これ以上煽るのは禁止」
楓のフェロモンにあてられたのか桔梗の息は荒く今すぐにでも襲い掛かりそうな勢いだ。
歩き出した二人は寝室までの道中なんどもキスを繰り返していたが、突然楓が何か思い出したかのように、あ!と叫んだ。
「あ、あの!ベッドにいっちゃたら言えなくなっちゃうかもだから先に言わせて!」
「ん?何を……?」
ドアノブに手をかけながら聞くと楓は満面の笑みで答えた。
「メリークリスマス、桔梗様!一緒にクリスマスを迎えることができて幸せです!」
その言葉に桔梗も笑顔で返すと楓の耳元で「メリークリスマス、楓」と囁いた。
クリスマスイブの夜、二人は幸福に包まれながら一夜を過ごしたのでした……。
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