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書籍化記念SS 花言葉②
「え……見ちゃだめだった? すごく上手に出来ているのに」
「それ、サプライズにしようと思ってたんです……」
「サプライズ……?もしかして私に?」
「はい。でも、まだ途中だったから見せれる物じゃないんです」
楓はサプライズを失敗したことにがっくりと項垂れ、両手で顔を隠した。
自分が集中すると周りが見えなくなったりすることはわかっていた。
それなのに事前に帰宅時間を聞いておかなかった自分のミスが悔しくてたまらない。
「桔梗さん、見なかったことにしてくれませんか……?」
顔を上げ、せめて完成するまでは見ないでほしい、と懇願する。
しかし、返ってきたのはにやっといたずらっ子のよう笑う桔梗の姿だった。
「なんで? もうサプライズ大成功だよ? ……そうだ、プレゼントっていうなら楓が刺繍をしている姿が見たいな」
桔梗はそう言うと返事も待たずに楓の隣に座った。
そして刺繍枠に入ったハンカチと針を楓に手渡した。
「僕が刺繍してる姿なんて何も面白くないですよ……?」
「私が好きだからいいんだ。昔を思い出すな……。まだ君が中学生の頃、制服姿のまま一緒に刺繍をしたね」
「はい、懐かしいです……」
「ね? だから作ってるの見たい」
桔梗は優しく微笑みながら楓の手を握った。
「わ、わかりました……」
結局、楓も桔梗の笑顔には弱いのだ。
楓は見られている緊張感をほぐすように大きく深呼吸をすると刺繍に取り掛かった。
ー---
「楓の花の刺繍は綺麗だな。そういえば他のデザイン見たことがないけど、やらないのか?」
「技術もセンスもあるのに」と桔梗は楓の肩にもたれかかりながら聞いた。
「うーん……。確かにあんまりやらないかも。お花と花言葉が好きだからどうしても花のデザインが多いです」
「花言葉?」
「はい、昔図書館で花の図鑑を借りたときに、一緒に「美しい花言葉」っていう本も借りたんです。お花って、同じ花でも色や本数によって花言葉が変わるんですよ?それが凄く興味深くて」
当時、中学生だった楓にとってその本は運命の出会いだった。
あの頃、桔梗に思いを告げるなんて無理だと思っていた。それでも溢れてしまいそうになる想いをどうにかしなければと思っていた楓は「桔梗に対する想い」に合う花言葉を見つけてはその花を刺繍していた。
「この間は小梅のスタイに『梅の花』の刺繍をしてたよね?梅の花の花言葉は?」
「梅の花言葉は『高潔』『忠実』とか。西洋の花言葉では『美と長寿』」
「それは小梅にぴったりだ!あと、楓の花言葉は知っているよ。『調和』『美しい変化』だろう?」
「年々美しくなっていく楓そのものだな……」桔梗の声がだんだんと小さくなっていく。
だいぶ疲れているのか眠そうに楓の肩に何度も頬を擦りつけている。
楓は眠そうな桔梗に振動を与えないようにとゆっくりゆっくり刺繍を進めた。
「僕は『桔梗』の花言葉が大好きです。『永遠の愛』『気品』『誠実』……。どれも桔梗さんの為にある言葉みたい」
「ふふ、確かに『永遠の愛』はその通りだ。楓に対する愛は永遠だから……。それで、今作っているのは?」
「これは『プリムラ』っていう花です。いろんな色の花を刺繍してみたんです」
途中まで出来た刺繍を広げて見せた。
桔梗はもう眠気の限界なのか何度も目を瞬きさせながら楓の刺繍を眺めている。
ー-桔梗さん、疲れてるならベッドで寝たほうがいいのに……。
そう思うのに桔梗に言えないでいるのは、楓自身が肩に感じる愛しい重みをもっと感じていたいからだ。
「可愛い花だ。……それで、花言葉はなんだい?」
「え、っと、和名の花言葉もあるんですけど。僕は西洋の花言葉のほうが好きで……。僕が桔梗さんに出会った時から今でもずっと思っている言葉です」
「えー……気になるな……」
だんだん離すスピードがゆっくりになり、最後のほうはほとんど聞こえないほどの小さな声になっている。
そしてそのあとすぐに、「スースー……」と柔らかい寝息。
ー-やっぱり、お疲れだったんだ……。
楓は腕を伸ばすとソファに掛けてあったブランケットを引っ張ると桔梗の体にかけた。
自分の肩で安心しきって眠る桔梗の姿が愛おしくてしょうがない。
「完成したら言うから……。それまでもう少し待っててね」
楓は起こさないように桔梗の髪の毛にそっとキスをした。
end
プリメラの西洋の花言葉
I can’t live without youあなたなしでは生きられない
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