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トドメを刺してと君は言う【前編】 10

「うーわ…噂に違わぬ美少年……お人形かよ……てか、やっぱ美少女に見えるな…?ちっちゃくてかわいい~…」 「だよなぁ…このビジュアルで常務一撃だぜ?」 「あはははっ!!マジ!?いやぁ…常務若い子好きだし、とんでもねー面食いだからなぁ…そりゃ声かけられるわ……」 「にしても会社のロビーでナンパするか?ぶん殴るとこだったわ」 「おっ前この子に関してだけは気性荒くなるねぇ…」 「うるせーよ!」 2人の会話に全く入り込む隙がなくて、ビクビクしながら見守っていると、バッと目の前に手が差し出された。 恐る恐るその手を握り返すと、ニコッと笑ってくれて…少し安心した。 「どーも、日下部 暁人くんだよね?俺、和倉 恭介(わくらきょうすけ)!爽の同期なんだけど…聞いてない?」 「あの…き、聞いてないです…」 「ええっ!!?聞いてないのぉ!!?」 「誰も言わねーよ…お前のことなんて」 「ブハッ!!!おいひでーな爽!俺お前の親友だぞ!!?普通一言くらい…」 「は?いつから俺とお前が親友になったんだよ許可してねーぞ」 「エエーーーーッ!!?俺たち親友じゃないのぉ!!!?じゃあなにぃ!!?友達!!!?」 「え?……あー…たまたま同じ会社の…知人A?」 「ブフォァ!!!言い方ほぼ他人じゃん!!!!」 「…うるっさ」 キーキー騒ぐ和倉さんに呆然としてしまう。 明るくて、とても楽しい人のようだ。ポンポンっと頭を撫でてくれる手が優しくて、それだけでいい人なんだとすぐにわかった。 「あの…、和倉さん…!」 「……んー…いや、恭ちゃんって呼んで?」 「えっ?」 「……暁人に恭ちゃんって呼ばれたらすっげー萌えそうな気するー!」 「オイ、恭介!!お前勝手にあきのこと呼び捨てにしてる上に呼び方まで指定すんのかよ!?しかも無断で萌えんな!!!俺のあきに!!!」 「あははははははっ!!!爽めんどくせぇ~!!さぁ、ほら、恭ちゃんって呼んでみ?暁人」 「あ…あの……きょ、恭ちゃん……?」 顔に熱が集まるのを感じながら、俺がそう呟いた瞬間、目の前の大人2人が一斉に胸を押さえて膝をつく。 ……もしかしてこの2人……アホなの…? 「オイマジか……マジでかわいいぞこの子……声までかわいい!!!」 「だからマジだって言ってんだろ…この顔でこの声で…おまけに天然なんだぞ」 「…ロイヤルストレートフラッシュじゃねーか…!!」 「ねぇ、全く会話の内容わかんないんだけど……」 「「わかんなくていい!!」」 綺麗にハモる同期コンビに呆れてもう何も言えなくなってしまう。 「ところで暁人は何しにここまで来たの…?爽の職場見学??」 「あー、いえ…お弁当を届けに…」 「えっ!?あの美味そうなお弁当!!!?最近爽が毎日食べてるやつだよね!!?」 「あ…えっと、あの……そうです…!今朝、寝坊して渡せなくて…」 「へぇ~~!!!健気ぇ~!!!いいなぁ~俺も手作り弁当食べたーい!!!美人に届けられたーい!!!!爽羨ましいー!!!!」 和倉さ……あ、えっと……恭ちゃんはその場でジタバタと暴れはじめる。それを見ている爽は何故かドヤ顔で、かなり意味不明。 ふと時計を見ると、そろそろ大学に向かわないとやばい時間だと気付き、俺は急いでリュックから自分の分のお弁当を出す。 「あの……きょ、恭ちゃん…これ、良かったら食べませんか?」 「えっ?」 「いつも爽がお世話になってるみたいなので…俺の分のお弁当なんですけど…良かったら…」 「ええっ!?いいの!!?でも…暁人のお昼は?」 「俺はなんか適当に買って食べるんで気にしないでください」 「うっわめちゃくちゃ嬉しい…!!手作り…!美少年の手作り弁当…!!!」 「はぁ!?ふざけんなよ恭介っ!!!食うな!!俺に渡せっ!!!俺が全部食う!!!」 「やーだよー!!!」 取っ組み合いを始める爽と恭ちゃんに笑ってしまう。 爽って…俺以外の前じゃこんな顔もするんだ…知らなかった。 「あ、時間やばいんで俺そろそろ行きます!」 「あき、これから大学だっけ?」 「うんっ!」 「暁人!今度お弁当のお礼させて!」 「そんな!気にしないでください…お弁当は俺の趣味みたいなもので…しかも、そんな大したものじゃないし…」 「いや、すっげー大したもんだから恭介小切手用意しとけ…金額未記入で」 「ええっ!!?せめて金額書かせてくれよ鬼ぃ!!!」 俺は2人のやりとりに笑いながらパタパタと出口に走る。 「あき!外まで送ろうか!?」 「ううん!大丈夫!急いでるから走ってくし、誰とも話さないから心配しないで!」 最後に一旦振り向いて、俺は二人に小さく手を振り部屋を出た。 「アレが爽の許嫁か…」 「かわいくてやべぇだろ……」 「お前、そんなメロメロでよく手出さずにいれんね」 「毎日出しそうになってんだよ!!!」 「お~!来るもの拒まず去るもの追わずの色男がよくもまぁここまで骨抜きに…!」 「うるせーよ……大事な人なんだからしょーがねーだろ…」 「早いとこ、既成事実作っちゃえばいいじゃん」 「はぁ!?……まずは心を手に入れてからだろ…遊びじゃねーんだよ」 「……ふぅん…そんなことしてる間に誰かに取られちゃうかもよ?」 「やめろ…そんなこえー話すんな」 「あはははっ!爽が恋愛にこんな余裕ないの初めて見たわ……つーか、本気になってんのも初めて見た」 「……かもな、あきは……俺の初恋相手だからさ……」 大学に到着して購買でパンを買い、次の講義の教室に急ぐ。早めに着いて、早いとこパン食べちゃわなきゃ。 教室に到着すると、まだ誰もいない。まぁ、誰かいたところで関係ないけど。俺大学に友達どころか、ほぼ知り合いもいないし。 ムシャムシャと買ったばかりのパンを無心で食べていると、携帯に爽からメッセージが入っているのに気付いた。 "あき、さっきはありがとな。 お弁当今日もすっごく美味しいよ。 わざわざ届けに来てくれて、めちゃくちゃ嬉しかった。恭介も泣きながら喜んでたから、お礼は期待していいと思う。 それと、今日話したいことがあります。 今日は多分俺の方が帰るの早いと思うから、 帰ったら俺の部屋に来てください。 勉強がんばって。" 爽からのメッセージがこんなに長いのは珍しい。いつも簡潔だから、ちょっと嬉しい。 それにしても…話って何だろう? なんかあったのかな…。 いい話……?それとも、悪い話…? なんてグルグルと考えていたら、また非通知の着信が来て、心臓がドキッと跳ねた。ここ数日何度この画面を見ただろう……このままじゃノイローゼになっちゃうよ。 爽はこの着信をストーカーからだって言ってたけど…本当にそうなのかな。ストーカーだとしたら、一体誰…?全く思い当たらない。 結局着信は講義が始まるまでずっと続いていて…見るのが怖くなった俺は、携帯の電源を切ってリュックの奥底に沈めた。 大学の講義を終えて、家路を急ぐ。 爽の話って一体なんだろう…?はやる気持ちを何とか抑えて、俺はいつもより何倍も早く歩みを進める。 マンションのロビーに入り、コンシェルジュさんと目が合うとニコリと微笑んでお辞儀してくれた。 「日下部様、おかえりなさいませ」 「山川さん!お疲れ様です!」 コンシェルジュの山川さんとはもうすっかり仲良しで、ロビーを通るたびにいつも優しく話しかけてくれる。他のコンシェルジュさんもすごく良くしてくれるし、このマンションほんと最高。 「今日はお早いお帰りですね?」 「え?わかりますか?」 「はい、この曜日の日下部様のお帰りの時間はいつもならあと…20分後です」 「わぁ!すごい…!さすが山川さん!!スーパーコンシェルジュ!!」 「お褒めいただき光栄でございます」 ニコッと朗らかに笑う山川さんに癒される。 歳は爽より少し上くらいらしいけど、山川さんって落ち着いててすごく貫禄がある。いつも丁寧でとても優しい雰囲気だ。 「実は今日…急いで帰ってきたんです!あの…爽ってもう帰ってますか?」 「はい、先程お帰りになられましたよ!…ですが…」 「え…?」 「なんだか体調が優れないように見えましたので…」 「ええっ!!?」 「早く行ってあげてください」 「わかりました!!」 山川さんに別れを告げ、俺は急いでエレベーターに乗り込む。 会社で会った時はすごく元気そうだったのに…どうしたんだろ爽…。 エレベーターを降りると、急いで鍵を出し、部屋に入る。下を見ると、爽の革靴がいつもより少し乱雑に置かれていた。なんか…脱ぎ捨てた感じ。いつもの爽なら必ず揃えるのに…おかしい。 玄関にカバンを置き、そのまま爽の部屋に急ぐ。 一応ノックして、返事を待つ。 「爽?ねぇ入ってもいい?」 ……反応がない。 何度も何度もノックしたけど、やはり返事は聞こえなかった。いよいよ焦ってきて、悪いとは思ったけどゆっくりとドアを開く。 ガチャ… 「爽…あの、もしかして体調わ…」 俺の目に飛び込んできたのは、 床に倒れ込んだ爽の姿だった。 …To be continued.

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