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この先プラトニックにつき【挨拶編】4

「寄りたい所って……ここ……?」 「そう」 「………あの………ここ、空港だよね?」 「うん」 車で約1時間。 何の説明も受けないまま車に乗せられ、車内でも目的地はどこだと散々質問したけどうまーく躱され…結局たどり着いた先がここ……成田国際空港。 いや………なんで??? だって、今日うちに挨拶に行くんだよ? 一体何のためにこんな所まで………… 国際線の到着ロビーには大勢の人が行き交っていて、俺ははぐれないように爽のスーツの裾を握る。 「あ、来た来た……」 「え?」 「あき、後ろ向いて」 ニヤニヤしている爽に促されるまま、後ろを振り向くと……全く予想だにしなかった人物が手を振っていた。 と、いうわけで…… …ここで話は冒頭に戻る。 ………さぁ、教えてもらおうか!!! なぜ、オーストラリアに留学中の俺の弟が…目の前にいるのかを!!!! 「ねぇ!!!!なんで旭が帰ってくる事俺に教えてくれなかったの!?」 「えー…?あー……あきにサプライズしたかったから…かな?」 「ハァア!!?なんで!!?」 「だってお前の驚いた顔すっげぇかわいいんだもん」 「なにそれ!!?そんな理由!!?絶対嘘じゃん!!!」 「あははっ!あきちゃんと爽くんすっかりラブラブだね」 「どこが!!?」 呑気な顔で笑っている弟に、思わず大きな声が出る。 俺、結構マジで抗議してるんだけど!!! 旭を車に乗せた俺たちは、3人で日下部家へ向かうことになった。運転はもちろん爽で、助手席には俺、後部座席に旭が座っている。 どうやら爽は、俺たちが両親に挨拶に行くタイミングでどうしても旭を帰って来させたかったようで、その為に何度も旭と連絡を取り合っていたらしい。 おかしいと思った。最近、言ったこともないような俺の情報が爽の口からポンポン出てきていたから。 「なんだよあき…喜ぶと思ってたのに……」 「そりゃ、嬉しいよ!?だけど……」 「…だけど?」 「なんか…俺だけ知らなかったの…寂しい……」 半年会ってなかった大好きな弟に会えたんだ…そりゃ嬉しいに決まってる。それに、爽が俺のために色々やってくれたんだってことも、頭ではちゃんとわかってる。 それでも、手放しで喜べるほど俺大人じゃないもん。なんか、これじゃあ…俺1人仲間外れみたい。 俯いている俺に気付いた爽は、赤信号のタイミングで俺の頬に指を這わせる。サラリと撫でるその手つきは、いつもと同じ暖かさだ。 「あき………ごめんな?喜んでくれるって思ってたけど……俺、自分勝手だったな…?」 「爽……」 「でもな………どうしても旭にもちゃんと立ち会って欲しかったんだ……」 「……なんで…そんなに…」 「あきはさ……たぶん、今日のことそんなに大切な日とは思って無かったろ?」 「う…うん……」 「けどな、俺にとっては……お前と付き合った日と同じくらい……大事な日なんだ」 爽の瞳はとても真剣で…俺はそこまで言われてやっと、爽にとって今日がただの挨拶じゃないのだと気が付いた。 俺の実家で一体何を言うつもりなの……? 爽…… 「……あの…俺こそ、ごめん……そんな風に思ってくれてたなんて知らなくて……」 「なんであきが謝んだよ」 「だ、だって…!」 「全部……俺のわがままだから…もし、不安にさせてたらごめんな?ほんとに…」 「そ、それは大丈夫!!!不安には、なってない!!ただ……ちょっと寂しくて拗ねてただけで…!」 「そっか……」 「けど……理由、わかったし……もう、大丈夫…」 「………」 「……え、な…なに?」 「……いや、拗ねてるあきもかわいいなって…」 「へ!?あ…あの…、」 「すみませーーーーん!!!僕いるんだけどー!!!」 後部座席からちょっと呆れ気味な柔らかい声が聞こえて振り返ると、旭が気まずそうに笑いかけてきた。 「あっ…、旭!ごめん、いるの忘れてた!」 「え~?あきちゃんひどいなぁ!半年ぶりに会った弟より、彼氏優先なわけー?」 「は!?ち、ちがうよ!!?」 「あははっ!動揺しすぎー!!冗談だって!2人が仲良さそうで…僕も嬉しいよ?」 旭はキラキラの瞳で俺に微笑んだ。相変わらず、底抜けに優しいな…俺の弟は。 「それにしても、よく2人揃って俺に隠し通せたよね!?俺、そんな鈍いのかなぁ……」 「「鈍い」」 「綺麗にハモんなぁ!」 「ちゃんと話そうかとも思ったんだけど……あき、反対するかと思って…」 「え?反対?」 「あ……いや…」 「爽くん、僕にファーストクラスの航空券送ってきたからねぇ」 「あ!オイ旭!!」 「え………?ええええっ!!!!?」 ファーストクラスって………… あの、飛行機の………ファーストクラス!!? 「う、嘘でしょ!!?」 「本当だよ?僕が帰国を了承した時にはもう今日のチケットほとんど完売しててさ、ファーストクラスしか無かったんだって~マジビビっちゃったよ…僕飛行機の中で足伸ばして寝たの初めて……」 「もしかして…そ……それが………、俺に内緒にしてたほんとの理由…?」 「チッ………言うなって言ったのに…」 「まぁまぁ、もういいじゃん?サプライズも終わったんだし!これ以上あきちゃんに嘘ついたらめんどくさいことになるよ~お義兄さん?」 「………お前、マジいい性格してんな?」 「ふふっ…褒め言葉だと思っとくね~」 俺は口をポカンと開けて二人のやりとりに聞き入る。 ねぇ、嘘でしょ……? 「待ってよ………オーストラリアから日本までの航空券のファーストクラスって……一体いくらに…」 「いや、あき…野暮なこと聞くなって…!もう値段とか良くね?俺のエゴで旭にわざわざ来てもらってるわけだしさ」 「け、けどさっ…そもそもこれは俺のための挨拶なわけで……なら、このチケットだって結局は俺のためでしょ…?なんでそこまで…」 「…だから、言ったろ…?」 「……え?」 「あきは、俺にとって世界で一番大切な人だから……今日は大事な日なんだよ」 「………爽」 ギュッと右手が握られて、胸がドキンと跳ねる。 爽ってほんと………どこまで俺のこと幸せにすれば気が済むんだろ。 俺の手を握りながら、正面を向いて運転する横顔に惚れ惚れしてしまう。 俺、マジで……愛されすぎでしょ。 「ちなみに、チケットには往復で140万って書いてあるよ」 「ちょ、コラ!旭お前っ!!!!」 「ひゃ、ひゃくよんじゅっ……」 「あれ……?うわっ……爽くん…あきちゃん白目剥いてる!」 「あきーーーっ!!!!!」

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