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この先プラトニックにつき【挨拶編】6
「まずは、わざわざ俺のために時間を作って頂いた上に、こんなおもてなしまで準備して頂いて……言葉もありません、ありがとうございます」
「…………爽くん、交際の件での挨拶とは聞いていたけど…別にそんな堅苦しくなくていいんだぞ?いつも通りで」
「そうよ?あきちゃんと爽くんがお付き合いすることになって…私たち嬉しいんだから」
あまりにも堅い爽の表情に、両親は少々慌てている。俺だってそうだ。
爽がここまで真剣に挨拶するなんて、思ってなかった……
「いえ、これはケジメなので……言わせてください」
「………そうか…わかった」
爽の言葉に、お父さんも何かを悟ったらしく静かに返事を告げた。
シンと静まり返る室内に、なんだか心がザワザワする。
「ご存知かとは思いますが、俺はあきが初恋で……これまでの人生、ずっとあきだけを想って生きてきました」
爽は真っ直ぐ、両親の顔を見て言葉を紡いでいく。
俺の心臓はドクドクと早鐘を打って、カッと身体が熱くなるのを感じた。
「あきは、小さい頃からずっと…純粋で真っ直ぐで、見た目だけじゃなく心まで本当に綺麗で……俺が今まで出会った全ての人の中で、間違いなく一番素敵な男の子です」
「………っ……爽…」
「俺はあきが世界で一番好きです、好きで好きでたまりません……だから、世界で一番幸せになってほしいし、できれば…俺の手で幸せにしたいです」
無意識に緩んできた涙腺は、いとも簡単に決壊する。俺はもう、前が見えなくなるくらい号泣していて、隣に座っていた旭がそっとティッシュで涙を拭ってくれた。
こんなの………、
本人の前で言うのですら勇気がいるだろうに、親の前でなんて………
膝の上に乗せられた爽の手はカタカタと小さく震えていて…それが目に入った瞬間、余計に涙が溢れた。
そうだよね、緊張しないはずない……
「けど、俺があきのそばにいる限り…ご両親には孫を抱かせてあげることが出来ません……それが、子を持つ親にとってどれほど残酷なことか…正直俺には計り知れないです………それでも、俺はあきから離れられません……あき以外愛せません………あきがいなきゃ、生きていけません」
はっきりと言い切る爽の瞳には、一切迷いが無い。
旭に背中を押され、俺はそっと爽の隣に行き寄り添うように座って、震える手を握った。
一瞬俺の方を見てハッとした顔をした爽は、1秒後にはパッと花が咲いたように笑った。
その笑顔を見て、俺も泣きながら小さく笑う。
ありがとう爽………
俺のこと、好きになってくれて……
ありがとう……
爽は俺の手を握り返すと、再び両親に向き直った。
「これから先、どんなものからも全力で守って、一生あきだけを愛すると……ご両親と旭に誓います」
両親はこれ以上ないくらい優しい顔で爽を見ていて、その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「こんな素敵な人をこの世界に産んで、育てて頂いて…本当にありがとうございました」
最後に、両手を床に着いて深々と頭を下げた爽は、よく通る綺麗な声で…
ハッキリと告げた。
「息子さんを、俺にください」
その瞬間、身体の奥底からグワッと熱いものが込み上げてきて、息ができないくらい胸が苦しくなった。
こんなかっこよくて、誠実で、優しくて、完璧な人が……俺のことを本気で愛してくれていて、そしてそれを、両親や弟にまで伝えてくれる。
こんな幸せなこと、ほかにある?
ああ、俺…………
爽を好きになって………
ほんとに良かった……
「………爽くん、頭を…あげてくれ」
「……はい」
お父さんは爽の肩を掴んで、身体を起こさせる。お母さんは俺と同じくらい泣いていて、必死にハンカチで涙を拭いながら、嬉しそうに笑っていた。
「…君のご両親との付き合いは、かれこれ30年近くになる」
「…はい」
「爽くん……私たちは…君が生まれてくる前から、君のことが大好きだったんだよ?だから、暁人との許嫁の話も快諾したんだ……どういう意味かわかるかい…?」
「……え?」
「私も、葉月も、暁人や旭と同じくらい…君のことがかわいいんだよ」
お父さんの言葉に、爽はかなり驚いた顔をした後、ニコッと柔らかく笑った。
「孫のことは、どうでもいいとは言わないけれど……私たちにとって一番大切なのは、暁人と爽くんが幸せかどうかなんだ……だから、そこに関して君が気に病む必要はないよ」
「……陽平さん…」
「君みたいな子が、暁人を選んでくれるなんて……私たちにとっても本当に夢みたいだ」
「そうよぉ!爽くんかっこいいし、背高いし、頭いいし、足長いし、おまけにお金持ち!完璧すぎて泣いちゃいそう!泣いてるけど!」
「お母さんっ、茶々入れないの!今、いいとこなんだから」
旭に叱られて、お母さんはごめんごめん続きどうぞ~!と笑う。まぁ、お母さんが口出したくなる気持ちもわかる。そうだよね、爽って、ほんと完璧な王子様だもん。
ちょっとゆる~い空気が流れちゃったけど、お父さんの咳払いでまたその場の雰囲気が締まった。
「………爽くん」
「はい」
「暁人は……ちょっと鈍感だし、思い込みの激しいところもあるし、かなり泣き虫で……きっと君から見たら頼りない部分も多いと思う……だけど、誰よりも人の痛みをわかって寄り添ってあげられる優しい子だ」
「……はい」
「この先何があっても、ずっと暁人の味方でいてくれるかい?」
「もちろんです」
「……そうか…じゃあ………」
お父さんはその場で深々と頭を下げ、それを見たお母さんも慌てて頭を下げる。
「暁人のこと、よろしくお願いします」
「………!はい!!」
爽の幸せいっぱいの返事がリビングに響いて、俺はとうとう……声をあげて泣いた。
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