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後編
「……雅也?」
聞き慣れた、ほんわかした、優しい声。
「――――……?」
今、何の時間だっけ…………。
ぼんやりと、顔を上げると。目の前には、見慣れた、顔。
誰よりも見慣れているけど。
――――……誰よりも、ずっと、見ていたい、顔。
「――――……透……」
「……熟睡してた?」
可笑しそうに笑いながら、透がオレの前の席に腰かける。
「古文、終わっちゃったよ?」
「――――……マジで……?」
「最後の挨拶は、古文の先生、雅也の事は見てなかったから。立ってないのはバレてなさそうだったど」
クスクス笑ってる、透。
「後でノート、見せてあげるね」
「ん。さんきゅ……はー……。ねむ……」
言いながら、あくびをかみ殺していると。
「ほんと眠そう」
ふ、と目を緩めて笑う、その感じ。
会った時からずっと、好きなまま。
「……いい夢、見たよ」
「そうなんだ。どんな?」
「……大好きな奴の夢」
言うと、透は、ふうん?と頷いて。
じっと、オレを見つめてくる。
「……お前と会った頃の夢」
こそ、と囁くと。透は、瞳を少し大きくして。
照れくさそうに、オレを見つめて、ふ、と笑う。
「……何でそんな、昔の夢……?」
「昔って――――……って、昔か。丸5年以上前だもんな」
「うん。昔だよね」
クスクス笑う透。
なんか、穏やかな空間。
んー、と背伸びをすると。
「昨日のバスケ、きつかったって言ってたもんね。疲れてる?」
「ん。そーかも……」
「オレと電話してないで、早く寝ればよかったのに」
そんな風に笑う透に。
「それは無理」
すぐ言うと。透が、オレを見て、無理なの?と笑う。
「オレと話して寝ないと寂しいだろ?」
少し冗談ぽく言うと。
透は、オレを見つめて、ふ、と微笑んで、そだね、と頷く。
目の前にある、ふわふわした髪を、少しだけ、よしよしと、撫でる。
照れて、何も言わない透。
あーもう。
……ほんと、可愛い。
会った時から、ずっと可愛いって思ってて。
和むし。落ち着くし。ずっと、愛おしいし。
こないだ、透に、好きって伝えたばかりで。
透にも好きって、言ってもらって。
まだ初恋が、叶ったばかり。
「……透」
「ん?」
「……今度」
「うん?」
オレがじっと見つめると、透は、にこ、と笑って、オレの言葉を待ってる。
「今度、デートしよ?」
「――――……」
「初デート」
今までたくさん、一緒に出かけてきたけど。
まだ「デート」という名の約束は、してない。
そう思って言うと。
透は、ますます瞳を緩めて、オレを見て。
「うん」
と頷くと、ほくほくした顔で笑ってる。
……ほんと、可愛い。
その時。10分休憩が終わった。
「寝ちゃダメだよ、雅也?」
クスクス笑いながら言う透。
「頑張る」
そう返すと、笑って頷きながら透が立ち上がって、自分の席に戻って行く。
もう一度背伸びをしてたら、真横の窓から風が吹き込んで、カーテンが舞う。気持ちは良いけど、授業中は邪魔なので、立ち上がって少し窓をしめる。
何だかものすごく、眩しく感じながら。
真っ青な空を、見上げた。
-Fin-
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