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溺愛αは嫉妬する(後編)※

 夕食を済ませ約束通り秋を伴って浴室に向かった。  秋はにこにこと楽しそうに着いて来た。  その姿に少しばかり胸に灯った嫉妬の炎が小さくなっていく。  そういえば何時だったか、まだマンションで暮らしていた頃は、時折こうして風呂に誘った。  秋はその度可愛らしく『僕、双葉さんのお風呂当番好きです』と、嬉しそうに背中を流してくれていたっけ。  今もまたふんふんと機嫌良く、鼻歌交じりに俺の背中を擦っている。 「双葉さん、気持ちいいですか?」  ふふん。可愛いじゃないか。  もう少し力を入れても大丈夫だぞ。 「ああ。とても気持ちいいよ。秋は上手だな」  くふふ、と嬉しそうに笑みを浮かべる愛しの妻に、段々と燻っていた胸の炎も鎮火していく。 「髪も洗いましょうね」 「ああ、頼むよ」  秋の細い指先が頭皮をマッサージするように滑っていく。なんとも贅沢な時間だ。    ああ、幸せだ。  心の底から湧き上がるこの幸福感。  やはり秋は俺の天使だな。 「はい。おしまいです! 気持ちよかったですか? 双葉さん」  肩越しに顔を覗かせた秋の満足気な笑顔に、あれ程メラメラと燃えていた炎もすっかり消えた。 「ありがとう、秋。お陰で日中の疲れも癒やされたよ」    ふ……。まったく。俺もどうかしていた。  理央くんはオメガの少年だ。何もあの純情そうなオメガの少年に、夫であり番でもある俺が妬く事など無いじゃないか。  幾ら何でも狭量過ぎだ。あの少年の事を秋は弟のように気に掛けていた。そう…、弟だ。  兄弟のない秋にとって、年下の少年から相談事を持ち掛けられたのが嬉しかったのだろう。  良くも悪くも秋の周りには大人ばかりだ。当然のように皆、秋に対してはどうしても甘くなる。手を差し伸べる事はあっても、手を借りる事など早々ない。  こうして背中を流す事ですら、頼めばこんなにも喜んで楽しそうに行うのだ。  今日の理央くんとの出来事は秋にとって、頼られて嬉しかったという事なのだろうな。  冷静になって考えてみれば何とも微笑ましい話じゃないか。  俺とした事が……。  もう少しで可愛い妻に無体を働くところだった。危ない危ない。 「さぁ、今度は秋の番だ。 ほら、観念してシャツを脱ぎなさい」 「ええ!? ぼ、僕はいいですよっ」  いやいや、よくないぞ。  俺だって愛しい妻の可愛らしい背中を流したいんだ。  醜い嫉妬心を抱いたせめてもの償いだ。    恥ずかしがる秋の小さな抵抗を片手で軽く抑え込んで、その綺麗な肌を思う存分磨き上げた。      風呂上がりの妻はとても扇情的で、大変目の保養になる。  しっとりと濡れた髪。上気した肌。ほんのり桜色に色付いた目元が何とも艶めかしい。    やや長めの入浴で喉が乾くだろうと、気の利く家政婦が用意していたポットから、よく冷えたハーブティーをグラスに注いで手渡した。 「大丈夫かい、秋。少し湯中りしちゃったね」 「あ……。ありがとうございます」  秋はほにゃりと笑って受け取ったグラスを口に運び、こくこくと美味しそうに喉を潤した。  ほぅ…、と吐いた息は吐息のように艶めかしい。潤んだ瞳と相俟ってまるで事後のような色気がある。  ……いや、まるで、ではないか。確かに事後の色気だな。  うん。ごめんね。ちょっと悪戯が過ぎたね。    俺だって純粋に秋の背中を流そうとしていたんだ。実際、それはそれは丁寧に秋の柔肌を傷付けないようにと優しく磨いていた。  ただ……。つい、その……。出来心とでも言うのだろうか。  己の付けた項の歯型。番の証であるその痕に、つい誘われるように唇を寄せてしまった。  いつもは少し長めに伸ばした襟足に隠されたその場所を目の当たりにして、言い知れぬ愛おしさが込み上げ我慢が出来なかった。  桃色に染まった肩をピクンと跳ね上げた秋が「くぅん」と鼻を鳴らした瞬間。あの誘惑の香り、甘くて芳ばしい秋のフェロモンが立ち昇った。    俺の番が誘ってくれたんだ。  そりゃ応えるしかないだろう。    そろりそろりと肌を撫で上げ、掠めるようにお気に入りの胸の突起に触れた。  その途端、跳ねるようにガクンと前屈みになった秋は「だ、ダメですよっ、前、前は自分で洗いますから!」等と遠慮をする。  こんなにもフェロモンを溢れさせて誘うくせに、今更そんな遠慮等要らないのに。  ボディソープでヌルつく肌は、どんなに阻止しようと頑張ろうとも脇をスルリと通り抜け、いとも簡単にその尖りへと俺の指先を辿り着かせた。 「ああっ! だ、ダメッ、ダメです双葉さぁん!!」 「ダメ? 本当に? でも秋のここは、もうこんなに硬くなってるよ?」  指先に触れるそのコリコリとした感触はボディソープの滑りもあってか、いつにも増して秋の官能を刺激するらしい。   「あぁ、っん!! あっ、あっ、 やぁ…っん!」  可愛らしい嬌声を絶えず上げ続ける愛しい妻に、もっと感じて貰いたくて尚も指先で尖端を可愛がる。  胸の刺激だけですっかり勃ち上がってしまったらしい秋の幼い性器は、その鈴口からトロっとした液を溢していた。 「秋、気持ちいいの? こっちも可愛がってあげようね」 「ひぅ…っ!! や、ダメっ! あ、ぁ、…んぁあ!」  手の中にすっぽりと包み込み、先端を親指の腹でクルクルと刺激しながら、全体をやわやわと揉みしだくようにすると、秋の可愛い声が浴室の中に響き渡った。  背後から覆い被さるように秋の身体に密着させ、その痴態に煽られた俺自身の欲望をモチッとした秋の双丘の狭間へと誘った。 「ひ……っ、ぅ」 「大丈夫…。無理に中に入れたりしないよ。その代わり、壁に手をついて。しっかりと足を閉じておいて」  耳元で囁くようにお願いをすると、何をされるのか理解した秋がこくこくと頷くのを確かめてからゆっくりと腰を進めた。  秋の細く靭やかな内腿に滾る欲望を挟み込み、宥めるように腰を揺すると甘い痺れが腰から湧き起こる。  俺の奥さんはこんな時でも健気で可愛い。  そっと突き出すように薄桃色の尻を向け、背中を反って両手を壁についている。  まるで捧げ物のようなその姿は、雄の征服欲をいたく満足させてくれた。  右手で秋の小振りな性器をゆっくりと嬲りつつ、左手で可能な限り両方の乳首をあやした。   「双葉さん、双葉さんっ!! ぼく、もぅ…、もう………っっ!」 「……っ、秋っ、ん……っ」  浴室に余り長居をさせては秋の身が持たない。貧血でも起こしては可哀想だと、追い立てるように前を擦り上げると、細い腰をビクビクと揺らしながら秋は絶頂を迎えた。  その細腰をキツく掴み激しく音を立てながら何度か双丘の狭間へと腰を打ち付け己の欲も解き放った。  ………うん。  悪戯、等と可愛らしいものではないな。  我ながら抑えの効かない俗物だ。  しかし、お陰で綺麗サッパリと胸の番えも無くなった。  後はこのままベッドの中で優しく腕に抱き、甘やかしながら寝かせてやろう。 「さぁ、秋。グラスをこちらへ……」 「んふふ……」  ん? 「どうしたの?」 「あのね、双葉さん。これ、カモミールティーなんですね」 「う、ん。……そう?」 「はい。可愛い香りです」  へぇ…。  カモミールティーが可愛い香り?    脈絡もなく突然クスクスと笑い出した秋に、何だかいい知れぬ嫌な予感がした。 「あ、双葉さんにはわかりませんか? あのですね。このカモミールの香りは、理央くんの香りに似てるんですよ」  ーーーーー…………ほう。 「………うん。 やっぱり、可愛い香りです」  グラスに鼻を寄せスーッと吸い込んでニコリと笑う秋。  うん……………。  可愛い……ね。 とっても。 「あ、そろそろ休みましょ……」 「秋。ーーーー済まないが、一つ連絡を入れて来るね。秋は先にベッドへ入って待っていて」  秋の言葉を途中で遮ってそう言うと、コトンと首を傾げて「ん?」と不思議そうに此方を向いた秋に、飛び切り素晴らしい笑顔を返した。 「はい。わかりました」  ああ、いいお返事だね、秋。      さて、秘書に一言伝えねばな。  休暇の連絡だ。  明日は一日中、子鹿のようになる予定の愛しい我が番である、可愛い妻の世話を焼こうと決めた。  

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