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第17話 距離

「(あー。もう終わりかな。でも、“幸せ”を味わえて良かったかな。)」  紫音はまだ処分されていなかった魔道士塔の部屋のベットにいた。  あの後、馬車に乗って王宮へ向かったが、馬車内でライオネルに話しかけても、何かを考えているようで返事は上の空だった。  そして必死に隠していたようだったが、あの綺麗な瞳には”恐れ”、”怯え”が混じっており、それは戦争中にもよく目にした光景だった。 「(やっぱり、ライが求めてたのは愛でる為の人形だったんだ。もうちょっと上手く偽れればもう少し側にいられたのかなぁ)」 「(でもあれはしょうがなかった、魔法を使う素振りもなかったから、魔法の発動時間が多分足りてなかったのだろう。俺が何もしなければライに刺さってた気がするし)」 「(ライが健やかでいられる事が大事だから間違えてない筈)」  貰ったヘアピンを髪から外し机の上へ置き、貰った青いリボンを胸に抱きベットに横になる。 「(でも胸が痛いな。……これが“悲しい”って事か)」  ……それから、次の日もその次の日もライオネルが紫音に会いに来ることは無かった。 ♢♢♢  あれ以来、当初魔道士塔へ来た頃の生活に戻った。ライオネルが話を通してくれたのか、服も用意してくれるし、洗濯物もやってくれて、食事も用意してくれる。  ただ、話し相手という仕事は無くなってしまった。  それに、誰も紫音と接触せず、紫音を使おうとする気配もない事から本当に用済みになったようだ。  不要になったら破棄する。それは当たり前の事だ。  紫音が今している生活は図書室と魔道士塔の部屋の往復と、たまにうろちょろしてる”ネズミ”の動向をうかがっているだけだ。  そんな生活の中で、一度知った幸せを忘れる事は中々出来ない事を思い出した。 「(そーいえば、お母さんと離れた時もそうだったかも。あの時は朝から晩まで訓練して、気絶するように寝てたからすぐに忘れていけたけど、今はやる事がないからなぁ)」  本を読んでいても、気がついたらライオネルの事を思い出している。 「(これが“辛い”かぁ。ん? でも感情を出すと喜んでたライと話さないんだから、感情なんてもう要らないんじゃないかなぁ。)」 「(この平和な世界じゃ、俺は使い道の無い役立たずだし。……あ。1つあるか。俺が役に立つ所。能力を酷使すれば寿命は早まるし、寿命で死ぬならお母さんとの約束も守れて、周りにも迷惑かけないし、ライの思い出が風化する前に逝けるんだから良いこと尽くめじゃない)」  取り戻していく感情が負の感情ばかりで、心が悲鳴を上げている事に気が付かず、歪な思考になってしまっている事が分からなくなっている紫音だった。  ライオネルと合わなくなって1週間。今夜出て行く事を決めた。 ♢♢♢  ーーライオネルの自室。 「(どーしよう。何て言えば許してくれるだろうか)」  ライオネルとしては、実は紫音の得体の知れなさについては既に吹っ切っていた。暗殺者だろうが猟奇殺人犯だろうが、それが自分に向けられた訳でもないし、容姿だけではなく心も含めて守りたい・自分の物にしたいと思った事を冷静に見つめ直して思い出していたのだ。  では何に悩んでいるかというと 「(嫌いって言われたらどうしよう。ゆるしてくれなかったらどうしよう……)」  と、しょうもない事で悩んでいた。本気の恋愛初心者でありヘタレ故の悩みである。  早いペースでアルコール度数の高いお酒を1人で飲んでいる。最近は紫音が居なくて1人で寝るベットが寂しいと感じるようになってしまったのだ。  特に今日は眠れない為、1人深酒をしている。 「(よし! 明日! 明日にはちゃんと謝ってやり直しの機会を貰うぞ)」

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