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続 2 : 11

 いっ、いやいや! 落ち着け、落ち着けよ、俺ッ!  もしも仮に、先輩が【そういうつもりで】俺を呼んでいるのなら! なおさら、なおさら俺をマンションに呼ぶ意味が分からない!  セックスしたいならむしろ、会社から近い俺の部屋で──いや違う! 早くセックスがしたいとか、そう意味じゃなくて!  なぜあえて、先輩の部屋なのか。そう考えて、俺は心の中でガツンと衝撃を受ける。  ──まさか、だからこそ【あえて】先輩の部屋なのかっ?  しまったな。さすがに人間関係を勉強中である俺も、そこは盲点だったぞ。  確かに俺は、先輩相手に枕がイエスだと伝えた。しかしその後、二週間。俺たちはセックスどころかキスもしていない。先輩から、なにもしてこないからだ。当然、俺からもアクションは起こしていなかった。  先輩は、人から触れられるのが苦手。それは右手首のトラウマを考えて、俺が勝手にそう思い込んでいるだけだ。  だが、もしも。その思い込みが【アタリ】だとしたら? 俺は自分から、先輩に触れることができない。  俺の根底にある、最も大きく太い感情。それは今まで通り、変わらず【先輩を傷つけたくない】だ。  それでも、本当は薄々気付いていた。俺は【先輩】だけではなく、少なからず【俺が】傷付くことも、恐れているのだ。  災害レベルにやらかした、最低な告白。先輩が俺を見て右手首を掴んだあの日に感じた、胸の痛み。……それをもう一度生むことを、俺自身が恐れている。  交際してもなお、俺の先輩に対する態度が固く冷たい理由。それこそが結局、俺が俺自身を可愛がっている根拠になるだろう。  先輩が俺を怖がることに、俺は怯えている。先輩を傷つけて、先輩が俺を見ながら右手首を押さえることに……俺は、怯えているのだ。  かと言って、迫られっぱなしも困る。こちらとしては少なからず先輩を想って【受け身の姿勢】ではあるが、かと言って俺はメルヘン乙女思考の持ち主でもないのだ。グイグイ迫られると、心臓に悪い。  求められることにも慣れていなければ、求めることにも慣れていないのだ。正しい振る舞いなんて、俺にはまだまだ分からない。  しかし、しかしだ。それでも先輩が、俺に迫りたいと言うのなら……っ? 「──わっ、ワーイっ? たっ、楽しみダナーっ?」  ──先輩が自室で俺を抱きたいと言うのなら、いくらでも抱かれてやろう! どんとこいだ!  先輩は俺をド淫乱にしたい願望があるらしい。これは朝、兎田主任が言っていた。あの時の先輩の反応を見るに、悲しきかな事実だろう。  まさか他人に相談するほど、俺とのセックスに対して悩んでいたなんて。正直に言うと、驚愕だ。  一先ず俺は、先輩に向かって『先輩の部屋にお呼ばれなんて、嬉しいな~っ』というスタイルを見せつける。それらしい振る舞いをすべく、俺は先輩からの誘いに明るく返事をしたのだ。  周りの職員が「どうした、子日? 目が死んでいるぞ?」なんて言っているが、そこには触れないでおこう。 「良かった。それじゃあ、早速出発しようか」 「えっ! ……は、はぁ~いっ!」 「えっと、子日君? そんなに緊張しなくても、怖いものはなにもないよ?」  緊張するに決まっているだろう、馬鹿者め。  こちとら、ケツに凶器を突っ込まれる宣告を受けているのだ。並み大抵の覚悟で応じたとは、思わないでほしいぞ。

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