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続 2 : 17 *

 先輩は前に、ケツを使ってセックスをしたことがないと言っていた。  ……それは、真実なのだろうか。思わずそう、疑いたくなった。 「ん、っ。……ふ、ぁ……ぅ、っ」 「可愛い……っ。好きだよ、文一郎」 「っ、ん……ッ。……お、れも。好き、です……っ」  先輩とのセックスは、嫌いじゃない。苦手ではあっても、好きだ。  ケツで感じるなんてものすごく不本意だし、大の男が犯されて喘ぐなんてみっともなくて嫌になるのに。それでも『気持ちいい』と思っているのなら全部いい気がして、男という存在はなんて浅ましいのだろう。  ……【男】じゃなくて、もしかすると【俺】か? 「もう、鎖骨……いい、でしょ。触らないで、ください、っ」 「くすぐったいから、駄目? そうだよね、ごめんね。僕の我が儘を聞いてくれてありがとう、文一郎。我慢してくれて、君は優しいね。……ふふっ、よしよし」  まるで子供をあやすかのような口調で、先輩は囁く。……オイ、馬鹿野郎。『よしよし』と言いながら俺の胸を撫でるな。そう言うときは頭を撫でるものだろう、ヘンタイめ。  といった悪態を内心で吐いてしまうものの、やはり浅ましい【俺】はすぐに、体を強張らせてしまう。 「ひ、ッ。……そ、こは。そこは、いや、だ……っ」 「そっか。文一郎、乳首弱いもんね。可愛いなぁ」 「馬鹿っ、ヘンタイ……っ!」  俺がなんと言っても、こういうときの先輩は『したい』と思ったことを全部する。鎖骨を撫でるのだってそうだし、ち、ちく、び……を、撫でるのだってそうだ。  スリスリと指の腹で男の胸を撫でながら、先輩は不敵に笑った。 「文一郎がココを触られるのが好きってことは、僕だけが知っている。……いいなぁ、こういうの。優越感なんてくだらないと思わなくもないけど、文一郎に関しては大事にとっておきたいよ」 「はっ、あ、ん……っ!」 「文一郎、ココは誰にも触らせたら駄目だよ? それに、弱点だってことも内緒にしてね? もしも誰かに触らせたり、教えたりしたら。……そうだね、ピアスでも付けようか。エッチな乳首をもっとエッチにして、誰にも見せられなくしてあげる」 「や、だ……あ、ッ」  ゾクゾクと、妙な感覚が背筋を這う。……なんだ、これ。先輩にこうして攻められると、へ、変な気分に、なるような……? 「乳首にピアス、興味あるの? 今、凄く締まった」 「なっ、ないっ! 断じて──ん、ッ!」 「文一郎は本心をなかなか話してくれないからなぁ。判断に困っちゃうよ」 「ほ、ほんとに……っ。やだ、ピアスは、いやです……っ」  嫌よ嫌よもなんとやらと言い出したら、今度こそ先輩のブツを食い千切るぞ。  だが、俺の殺気に気付いたのだろう。先輩は困ったように笑った。 「しないよ。大事な文一郎に傷なんて付けたくないからね」 「処女は、奪ったくせに……っ」 「っ! ……うわ、今のは凄く興奮した……ッ。危うく出すところだった」 「このヘンタイ……ッ!」  先輩は嬉しそうに笑ってから、俺の手を掴む。そのまま自分の背中まで俺の手を引いて、もう一度笑った。  先輩は、分かっているのだ。俺から先輩に、触れないと。  それでも先輩は、俺の臆病さを責めない。俺の歪な庇護欲を、否定しないのだ。 「……す、き。章二さん、好きです……っ」 「君から言ってもらえると、凄く嬉しい。もっと言って、文一郎」 「好き、です。んっ、好き、すきで、す……っ」  俺の体を揺さ振りながら、先輩は嬉しそうに笑っている。  いつか。もしかしたらこの好意と同じように、先輩は少しずつ、他人からの影響を受け入れられるようになるのだろうか。  そうなったら俺は、先輩を──……。  ……抱き締めてあげたいな、なんて。抱かれながら、そんなことを考えた。

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