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続 3 : 6

 数十分後、子日君が買い出しを終えて事務所に戻ってきた。  借りていた鍵を上司に返した後、子日君は僕の隣に戻って来る。 「おかえり、子日君。買い物は無事に終わったかな?」 「ただいま戻りました。会議室に運んだので、後は当事者に任せますよ」  会話をしながら、子日君は財布の中から領収書を取り出し、精算を始めた。そういった地味な作業を後回しにしないところも、子日君らしくてとても好ましいポイントだ。 「今日も仕事に一生懸命で、それでいて可愛いね、僕の子日君は。こうして見つめていると、君の横顔にキスしたくなるよ」 「俺が少し席を外している間に、頭をトリックでもされたんですか?」 「嫌だなぁ、いつも通りの僕じゃない。……試してみる?」 「そうでしたね、いつも先輩はトリップしていました。なので、上着を脱ごうとしないでください。遠慮ではなく、本心から結構です」  ふふっ、相変わらずの子日君らしい反応だ。嬉しいなぁ。……なんて言ったら、なぜか子日君は『マゾめ』と言って僕を罵るけれど。  まったく、酷い冤罪だよ。僕は子日君に虐められるよりもむしろ、子日君を虐めて困らせたいタイプなのにさ。  ……だけど、不思議なものだ。優しくしたいのに、いざ虐めて子日君が『やめて』と言うと、思わず『もう少しだけ』と踏み込みたくなる。特に、二人きりのとき──もっと言うと、セックスのときなんかは。  ……いけない、ちょっと良くない方向に思考が進んでしまった。さすがに仕事中は、子日君にとって自慢の彼氏で在れるよう、節度を弁えなくては。  ……でも、多少ならいい、よね? うん、うん。 「子日君。トリックオアトリ―ト」  ニコニコと、楽しさから思わず笑ってしまう。  子日君は僕を見て、瞳をキョトンと丸くさせた。あぁ、いいなぁ、かわい──。 「──まさか、トリックと引き換えにセックスをさせろと? 先輩って本当に、そっち方面の頭の回転が速いですよね」 「──言ってない言ってない!」  冷たいよ! 女の子たちへの対応と全然違う! 先ず、目が怖い!  で、でも、いいもん! どうせ子日君はお菓子を持っていないのだから、この戦いは僕の勝ちだもんねっ! ふふふっ!  ……などと、浮かれたのも一瞬で。 「はい」  あっさり、ポンと。子日君は僕のデスクに、お菓子を置いたではないか。  なん、だと。お菓子の霊圧は、なかったはず。  目論見と全く違う答えが返ってきて驚いた僕は、お菓子をジッと見つめる。……あっ、これ、現実だ。瞬きしても消えないもの。  つまり、魔法の呪文は不発。僕は眉尻を下げて、子日君を見た。  そうすると対照的に、子日君は眉を寄せたではないか。 「なんですか。不満そうですね」 「だって子日君、さっきは大人しく女の子からトリックされていたじゃない」 「どことなく不快な言い回しではありますが、事実ですね。まさか先輩が、同じことを言うとは思っていませんでしたけど」  そのまま、子日君はコソッと呟く。 「せっかく外に出たんですから、少しくらい有意義に使わないと損じゃないですか」 「えっ?」  それって、つまり……? 「もしかして、ハロウィン関係なく僕にお土産を──」 「──いえ。それはさっき俺に『トリックオアトリート』と言ってきた女の子に俺が同じことを言って、大逆転の末にもぎ取ってきたトリートです」 「──完全に強盗だよ、それ!」  ちなみに、子日君が言っていた『有意義に使う』の意味はと言うと。  ……ちゃっかり、自分用の飲み物を買ってきたという意味だった。トホホ。

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