160 / 250

続 3 : 18

 互いにお風呂を終えた後、テーブルを前にして。 「子日君、大好き。好き、好き、大好き」 「あ~、うるさい。それ、今日だけでもう何十回も聞きました」 「じゃあ次は何百回を目指すね。……ふふふっ、大好きだよ、子日君」 「……お馬鹿さんですね、本当に」  絶賛、甘やかしタイムだ。……子日君による僕への、だけれど。  背後に僕を貼り付けたまま、子日君はモソモソと冷凍庫の中にあったお惣菜を食べている。目線は、テレビに向けて。 「子日君からも『好き』って言われたいなぁ。……ねぇ、子日君。僕のこと、どう思ってる?」 「『うるさいなぁ』と」 「完全に今の感想じゃん! そういうのじゃなくて、もっとピロートークっぽい返事をちょうだいよっ!」 「ならせめて、そろそろピローの上でトークさせてくれませんかね」  うっ、怒ってる気がする。 「子日君の理想は、天蓋付きのベッドでメチャメチャに甘やかされるイチャとろ甘々セックスなのかな……」 「なんですかそのおぞましい理想を持つ男。まさか、俺の話じゃないでしょうね」 「僕、今ハッキリと『子日君』って言ったよねっ!」 「残念ながら、俺はそんな夢見るお年頃ではないので。質に問題がないことを確約されているのなら、好きな人とのセックスは場所なんてどこだって別にいいですよ」 「じゃあ事務所でも──」 「──最低限のTPOを弁えている人が前提条件です」  キッパリと怒られた。しょぼんだよ、しょぼん。  背後でドヨンと落ち込むと、子日君が大きなため息を吐いた。……けど、すぐに枝豆を僕に差し出したのだ。たぶん、子日君なりのご機嫌取り。 「ねぇ、子日君」 「なんですか、甘ったれの夢見る先輩さん」 「これからも子日君は、僕だけを見ていてくれるよね?」  クルッと僕を振り返った子日君が、呆れたような顔を向けてくる。  しかし、すぐに……。 「──当然ッ!」 「──あははっ! カッコいいなぁ!」  子日君は実に子日君らしい返事で、僕の心を救ってくれたのだった。  * * *  翌朝。 「な~っ、ブン! 聞いてくれよ~っ!」 「はいはい」 「その耳栓はいったいどこから出したんだっ!」  兎田君ではなく、お次は竹虎君がこちらの事務所にやって来ていた。  昨日までの僕なら、このやり取りにも妬いていたかもしれない。……しかし、そう自覚できるくらいには余裕のようなものを得られたのだ。  昨日、こんな僕すら受け入れていると。そう、子日君は言ってくれた。子日君から深い愛情を受けた僕に、もはや他人のことでモヤモヤとする狭量さはない。……とまでは、さすがに言い切れないけど。  それでも、昨日までの僕よりはマシだ。今は子日君と竹虎君のじゃれ合いを、目を細めて母親のような顔で眺められる。  ──そんな浮かれ気分だったからこそ、僕は気付かなかった。 「オレさ、見ちゃったんだよ」 「見たって、なにを? UFOか? はいはい、凄い凄い」 「本当にそうだとしても、せめてもう少しいい反応をくれよ! ……って、そうじゃなくて! もっとなんかっ、なんて言うかヤバいやつ!」  その会話を『微笑ましい』と思っていたのだから、気付けるはずがなかったのだ。  ──その後、子日君が竹虎君になんて耳打ちされたのかなんて。……気付いてあげられるはずが、なかったのだ。 続 3章【先ずは一番だと言ってくれないかな】 了

ともだちにシェアしよう!