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【一】華蝶①
この世界は、スペースコロニーの中に存在する、母星・地球の自然を再現した、ある種の箱庭である。その中にも、いくつかのコミュニティが存在し、僕は『政財界コミュニティ』に属している。
僕らのクラススペースコロニーは、『エデン』と言う。
正式名称は、M-0riと言うそうだ。
宇宙を航行しているなど、普段は信じられないコロニーであるが、決して世界の外側には出られない。まるで鍵付きのような箱庭だ。
各コミュニティの頂点には、いずれもαが君臨している。
このエデンには、αとβとΩという性別しか存在しない。
太古の昔は女性が存在したという伝承もあるが、現在は一人もいない。男性のみだ。
αは至高の存在だ。
特権階級に位置し、優れた能力を持つ。頭脳明晰で容姿も端麗で、長身の人間が多い。
他方、Ωは蔑まれる存在だ。
体格も痩身で低身長が圧倒的に多く、容姿は人それぞれだが、基本的に愚鈍で能力は無いと言われている。αに家畜のように抱き潰され、時期が来れば廃棄処分となるのがΩだ。大多数の人間であるβからも差別されている。だがそれは、『大多数のΩ』に過ぎない。
僕のように、政財界コミュニティである『永篠 』の中でも、名家に生まれたΩは、人並のαよりも高い地位と強い権力を持つ。
僕の生まれた北堂 家は、代々、超稀少種と呼ばれるαの中でも特別な存在を産みやすい体質の、Ω輩出家だ。北堂唯織 、これが僕の名前だ。
本日も和服を纏い、僕は夜、選ばれしαの元へと向かうまで、どのように振る舞うべきかを考える。自然と僕の唇は歪んだ笑みを形作った。
本来であれば、αがΩを選ぶのが、自然だ。しかし僕に限っては、逆である。
「僕のお眼鏡にかなうαが、今日こそいると良いのだけれどね」
嘲笑交じりに両頬を持ち上げた僕は、内心ではαの多くを見下していた。
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