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下種な鷹に餌はない
学園の寮に戻ったのが昼前。
藤高が親衛隊に連絡したのが昼休み。
一部授業にならないクラスが出たと教師に苦情をもらった。
その日の放課後にちょっと生徒会や職員室に顔を出したら「お話いいですか」と詰め寄られて今の状態。
大変スピーディーだというのは評価できるけれど無策はバカだ。
愛が足りないんじゃないのかと煽りに煽ってどう動くのかを観察する気満々だったが一気に水を差された。
「藤高さまは会長の言動をご存じなんですか」
まさかの方向からの攻撃に面喰っていると「藤高さまは事を荒立てたくないんじゃないですか」と重ねて言われた。
さすがは先輩ということなんだろう。
オレが藤高に嫌われたくないことを知っている。
「会長は以前、抱かれたくないなら抱かないけど役に立たないなら自分と藤高さまの視界に入るなと僕たちに言いましたね」
「言ったかもしれないし、言わなかったかもしれないし、言ったとして何か問題ある?」
「脅しですよ、それは。僕たちが恐れるものが何であるのか知っていてあなたはそれを突きつける。親衛隊として会長をバックアップしたい気持ちが僕たちにまるでなかったわけじゃない。でも、そもそも会長がそれを望んでいなかった」
「欲望の捌け口にしかならないって言われて受け入れてたんじゃねえーの? いやなの? オレだけじゃなく藤高にも愛されるのに? なんで?」
理解が出来ないと首をかしげるオレに敵意の視線が強くなる。
最初から技術的な面、雑務とか学園の雰囲気とか学力とか将来とかそういうところでオレや藤高を支えようって人間は肉体関係を受け入れない。自分はそういう感情はないとハッキリと意思表示をする。親衛隊に入らずにサポートをすることだってある。
藤高の情報源は親衛隊だけじゃないし、オレの敵も味方も親衛隊だけじゃない。
「自分で選んだ結果、藤高から役立たずの烙印を押された癖になまいき」
『そういう人を傷つける言葉を使うなって言っているだろ』
オレの言葉を遮って聞こえてきたのは藤高の声。
電話越しでもわからないはずがない。
後ろにいた数の圧力のためだけの脇役が印籠のごとく藤高に繋がっているらしいケータイを掲げる。
笑ってはみるけれど、これはあんまりよくない。
『弱い者いじめをしてるのを見られた子供の心境か』
「さすが藤高わかってるぅ」
気まずいのであえて明るく肯定する。
藤高の溜め息が聞こえてきそうだ。
「助けて藤高。オレいじめられてるよぉ」
『大勢に詰め寄られてもへらへら笑ってるやつがいじめられてるって?』
「かよわいネズミでちゅう」
『この状態で窮鼠猫を噛むってか』
「水鷹くんは鷹なので間違えました!」
『下種と鷹とに餌を飼え?』
「だよねーだよねーそーだよねー。気に入らない人間にこそ餌を与えて飼いならせよなー」
藤高の言葉にうなずくオレに「相変わらずのブーメラン芸」と誰かが口にする。
自分を棚上げるのは上から見下ろしたい気持ちが大きすぎるから仕方がない。
「藤高のことを思って日がな一日悶々とするような日々が終わっておめでとうって言っただけでオレはいじめてないもん」
『言い方が嫌味っぽい。自分に立ち向かってくる気があるなら来いよって煽ってるのが見え見えて不快』
「悪役じゃん? 格好いい?」
『キモイ』
バッサリ切り捨てられた。
藤高の最高にクールな一面に藤高愛の未熟児たちが瞳を輝かせ始めたのがムカつく。
「藤高さま藤高さまって抱かれたがって発情してまとわりつく癖に転入生を仕留めるでもない無能集団とか解散でいいじゃん。オレはもうこいつらを抱く気はないし話したいこともないし」
『規模縮小の連絡は俺がしたから説明を求められても俺に回せばよかっただろ』
「こいつらと藤高が話す内容とかない! どーせ、一回だけでもお願いとかキスだけでもとか女々しさ全開ですり寄ってきて金玉ついてない系のうざさを出すんだから!! てめーらみんなうぜーんだよって言っていいじゃん。何がウザいって自分のウザさに自覚がないこと! なんで、オレがこいつらに正座させられないといけないんだっての」
地団太を踏んだオレに周りがヒソヒソと「勝手に正座をしたのは会長」「ウザさもブーメラン」と言っている。
「こいつら絶対美少女が空から降ってきたら藤高より美少女をとるんだろ!!」
『だろーな。なに、水鷹は俺をとるって?』
「当たり前! 藤高が一番だって断言できないやつはいらない」
笑っているのか吐息がかすかに聞こえていてエロい。
スピーカー状態じゃなくて耳元で聞きたい。
藤高のエロテロリストさを堪能したい。
『……聞いていた通りだ。瑠璃川水鷹親衛隊は解散後に水鷹による任命制での再結成ではなく「瑠璃川水鷹の意見に同調するもの」を隊の規則に変更する。そこにいるバカの言い分に賛同できない人間は今後、除隊だ。シンプルで分かりやすいな』
「ひゃっほー!! 独裁じゃー!」
『ちなみに俺はバカに同調する気はないから除隊だ』
「バカな!!」
『バカはおまえだ』
「そうでした!」
別に藤高はオレの意見に全面同意するわけじゃない。
だからこそ、この場を中継することがオレに打撃を与えると目の前のオレの親衛隊は考えた。もう元親衛隊なのかもしれない。こいつらはいつでもオレと水鷹のいざこざを望んでいる。
今まで「藤高さまに言いつけてやる」とか「藤高さまに見捨てられろ」という捨て台詞をもらったことは多いがここまであからさまにハメられたのは初めてかもしれない。
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