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鷹も飢えたら穂を摘まむ

 ノンアルコール飲料で藤高と乾杯。  寮の部屋は会長の部屋なので転入生が会長になれば出ていくことになる。  藤高が一人部屋なのでそちらに居候するか二人部屋で二人で住もう。  基本的に生徒会役員の入れ替え以外で寮に部屋替えはないけれど物置にされている部屋を片付ければ使っていいという裏ルールがある。    会長の部屋は歴代の会長が自分の好きな家具を入れたり使い勝手が良くなるようにリノベーションしているので一般生徒の部屋よりも快適になっている。前会長は私物は全部引き上げたと言っていたけれど絨毯は残しておいてくれた。  会長ではなくなり一般生徒と同じ部屋に移っても広さが違うので絨毯の置き場所はないのだ。  ひっくり返して呪いの札を探したりもしたけれど何も出なかったので本当に意味なくそうする人間が多いのだと知った。   「パイナップルにチーズっていいよね」    クラッカーにいろんなものを乗せながら食べるオレに藤高が何か言いたげな目を向ける。  親衛隊を煽った件だというのは何も言われなくてもわかる。でも、物わかりがいい振りしたいだけで不満ばっかりのあいつらが嫌い。藤高のためなら諦める許すそういうことを平気で口にしながら嘘ばっかり。きっと藤高には「残念ですけれど、それが会長のお気持ちなら仕方がないですね。でも親衛隊がなくなるのは淋しいです」と涙ぐんで言う気満々のやつらだ。    オレがその場のノリだとでも言ったら親衛隊の解散は撤回を求められただろう。  水鷹親衛隊という藤高と同じ団体に所属することがあいつらの幸せだったのだ。  幸せそうだからこそ踏みにじってやりたくもなる。  踏みにじられないときっとその幸せを守ろうという気にもならない。  それは幸せを軽く見ている行為だ。藤高を安く見ていることになる。    普通の人間がオレのようにいつでも誰かと何かを比べて考えるわけじゃないと知っている。  それでも誰かの中で藤高を安く見積もって軽く扱っているような気配を感じるとイラつく。  二十四時間藤高のことを考えているわけでもない癖に平気で好きだという神経が許せない。  淡い気持ちも何もかも除草剤でも撒いて枯れさせて芽を出さないようにしたい。  徹底的に叩き伏せたい気持ちと立ち向かってくる挑戦者を待つこのオレの心境は兄たちだって理解できない歪んだものだ。  オレですらきちんとした説明が出来ない謎のかたまり。普通に生活していて手に入れる満足感をオレは藤高を通して味わっている。藤高の喜怒哀楽。藤高の言動のすべてがオレの全部だから藤高がいないと始まらないし最終的な結論も全部が藤高になる。    オレが口を開く前に藤高が首を横に振った。  考えがまとまったのかオレの考えを読んで否定したのかわからないけれど気だるげでエロいと思った。   「怒ってはない」 「なら良かった」 「でも、覚えてろ。俺への嫌がらせだ」 「そんな気ないよぉ」 「あいつらがどんな反応するのか見たかっただけだとしても俺への嫌がらせだ」 「マジでそんなつもりじゃないんだってば! 集団でおまえのせいで大変なことになったじゃないか―みたいに詰め寄られたらノミの心臓の水鷹くんは混乱するでしょ」 「好きな子をいじめるタイプか?」    藤高をいじめたことなんか一度もないけど今回のがいやがらせなら今までにも藤高に意図せずいやがらせをしたことがあるかもしれない。戸惑いながら「そーかも」と言えば溜め息を吐かれた。   「嫌味言って反応見たかったか?」 「見たかった。オレに泣きつくのか藤高に泣きつくのか。実力行使に出るのか武力行使で行くのか。諦めるのか呪うのか。どんな顔を見せるのか知りたかった」 「子供がアリの巣に水かけたりサナギつぶして中身を見ようとするような感覚か」 「えー、虫さんかわいそー」  オレは虫は標本派だ。  いつでも見返しで今日のお気に入りは君だと見つめるのが好き。   「そんなことより藤高っ」 「初めての催促か」 「違います。違いませんが違いました」 「下着のことなら前会長に見せてない」 「ちょっと脱いでください」    藤高はあっさりズボンを脱いでふんどしを見せてくれた。  いくつかのふんどしの種類があるけれど今日、藤高がつけてくれたのは越中褌と呼ばれるもの。  作っておいてもらって藤高が履いてくれるというのですぐに送ってもらった。  病院から帰ってシャワーを浴びて出てきた藤高に洗濯もされていてすぐに身に着けられると履いていいふんどしを見てもらった。    鷹と富士山の絵柄のものやオレと藤高の名前が極太フォントで入っているものなどいろいろだけれどさすがの藤高は無地を選択しようとした。真っ白なふんどしは美しい。これが濡れて肌に張り付いてしかも藤高が勃起して布地を押し上げるところを想像すると誰も敵うことのないエロさだと思う。   「汚れていないかの確認をっ」    真っ白なふんどしに触れようとしたら頭を殴られた。  いつものような冗談っぽい叩き方じゃない。グーだ。拳でゴツン。   「どうして、こんなことに!?」 「おまえが失礼だからだ」 「黄色い汚れのチェックじゃなく先走り的な何かが付着していないかを」 「食事中に気持ち悪い」 「ごちそうさまでした。……オレは食べ終わったけど藤高は食べてていいよ。パイナップルバターおススメ!!」 「チーズは?」 「そっちもまあまあだね」    腑に落ちない顔で藤高はアボカドのディップをつけてクラッカーを食べる。パイナップルを試す気はないらしい。   「オレは藤高の藤高に頬ずりしてるけど藤高は食べてていいよ」 「思った以上に水鷹はソロプレイが好きだよな」 「藤高がいるのにソロ萌え扱いされるって何!!」  藤高のふとももの内側を軽く撫でる。オレの首の後ろ側を藤高がつかんだ。くすぐったい。笑っていると「すこしも大人しくできねーな」と疲れた顔。  オレが吐いたものの片付けやオレが窒息しないように気道の確保とか諸々に気を使ってきてくれたはずだ。  今日は何もしない方がいいのかもしれないと思わなくもない。  オレは寝ていたけれど藤高は寝ていない。   「オレは寝ても覚めても藤高とのエロいことしか考えてない」 「疲れてんな」 「藤高以外に勃たなくなった疑惑」 「憑かれてんな、呪いだぞ」 「なのでオレは藤高に百億回ほどの初めてを要請します」 「多い」 「来世や来来世分も含みますので」 「長いな」 「ちなみに藤高の射精回数でカウントします」 「来来世までゼロだったらどーっすかな」  藤高は「バカだなー」と言いながらオレの頬ずりにゆるく硬くなっていく。   「オレの性欲が藤高イコールエロだと認定してこのままだと日常生活が送れないから抜きまくりたい」 「変態度が高くなりすぎないように気をつけろよ」 「藤高の精液添え唾液風味が最高だとか思ったせいでオレも吐くことになったんだってちゃんとわかってる」  因果応報とはうまい言葉だ。  藤高に吐いてもらって大興奮していたせいでオレの早漏さは加速していた。  同時にすぐに出さないようにしようという強迫観念も強くなって精力剤に手を出しまくった。  ここ一番で失敗しないようにと思えば思うほど気持ちは空回ってしまう。   「それだけじゃない、悪かった」    藤高がオレの頭を撫でる。  股間に押しつけるようにオレの頭を固定する藤高。  顔を上げようにも藤高の手で阻まれる。   「俺の無反応さが水鷹の焦りに拍車をかけてた」 「オレの技術不足が」 「それもあるけど……気持ちいいのか悪いのかってよくわかんなかった」  チンコの気持ちよさは万国共通だと思っていたけれど藤高からすると違うらしい。  オレは藤高に気持ちがいいかどうかを聞いて気持ちがよかったら先に進むというように触れていた。  乳首はオレの趣味なので藤高から冷たい反応が返ってきても吸い続けて弄り続けたけど気持ちよくない藤高のお尻に入れるのはナシだと思った。  勃起した藤高、そしてオレが挿入する、二人で一緒に射精で気持ちいいという流れが理想で医者が提案した射精のないセックスとか前戯だけの触れあいとかは妥協だと感じた。それでも、アイスの食べあいで藤高が反応するので肉体的な気持ちのよさよりも精神のリラックスが大切だとオレも学んだ。    それでもチンコや前立腺の刺激は藤高には二の次だと気づけなかった。  この宇宙一藤高に対する愛があると自負するオレに最悪の手落ち。   「これからはちゃんと感じてやるから気にするな」 「殺し文句!?」 「おまえがこれで殺されるなら、そうなる」    藤高の手の力が弱まったので顔を動かせば殺された。  いつもと変わらない声から不敵に笑っているのを想像したのに藤高ときたら照れたように目を閉じて赤面して照れていた。これは誰でも死にますわ。

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