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マイナス5

※転入生視点。  小さく確かめるように山波がオレの名前を口にした。  覚えているじゃないかと思ったらいつの間にかナイフをとられて押し倒されていた。  山波に反撃されることを想像していなかったわけじゃない。  でも、意外過ぎる。  自分からは何もしない人間だと思っていた。    オレの服をナイフで引き裂いて「どうしてほしい?」と首をかしげる。    寝室は人が部屋を入ると間接照明がつけられるようになっているようで薄暗くても山波の表情が見えないわけじゃない。  それなのにオレの目には山波が見えない。  笑っているのか怒っているのか泣いているのか分からない。  ナイフの刃が怖いわけじゃない。  山波が怖い。    今までとは全然違う。  オレを傷つけることを何とも思っていない。  前までは少しの申し訳なさと関わりに合わないのがお互いのためだという空気があった。  山波の考えは間違っていると突きつけてやろうと思った。  オレが会長になればあるいは瑠璃川の影響力が落ちれば山波の反応は変わるはずだった。  それはもちろん、こんな底知れない山波にするためじゃない。  こんな変化は望んでいない。   「母親の不倫にさみしい思いをしてたんじゃないのかっ」    オレの両親はお互いに忙しいだけで不倫をして子供を放置しているわけじゃない。  山波みたいに一人でファミレスやコンビニのご飯を食べてもオレはかわいそうじゃない。   「両親が離婚して名字が変わっても山波は山波でいたかったんだろ」    だからきっと誰にも名字を呼ばせようとしない。  仲良くなった奴らに山波を名前で呼ぶ理由を聞いたら山波自身がそうしてほしいと頼んだという。  オレには絶対に名前で呼ばせないと言い切っていたのにどうかしている。  名前で呼んだら振り返りもしない山波をオレはちゃんと覚えている。   「はじめに訂正しておくべきだった」    山波から得体のしれない圧迫感が消える。  微笑んでいる山波から目をそらせない。  山波はオレの肋骨をなぞるように横一文字にナイフを滑らせた。  痛いという感覚はすぐに来ない。  刃の冷たさに心臓がどこかに行きそうになるが恐怖ではなく満足感がある。   「俺の両親は離婚していない」    すこしホコリっぽい寝室が山波の場所だと思うと興奮する。  オレの傷が増えていくたびに山波にも傷がついている気がしてくる。  傷口を押されて血が滲む。  痛みよりもオレの血液が山波の指先に触れていることに快感を覚えた。  オレの期待に応えるように山波は傷口を爪でえぐってくれた。  山波の爪の間にオレの血が入り込んでいる。  これはもうオレが山波と一体になっていると言っていい。   「聞いているか? 期待してもらって悪いけどな、俺はかわいそうじゃない」    さびしがりで一人では生きていけないはずだ。  だから山波にはオレが必要なはずだ。  オレは山波の期待に応えてやっている。  誰かにそばにいてもらいたいなら瑠璃川じゃなくてオレがいい。   「オレなら山波のぜんぶをわかってる」 「なら、覚えておけよ。母に不倫の事実はない」    山波が力を入れてオレの腹を切る。  オレからむしろ腰を上げるようにしてナイフに近づいていったかもしれない。  血が外に出ていく熱が奪われていく感触に身体中が震える。   「これでイクなんてどーかしてる」    吐き捨てるような山波の言葉に犯したくてたまらなくなる。  どこか清潔で潔癖な香りのする山波を乱れさせたい。  勃起するようになったというならちゃん見せてもらわなくちゃいけない。  そのために呼び出しを受けたんだから山波の痴態が見たい。  必要なら前みたいに口で刺激してやってもいい。   「山波、山波がオナニーしてくれたらオレは山波のことをあきらめるかも」 「具体的におまえは俺をどうしたかったんだ」 「ともだちに」 「御託はいい」 「ほんと、にともだちになりたかったんだ。だってオレたち親友だろ」 「血まみれでそれを言えるあたり強者なのは認めるけどな。俺は親友だと思ってるやつにこんなことしない」 「だって、山波はオレのこと覚えてるんだろ? なら、これでチャラだ」    オレは山波を突き落とした。大怪我をさせた覚えがある。  山波はそのことを怒っていたから無視していたんだ。  だから、腹が痛いしドンドン寒くなっていくけれど山波のことを許すことにした。  山波がオナニーしているところを見せてオレに犯されることでオレたちの友情は永遠のものになる。   「俺は友人相手に勃起する神経がわかんねえーと思ってたけどおまえも水鷹も常識も良識もないからか」 「山波がオレに傷を刻み込みたいならいっぱいしていいよ」    山波の手を握ってオレは自分の額に当てる。  額の横に傷をつける。  誓いの儀式みたいで素敵だ。   「はじめに言っておくべきだったんだ。おまえが何をしたところで水鷹は俺から離れない。たとえ俺がお前を殺したとしても水鷹はそんな俺でも受け入れるしそばにいる。だから、無駄なことをするな」 「瑠璃川がそう言ったのか? ずっと山波のそばにいるって? 絶対に嘘だ。嘘だ、嘘だ」 「自分を殺して証明しろって言えないほどに本当っぽいだろ」 「オレのほうが何もかもが正しいのになんでだよっ」  瑠璃川水鷹は狂っている。  本人がそう言っていた。自分はおかしいと言いながら笑って山波の近くにいることを見せびらかしていた。  周りのみんながそのことを怒っていた。だからオレの行動は何も間違っていない。   「正しいかの判断は結局、それぞれ、自分でするしかない」 「山波は山波じゃなくなっていいのか」 「そうだよ、もういい。いいと思えるようになれた。……それをおまえのおかげだってことにしてやるから我慢しろ」    ナイフの柄でオレのチンコを山波が叩いてきた。  脳天にまで突き抜ける快楽があったが射精はできない。  萎えてないのに不発だ。   「月一、いや週一でこういうことしてくれんなら、考えてやる」 「考えるだけか。さっさと諦めて切り捨てればいいってのに暇人か。おまえらみんなしてどうかしてる」  ナイフの柄でぐりぐりチンコを刺激される。  痛いが痛い以上に気持ちがいい。  山波が上級者すぎて頭がくらくらしてくる。   「貧血状態だな」 「オレと血液型一緒だろ? 山波の血をちょーだい?」 「無理」 「精液なめさせて」 「無理」 「やっぱ勃たねえし、出せないんだっ。山波の代わりにいっぱい出す! 飲んで舐めて塗りたくっていいぞ」    上半身を起き上がらせてオレは山波に詰め寄った。  山波の血の染まった指先が口の中に突っ込まれる。  黙っていろということなんだろうが指に舌をはわせると山波の眉が寄る。  山波の澄ました顔を崩れすのが気持ちがいい。  息が荒くなっていくオレに「気絶してくれると助かる」と山波がつぶやいた。  オレのことを何だと思っているのかと頭に血が上った。   「山波はオレの努力を分かってない」 「そーだな」 「山波のためにがんばってやってるんだから山波もオレにもっと山波をくれよ」 「そーいう考え方をしてんのは知ってた」 「知ってて無視してたんならバカじゃね? 山波はうっかりしてるなぁ」 「だから、センパイには感謝してる」 「オレにじゃねえーの? なんで?」    山波に掴みかかろうとしたがナイフがオレの下着を破いていたので動きを止める。  オレがやったことをやり返しているのか本格的に誘っているのか分からないが動けない。  ナイフの先っぽをチンコの先っぽに合わせてツンツンさせてくる山波。  オレのチンコが裂けてしまうが恐怖はなかった。  使い物にならなくなったらそれはそれで山波に責任を取ってもらえる。   「おまえのおかげで俺も人を頼りにすることを覚えた。それで納得しろ。俺におまえが与えた影響はゼロじゃない」 「オレのことを頼ってくれないなら意味ない。意味わかんない」  額の血が目に入る。  血の涙を流すことになったがオレの心情がよりよく山波に伝わる気がした。  山波は淡々とオレの腹の傷をナイフの背で広げてくる。   「跡が残ったら」 「水鷹が責任をとるっていうなら考えてやる。まずはあっちを口説き落とせ」    キスの一つでもしてくれればいいのに山波はオレの口の中にまた指を突っ込んできた。今度は何か粉っぽいものが舌先で溶けていく。   「水鷹の愛人になるかセンパイの恋人になるか考えとけ」    訳のわからないことを言われながらオレは意識を失った。  どうやら山波はオレのことが好きらしい。

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