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烏を笑う愚かな鷹
※瑠璃川水鷹視点。
一足どころかだいぶ早いハロウィン気分か包帯を全身に巻いた転入生が藤高に股間を踏まれて身悶えている。
公開プレイがすこし羨ましくなるけれど藤高が周囲にドン引きしているのが面白くて生徒会室から見守るだけで手出しはしない。
オレの吐血事件というか転入生血塗れ事件というかオレの親衛隊長変更大事件というか、諸々のことがあったあの日から一週間ほどが経った。
藤川零は思った通りに優秀で藤高を襲おうとしていた数人を退学にするだけの理由をさっさとでっち上げた。
本来、転入生に使う予定だったトラップ、ドラッグ所持の件を使った。
オレが指示するまでもなく動いたので元々裏切り者扱いで藤高に近づく前に粛清する気だったのかもしれない。
転入生の傷もまた彼らのせいになった。
藤高を襲う前のウォーミングアップとして転入生を犯そうとしたけれど抵抗されたのでナイフで脅したら血が出て焦ったという単純すぎて嘘くさいシナリオ。
藤高に傷がつかないことを最優先する藤川零の実行力は疑っていない。
自分の気持ちを純粋だと思っている藤川零は世界平和を願いながら大量虐殺をするようなテロリスト的な考え方をしている。
藤高を傷つけるものを排除するために藤高をほんのすこし犠牲にしようという考え方。
それは愛が足りない怠慢の結果だ。
藤高に苦痛を感じさせずに何もかも終わらせるのが一番正しい。
誰よりも愛していると言えるなら藤高以外を犠牲にするべきだ。
藤高が求める平穏の代償は愛を押し通すことが正義だと思った元オレの親衛隊たちが払うべきだ。
今まで藤高に触れるという最高の幸せをおすそ分けしたんだから夢から覚める時期だ。
藤高は藤高だけのものであって親衛隊のものじゃない。
その当たり前を脳裏に刻みこんでオレと藤高の情事を想像して身悶えていればいい。
ただやっぱり藤川零を初めとして学園の生徒たちは自覚なく藤高に藤高ではなく自分自身が理想とする人間像という不純物を求めているらしい。迷惑な期待に藤高もこれからは振り回される気はないようだけれど優しいからサービスしてあげている。
転入生の股間をローファーで踏んでいるのは間違いなく藤高の優しさの形だ。
どうやら転入生は嗜虐的なタイプに見せかけて被虐を待ち構えるタイプだったらしい。
わざわざ藤高が傷をつけてあげていたのは下僕認定の一環だ。
本人は自分に傷をつけた人間を黙っていることを理由にして藤高から主導権を取れるつもりでいるみたいだが衆人環視の下で股間を踏まれて悦んでいるように藤高の上に立てるわけがない。むしろ、言いなり状態だ。
藤川零と転入生の藤高への愛の足りなさにしらけた気持ちになるの二人で付き合ってもらうことにした。
藤高は今回の件を丸く収めるためにオレか前会長の庇護下に転入生をおこうとしたみたいだけれどオレも前会長も当然お断りだ。
基本的に藤高の願いはなんでも聞いてあげたいけれど藤高に対する愛が足りない人間とは話が合わない。
だから、新生瑠璃川水鷹親衛隊に参加してもらった。
藤川零が隊長で、転入生が副隊長。
その他のメンツはあまり変わっていない。
オレの親衛隊に所属している方が藤高と接点を持てるし、間接的とはいえ藤高を気持ちよくさせることが出来るのだから手を引く意味がない。
どんな形であっても藤高とつながりたい人間ばかりがオレの親衛隊にいた。
「瑠璃川はずいぶんと残酷なことをするな」
前会長がオレの会長の机の上にクスリを積み上げる。
各所から回収してくれたらしい。
ギリギリ合法なら生徒の間で広まっても不思議じゃない。
親のものだとしてもお金だけは持っている人間が多い平和な学園だ。
「風紀が動くと藤高が気にしちゃうんで助かります」
「センパイを使っておいてそれだけ?」
「えー? 藤高のためなんですから何だってやってくださいよ~」
「良い性格してるわ」
褒められたので笑っていると「藤高の好みはわからないな」と肩をすくめられた。
藤高には負けたるにしてもオレはオレで良い男だと思う。いつもそれなりにモテてる。
「先輩だって転入生のことが嫌いだからねちねちイジメてぇーんでしょ?」
「イジメてる自覚あったのか」
「藤高が優しいせいで悦ばせちゃってるのは予想外っすけどねぇ」
「藤川零に抱かれるか犯せって指示を出したんだろ」
「付き合ってるんだから突き合えばって言っただけですぅ」
「抱く側でも抱かれる側でも藤高が気持ちよくなるやり方を提案するために文字通り身を削っていくぞ」
「役に立たなくても聞くだけ聞くつもりですよ、ちゃんと」
オレの言葉に「酷い悪趣味だ」と藤高と同じ反応を前会長はした。
「オレは関係ないですってば」
あははと笑うオレを不審げに前会長は見る。
でも、確かなことだ。
今回の諸々の原因は藤高でもオレでもないところにある。
「あいつらは自分の愛を押し通すために自分を犠牲にすることを自分で選んだんですよ」
中学の時にオレはちゃんと聞いた。
オレに抱かれるのが嫌なら部屋から出て行けと言った。
それでもオレに抱かれることを選んだのはあいつらだ。
藤高が手厚くフォローする必要はないし、わがままを叶えて甘やかさないといけない理由もない。
「耐えていた自分がバカみたいだとか、我慢も限界だなんてふざけすぎ」
藤高と同じ時代に生まれて、藤高の生を肌で感じられる位置にいることに感謝するどころか被害者ぶるなんてどうかしている。藤高に使ってもらえてありがたいぐらいの感覚でいればいいのに藤高を自分の思った通りに動かそうとするなんて愛がない。
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