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第2話
「小テストどうだった?」
「けっこうよかった」
「うそだろ」
手元を覗いたクラスメイトが、点数を見て顔をしかめる。追試仲間の当てが外れた、失望の表情だろう。
「昨日シュウトに教えてもらったから」
「俺も頭いい幼馴染みが欲しい」
「わかる」
六十点満点中、三十三点。シュウトに知られたら、呆れられるか褒められるか微妙なラインだ。そんな及第点ぎりぎりの解答用紙が、友人のあいだを一周して戻って来る。
「なあ。カナってさ、この字でカナタって読むの?」
氏名欄の「吉住奏」の文字と顔を見比べられて、俺はへらりと笑い返した。
「読まないよお」
「じゃあなんで、高山、お前のことカナタって呼ぶの?」
「うーん、あだ名ってゆうか。カナデって女の子みたいで嫌だから、カナタって呼んでって……子供の頃に頼んだんだよね」
「ふうん」
尋ねたほうは既に興味を失ったらしく、別の話に気を逸らしている。
俺はちくちくと痛む胸を押さえることさえできず、解答用紙を無意味に小さくたたんだ。
幼馴染みに恋をしている。
先に好きになったのは、きっと俺だった。もっとも、向こうも同じことを思っている。
大人しくて泣き虫で、絶対に俺に言い返すことなんてなかったカナデと、大喧嘩をした。
しばらくのあいだ順調に進んでいた治療も、それ以来、行き詰まったままだ。
(俺のせいだ)
カナデは楽しいことも大事な友達も全部俺にくれたけど、シュウトだけはくれなかった。
わかっている。カナデはシュウトが好きで、シュウトもカナデが好きだって。
(邪魔なのは俺なんだ)
「カナタ」
はっと顔を上げると、入り口にシュウトの姿がある。
俺と目が合うと、唇だけで「帰ろ」と言って顎をしゃくるから、リュックをひっつかんで教室を出る。身長差が開く一方のシュウトの顔を見上げながら、俺はとびきりの笑顔を作った。
「ね、小テスト、追試回避した」
「おー、偉い偉い」
大好きなシュウト。俺の初恋のひと。
おわり
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