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第1話

ソファーの上から背もたれの方をむき、 背もたれの向こう側にあるダイニングチェアに座る4歳年上の愛しい人の髪先を弄る。 「ねー、清人さん?何で結婚してくれたの?」 新聞を読みながら珈琲を飲んでいる後ろ姿に 普段はしない問いかけをしてみる。 「さー?何でだろうね?」 さほど興味なさそうに返事を返されて少し面白くない。 「ねー、僕のこと好き?」 更に普段絶対聞かないような事を問いかけると、これには驚いたのかそれとも ツボに入ったのか 「なに、今日は。」と笑われてしまった。 それでも答えてくれる訳じゃなく、ゆっくりと一人の時間を楽しむかのように振り返りもしない。 こうゆう大人の態度…実はあまり面白くない。 こうなったら、と… 「にゃー。」 鳴いてみた。 今朝Twitterで猫の日で盛り上がってるのをみたのを思い出したからだ。 「え?」困惑して振り返る清人さん。 「清人さん、今日ね、猫の日だって。 僕猫になるから清人さん飼い主ね」 急に感じた恥ずかしいさを誤魔化すように、畳み掛けるようにそう言うと、彼の髪を引っ張る。 「なにそれ笑」 少し考えた後、 「構って欲しいの?しょーがないなぁ。」 魚肉ソーセージを冷蔵庫から取り出してきて、チェアをソファーの方に向きなおして座り 餌だと言わんばかりに眼の前でふるふる振り出された。 「に、にゃー!」 僕はソファーの背もたれ越しに必死に猫になりきって餌を奪おうとする、彼はそんな僕をどう思って、そのチェアに座ったままその笑顔を向けているんだろう? 近いのに遠い壁のように感じるこの距離… 焦ったくてもっと側に寄りたいと思ってるのは僕だけなんだろうか…。 「にゃぁ。。。はぁ。。清人さんはさ、飼い主なんだから…優しくしてよ。」 こんな事いうつもりじゃなかったけど、 鬱憤もあり子供じみた事言ってしまった。。 「えー?優しくしてるでしょ?ほら… ここまでおいで?」 そう言うと餌だったはずのソーセージを半分ちぎって口に咥え… チェアに座ったまま待っている。 「え…清人さんそれって…誘ってる?」 恋人のかわいい姿に毒気を抜かれ 身を乗り出すと… 「猫じゃなくなってるよ?にぁあ?」 と一鳴きして擦寄るようにでも、触れないように近づきチェアから降りて、ちらりとこちらをみて、ソーセージを食べながら別の部屋へ…。 「ま、待って!待って、清人さんっ!!」 あわててソファーを降り後を追う。 僕はいつまでも不器用で、壁の壊し方が分からないってゆうのに、彼はいつだっていとも簡単に僕の壁をこわしてゆく。 寝室のドアに手をかけ、振り向きざまに 「にゃあ。。」 と鳴くその声は僕のくだらない想い全てを壊し、優しく受け入れてくれる恋人の甘い声だった *・゜゚・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゚・**・゜゚・*:.。..。.:*・'・ 「ところで…清人さん? どうして一緒にソファー座らないの?」 さっきは意固地になってて聞けなかった事が今は素直に言葉にして聞ける。 「そんなにいつもくっついて……(ボソッ) んー、チェア1人掛けだし。 久が後ろのソファーにいるから、 安心して1人で居られるでしょ?」 若干求めてた答えと違っていたし、彼の言葉は難しいから意味が間違ってるかも知れないけれど 僕はチェアとソファーの僅かな距離ですら壁と寂しさを感じ、 彼はそのソファーとチェアの距離感に安心と自由を感じ、 同じこの空間にいたんだと。そういう事かな? 近くても話さないとわからない事だらけだなぁ。 まだ隣にいる彼をぎゅっと抱きしめた。 「…面倒くさいヤツでごめん…」 話さなくても近くにいれば分かるなんて思い上がりだったな。。 そんな僕に"わかってる"と言うような顔で微笑んで 「にゃぁ」と返事を返してくれたのだった。

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