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4*
「言うのが恥ずかしかったら、俺の手をそこに連れてって」
黙り込んでしまった葵に助け舟を出したように見せて、これは明らかな罠。美智の手を導けば、当然触れられることになる。でも葵は悩んだ末、絡めた手を自身の胸元に近づけた。葵の瞳が羞恥で潤み出す。
詰襟は皺にならないようにハンガーに掛けられ、カーテンレールにぶら下がっている。だから葵が上半身に身に纏うのは薄いワイシャツだけ。布の上からまさぐると、控えめではあるが美智の指に引っ掛かる存在が見つかった。
「……んんっ」
「ここ?彰吾に弄られたんだ?両方?片方だけ?」
「ひだり、だけです」
頬を染めながら律儀に教えてくれる葵に加虐心がますます煽られる。今美智が触れているほうも彰吾が触れたのと同じ、左側。
「あとは?もう終わり?」
「ァ…ッん…んん」
シャツの上から弾けばすぐに硬度を増す敏感な突起。十分に楽しませてはくれるが、満足はできない。もっと色々なところを嬲り尽くしたくなるはずだ。葵も首を横に振って、彰吾とさらなる行為に及んだことを白状してきた。
「じゃあほら、連れてって」
もう一度葵に手を差し出せば、息を乱した葵はますます泣きそうな顔になった。この次に向かう場所など大方想像はつく。胸よりも桁違いに恥ずかしいに違いない。でもそれがいい。葵が困り、涙するほど美智の背筋が愉悦で震えるのだ。
「葵?」
少しだけ厳しいトーンで追い詰めれば、葵は観念したように美智の手を掴み、ゆっくりと布団の中に引き込んでいく。やはりこの子には拒むという選択肢がないらしい。
「ここでストップ?どこか分からないけど」
もちろん答えは分かっている。けれど美智が更に苛めると、葵の震えがますます大きくなるのが可愛くてやめられない。
「ちゃんと教えてよ、葵」
言葉とは裏腹に額にキスをし、首元に通した腕で優しく肩を撫でてやると葵はほどなくして落ちてくれた。布越しでもすでにそこがやんわりと主張し始めているのが分かる。
「ここで合ってる?彰吾に触られたの」
「ん、んーッ…あ、まって」
手の甲で擦り上げてやれば、ただそれだけで葵ががくがくと震え出す。隣の部屋に保健医が居ることが分かっているからか、必死に美智の制服にしがみ付いて声を抑えようとしているところが健気だ。美智を突き放して逃げ出せばいいのに。
「あぁ、ごめんね。下着濡れちゃったら困るか。パパにバレちゃうもんね」
葵の反応を見るにもう若干遅いかもしれないが、美智はこの戯れが葵の主人にバレてはいけないことを思い出した。名残惜しいが、これ以上声を上げさせて隣室の保健医に見咎められても厄介ではある。
「明後日、続きしようね」
荒い呼吸を繰り返す葵の背をさすり、濡れた目元に口付けながら、次の約束をきちんと交わす。
「昼休み、応接室で」
美智の言葉に、葵は静かに頷いた。これで朝声を掛けに行かずとも、きちんと待ち合わせ場所に現れるはずだ。美智と彰吾に食べられるために。
もう一度、今度は葵の唇を奪うと、美智はチャイムがなる前に保健室を後にした。
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