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放課後、美智に言われたことを葵に確認すると、当たり前のような肯定が返ってきた。颯斗を恨むような素振りなど全くない。いや、今まで葵が少しでもそんな態度を見せれば、さすがに颯斗だって気が付けたはずだ。 思い返せば、高校に入ってから随分と小遣いがアップした気はしていたのだ。単に高校入学という節目を迎えたからというのと、藤沢家の仕事を手伝う報酬のような物なのかと認識していた。でもそれは颯斗の勘違いで、あの金で葵の面倒を見ろと、そういうことだったのだろう。 「なんで言わなかったんですか?」 葵に聞いても無意味だとは思う。でも颯斗だってこのままでは気持ちのやり場がない。 「なんでって?」 「だから、俺のせいで飯食えなかったわけじゃないですか。すぐ言ってくれたら済む話ですよね?」 こんな口調で葵を咎めるのはおかしい。それは分かっているが、きょとんとした顔でこちらを見つめる葵に無性に苛立ってしまう。 葵が何を考えているのかがちっとも分からない。距離を縮めるつもりなんてなかったはずなのに、それが颯斗の心をチクチクと痛ませる。 「颯斗は、お友達と食べるから」 転校初日に葵に告げた言葉。だから昼休みは一緒には居られないと、確かに颯斗はそう言った。 もしかしたら葵はずっと登校してこないかもしれない。そんな期待が裏切られてヤケになっていたから、怖いもの知らずで葵を突き放すようなことを言ってしまった。葵が父親に告げ口しても構わないと、そう思っていた。 でも葵は頷いて受け入れた。颯斗が昼休みだけは役目を放棄していることを、誰にも言わなかった。 「お友達といる颯斗、楽しそう」 葵は颯斗の苛立ちも、後悔も気にせず、的外れなことを口にする。その表情がいつもよりも柔らかで、それが余計に颯斗を心苦しくさせた。 昼食代を持っていないことを相談すれば、颯斗の時間を邪魔するとでも思ったのだろうか。 「……もういいです。帰りましょう」 葵が机上に準備した鞄を奪うように手に取り背を向ければ、颯斗を追いかけるように葵も椅子から立ち上がる。 意図的ではなかったにせよ、葵に辛い思いをさせた。だから謝らなくてはいけない。それは分かっているのに、あんな態度をとったあとで素直に謝罪を口にするのは難しい。 いつもは自分で持たせている鞄を預かったのが、今の颯斗にしてやれる最大限の優しさ。 ほとんど中身が入っていないことを示すように葵の鞄は軽い。それに少しでも気が付き、気を配ってやれたなら。いや、そもそも颯斗がきちんと葵の面倒を見てやるべきだったのだ。 そうすれば、美智や彰吾に捕まることもなかったのかもしれない。 分かっている。全ての元凶は自分だ。

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