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Liquidation 1-1

 1  十一月二十五日。クリスマスまであとひと月だというのに、ニューヨーク市警十七分署宛てに奇妙なプレゼントが届いた。  贈り主は不明。一見クリスマスカードを思わせる封筒には几帳面な文字で「サミュエル・ウィリアムズ様」と宛名書きされていた。 「カーター先輩。また例の手紙ですか?」  殺人課の新米刑事であるケビン・モリタが柴犬のような顔をけわしくひそめる。 「この半年で十通近く届きましたよね。しかも宛名はすべてウィリアムズ警部補。何か訳ありなのでしょうか?」 「警部補殿への嫌がらせなら大歓迎なんだが――」  ジェイク・カーターは封を開けると、中から一枚の紙を取り出す。文言はいつも同じだ。 『清算の時が来た。仇名(あだな)すものに報復を』 「――実際に被害が起きているようじゃあ俺たちも無視はできない。この手紙、どれくらいの頻度で届いているんだ?」 「ええと。おおよそひと月に一通のペースだったのですが、今月に入ってから半月、もしくは週一まで増えていますね。警部補は何と?」 「口ではタチの悪いイタズラだと言っているが、ひとりでこそこそと何かを調べているらしい」 「カーター先輩に何も言わずに?」 「ああ。ムカつくことにな」  謎の人物から手紙が届き始めたと同時に、十七分署の管轄内で小さなボヤ騒ぎが頻発するようになった。初めは気にも留めていなかったが、二か月、三か月と経つたびに、ボヤ騒ぎは一転、爆弾事件へと発展した。  空き家や廃倉庫等に設置されるため、幸い人的な被害の報告はないが、こういった事件は徐々にエスカレートしていく。ジェイクとケビンがもう一度手紙を検めたところ、分署に届いた日付と爆弾事件のみならずボヤ騒ぎが起こった日付がことごとく一致したのだ。 「サム、この事件に関して何か俺たちに隠していることがあるんじゃないですか?」  今日届いたクリスマスカードを手に、ジェイクはサムのオフィスに(おもむ)いた。 「僕が? まさか。何か知っていたら、真っ先に君に報告するよ」 「正直、最近のあなたの言動はおかしい。これっぽっちも信頼できませんよ」 「手厳しいね」 「連続爆弾魔の件は最初あなたと俺が担当でしたよね? それがいつの間にか俺とケビンになった。それまではいい。後輩に場数を踏ませることは良い経験になりますからね。でもあんたは私情でケビンを捜査から外した。あれから日が経つんでケビンは平然としているように装っていますが、本心はそうとう悔しがっていると思いますよ」 「……まどろっこしいなあ。確信を突いたらどうだい?」  はぐらかそうとしたのはあんたのほうじゃないか。喉元まで出かかった言葉をぐっとこらえて、ジェイクは続けた。 「連続爆弾魔の正体に心当たりがあるのでは?」  ジェイクの言葉にサムの淡いブルーの瞳が曇る。 「あるよ」  答えは簡潔にもたらされた。 「どうして俺たちに共有しないんです? それともハナからひとりで解決する気だったと?」 「そうだね。うん。これは僕が解決すべき事件だし、何よりも君を巻きこみたくなかったんだ」 「あなたは自分の立場をわかってるんですか? あなたは警部補。俺たちのボスで、俺の相棒なんですよ。単独行動は組織を壊す。どうしてこの事件にこだわるんです? せめて俺にだけでも情報を共有してください」 「……困ったな。正論を吐かれちゃあ僕が折れるしかない」 「じゃあ――」 「ただねジェイク。今、君に話せることは確信が取れた情報だけ。裏が取れていないものは話せない。これで勘弁してくれないかい?」 「駄目です。裏を取るにしろ事前に知っておきたい。全部話してください」 「頑固だなあ」 「どっちがですか」 「わかったよジェイク。話そう。連続爆弾魔に関する資料をすべて持って来てくれないかな。もちろん最初の手紙から。僕は君たちに伝えていない情報を整理しておく。まとめる時間をくれないか? そうだなあ、一時間後にまたここに来てくれ」 「もちろん、話し相手は俺だけですよね」 「当然さ。君が担当だろう、巡査部長」

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