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Liquidation 1-3
会議の結果、十七分署の管轄を大きく四ブロックに分け、ビルが標的にしそうな建築物をピックアップし、各ブロックに分けた担当刑事たちがしらみつぶしに捜査する、ローラー作戦を実施することになった。動ける人手は少ないが、タイムリミットまで数日しかなかった。
爆発物処理班と常に連携を取り、いつでも出動できるような体制を整えた。だが刑事たちをあざ笑うように一向に爆発物は見つからず、ついにクリスマスが訪れた。
「世は祝福ムードだっていうのに、僕らはどうして毎日駆け回って捜査しているんだろうね」
「ぼやいているヒマがあったら、少しでも協力しようという姿勢を見せてくださいよ。ビルが爆弾を仕掛けそうな所に心当たりはないんですか?」
「僕がビルの立場だったら今日は特別な日だ。一番目立つ所を派手に爆発させるね。たとえ人的被害が出ようとも、彼の大きな目的のうちのひとつは達成できるのだから」
「何でそれを今まで黙っていたんです? 会議の時に言ってくれたら俺たちが捜索する対象が大きく絞られるのに」
「どうだろう。やっぱり心のどこかで、昔のビルを信じたかったのかもしれない」
「……とにかく俺から各班へ連絡を入れます」
「ビルも粋なことを考えるね。僕たちはクリスマスデートの真っ最中だ。解決したら僕の家で一杯どうだい?」
「軽口はそれくらいにしてください」
無線で各班に連絡を入れ終えると、ジェイクは担当ブロックの中からビルが標的にしそうな箇所を改めて確認する。建築途中の建物か、空きテナントが多いビルか、それとも。
十七分署周辺地図を確認していたジェイクは、そのときあるひとつの可能性に思い至り、思わずタブレットを持つ手が震えた。
「まさか……っ」
「どうしたんだい、ジェイク」
「俺たちは十七分署の管轄を四ブロックに分けた。誰しもそうするであろう常套 手段だ。当然、捜査員は散り散りになる。ビルの狙いはそこにあったのでは?」
マップのある一点を指さすと、サムはなるほど、と言った。
「四分割した中心。僕らの分署の前にそびえる立体駐車場。昼間なら利用者も少ないし、何よりクリスマスだ。わざわざ警察に来るような善良な市民はいない。それに人的な被害が出たとしても、ほとんどが警察関係者になり得る」
「他の班に確認しますが、間違いなく俺たちが標的に近い。急ぎましょう。爆発まであと一時間もない」
案の定、捜査員たちは管轄外に近い所に点在しており、ジェイクたちの元まで辿り着くまでに間違いなく爆破予告時間を過ぎてしまう。
十七分署内の人員に関してはサムが警部に状況を説明し、一時的に避難をさせた。あとは立体駐車場内に民間人がいた場合に備えて、各フロアを回り、爆弾を見つけるだけだ。
しかし地下二階、地上五階の駐車場をたったふたりで捜索するのはあまりにも困難な仕事であった。サムから助言を得ようとしたそのとき、ジェイクの目が駐車場の前を歩く不審な男を捉えた。男はモッズコートのフードを目深に被り、じっとこちらを見ている。ジェイクと目が合っても、男は動こうとしなかった。
「サム」
ジェイクは男の存在をサムに知らせる。
「……確証は持てないが、関係者だろうね。近づいて逃げたら、間違いなくやつだろう。ただあの態度を見ると彼は僕らを挑発している。簡単に乗るべきではないよ」
「悠長なこと言ってる場合ですか? もう三十分もない。あの男から話を聞いて、爆発物の場所を聞き出すべきです」
「彼もまたダミーだったらどうするんだい?」
「可能性の話をしていたらキリがない。とにかく俺は行きます」
「それは許可できない。ジェイク、僕は君の相棒だけど上司でもあるんだよ。部下をみすみす危険な所に放りこむわけにはいかない」
「現場嫌いのあなたに言われたくない!」
そのとき、視界の端で男が動いた。身をひるがえし、駐車場の中に入っていく。
「サム、やつが動きました。俺も行きます」
「僕も行くさ。ただジェイク。頼むから無茶だけはしないでくれ。君が大事なんだ」
「口説いているつもりですか? こんな事態の最中に」
「いつもどおりのほうがリラックスできるだろう、ジョニーちゃん」
「……クソが」
ジェイクとサムは男を追って立体駐車場に足を踏み入れた。この場所に爆発物があることを願いながら。
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