1 / 1

同情で付き合ってもらっていると勘違いして別れを切り出す話

 北斗(ほくと)は同じ大学に通う二つ上の先輩である(いたる)と付き合っている。  北斗は彼と別れようと決意していた。  別に、至にはなにも悪いところはない。不満など一つもなく、できることならばこのままずっと彼の恋人でいたいとすら思っている。  それでも、北斗は彼と別れなくてはならないのだ。  至とは同じサークルに所属している。出会いもそこだった。運動不足にならない程度に運動がしたくて選んだサークルに、至がいた。  至は体格がいい。長身で体つきがガチッとしている。近くにいると威圧感を感じ、厳つめの容貌と鋭い目付きも相まって、北斗は最初、彼が怖かった。不興を買えば暴力を振るわれるんじゃないかと勝手に怯え、あまり関わらないようにしていた。  けれど実際はそんなことはなく、至はとても面倒見のいい頼りになる先輩だった。目付きは悪いが顔立ちはとても整っているので女性にもモテていた。 接する内に彼の人となりを知り、気付けば北斗は彼にすっかり懐いていた。顔を見れば先輩先輩と犬のように駆け寄り、至はそんな北斗を鬱陶しがることなく可愛がってくれた。  尊敬する親しい先輩。北斗にとって至はそれだけの存在だったのに、いつの間にか彼にそれ以上の感情を抱いていた。  同性の先輩に恋をするなんて、驚き戸惑い、どうすればいいかわからなくて、でも決して至には知られてはいけないということはわかっていた。このまま、先輩後輩としていられればいい。この関係を保っていこうと思っていた。  それなのに。  北斗が二十歳を迎えたとき、至は居酒屋に連れていってくれてお祝いしてくれた。  至と二人きりでこうして飲めるだけでも嬉しくて、はじめてのお酒にテンションも上がり、その上北斗はお酒があまり強くなかったようだ。量はそんなに飲んでいないのに、気付けばべろべろに酔っ払っていた。  一人でまともに歩けず、自分の家の住所も答えられなくなってしまった北斗を、至はタクシーで自宅へと連れ帰ってくれた。  はじめて至の家に上がった北斗は舞い上がり、アルコールで思考もおかしくなっていて、じゃれつくように至に抱きつき、あろうことか「先輩、ちゅー、ちゅーしてください」なんてアホみたいなことを言ってしまったのだ。 「こら、やめろ、離せ」と至に体を引き剥がされる。  拒まれるのなんて当然のことなのに、完全に酔っ払っていた北斗はキスを拒絶されたショックに泣き出してしまった。  子供のように泣きじゃくって、至に縋った。 「ごめんなさいっ、先輩のこと、好きになってごめんなさいっ……好き、先輩、ごめっ、き、嫌いにならないでっ……もうしない、触ったりしない、先輩が嫌なら、もう近づかないから、だから、嫌わないでっ……」  決して知られてはいけない自分の気持ちを、北斗は無自覚に暴露していた。  顔をぐちゃぐちゃにして泣く北斗の頭を、至がわしゃわしゃと撫でる。 「お前、俺のこと好きだったのか」 「ご、ごめっ、ごめんなさいっ……」 「なに謝ってんだ、謝ることじゃねーだろ」 「で、でも俺……っ」 「もう泣くなよ」 「んんっ……」  至は頬を流れる涙を拭ってくれる。  やっぱり至は優しい。キスしようとした北斗にこうして躊躇いなく触れてくれるのだから。気持ち悪いと思われても仕方ないことをしたのに。  彼の優しさに、また涙が溢れた。 「先輩、ごめんなさい……俺、もう先輩には近寄らないようにするから……」 「なに言ってんだ。俺のこと好きなんじゃなかったのかよ?」 「す、好き、です。だから……」 「なら、今日からお前は俺の恋人だ」 「えっ? な、なんで……?」 「嫌なのかよ?」 「嫌じゃない! ですけど、でも……」 「でも?」 「き、き、キス、先輩、嫌がってたのに……」 「嫌がったわけじゃねーよ。簡単にしていいもんじゃないだろ。お前が俺のこと好きだなんて知らなかったし。酔っ払ってワケわかんなくなってる状態でそんなことしたら、お前が後で落ち込むことになると思ったんだよ」 「? 嫌じゃなかった? 俺、先輩に嫌われてない……?」 「嫌うわけないだろ」  至はしょうがないヤツだな、というように苦笑を浮かべ、そして北斗に口づけた。  口と口が重なり、北斗はビックリして目を丸くする。  顔を離した至は、北斗の顔を見て笑った。 「お前、驚きすぎ。顔だけじゃなく耳まで赤くなってるぞ」 「だっ、だ、だ、だって……っ」  柔らかく目を細め、こちらを見つめる至の笑顔はとても優しくて、北斗の心臓はバクバクと早鐘を打つ。  熱を持った北斗の頬を撫で、至はまた口づけた。唇を重ねるだけのキスが繰り返される。  アルコールのせいかキスのせいか、頭がくらくらして、足元もふらふらしてきた。  ぐらりと傾いた体を至のしっかりと筋肉のついた腕に抱き止められるのを感じながら、北斗は眠りに落ちていた。  翌朝目が覚めると、北斗はベッドに寝かされていた。  酔っ払って犯した自分の失態を思い出し、一気に全身から血の気が引いていった。  とにかく迷惑をかけてしまったことを至に謝らなくては。でも、謝った後どうすればいいのだろう。また今までの関係を続けられるのだろうか。酔っ払いの戯れ言だと受け取り、なにもなかったことにしてくれるだろうか。  それとも、もう今まで通りではいられなくなってしまうのだろうか。至に避けられたりするくらいなら、北斗の方から離れたい。サークルも辞めて、もう二度と至には近づかない。  蒼白な顔でこれからのことを考えていると、寝室のドアが開けられた。開けたのはもちろん至だ。 「お、起きてたのか。体調はどうだ?」  至の態度はいつもとなにも変わらない。これは、なかったことにしてくれるパターンだろうか。 「北斗? 具合悪いのか?」 「いっ、いえ! すみません、全然大丈夫です!」 「ならよかった。朝飯食うだろ? 作ったから起きて来いよ」 「えっ、あ、す、すみません、俺、ずっと寝てて……っ」  北斗は慌ててベッドから下りた。  焦ったせいで足が縺れ、転びそうになる。それを、素早く近づいてきた至に助けられた。  がっちり体を支えられ、北斗はまた焦って離れようとして、ふらついて至に腰を押さえられる。 「少し落ち着けよ」 「うっ、す、すみませんっ」  頬を染めて謝る北斗を見て、至は笑う。 「謝ってばっかだな、お前」 「あ、う、だ、だって、俺、先輩にすごい迷惑かけて……っ」 「ははっ、こんなもん、迷惑でもなんでもねーよ」  身を縮めるように恐縮する北斗の唇に、至の唇が重ねられた。  北斗は度肝を抜かれ、目を見開いた。  唖然とする北斗を見下ろし、至はまた吹き出す。 「だから驚きすぎだろ」 「っへ、あ、えっ、あっ……?」 「恋人なんだから、これくらい驚くようなことじゃないだろーが」 「はっ、え、あ……」 「ほら、飯食うぞ」  硬直する北斗は腕を引かれるまま足を動かした。  なにが起きているのかわからない。  どういうことなのだろう。  冗談なのか。北斗をからかっているのだろうか。  けれど、至はそんなことをする男ではない。おふざけで後輩にキスなんてしない。  なら、どうして。  混乱して、でもどうしてなんて尋ねられないまま一緒にご飯を食べて、その内に気づいた。  至が、北斗を恋人として扱っていることに。  明らかに今までとは違う。ただの後輩に対する態度ではない。恋人に対するそれだ。  冗談でもなんでもなく、至は北斗を恋人として見ている。  なんで。どうして。  疑問の答えは、北斗が自力で導き出した。  思い出したのだ。自分が泣いてしまったことを。  あんな風に泣きながら好きだなんて言われて、優しい至は突き放せなかったのだろう。だから、告白を受け入れたのだ。そして誠実な彼は、一度恋人になると言ってしまった以上、それをなかったことにはできなかった。  つまり北斗は彼の同情を誘い、憐れまれて恋人にしてもらったのだ。  それに気づいたとき、北斗は断るべきだった。無理しなくていいと、俺は大丈夫だからきっぱり振ってくれと、そう至に言わなくてはならなかったのだ。  けれど北斗はそうしなかった。  お情けでもなんでもいい。至に恋人として扱ってもらえることが嬉しくて、拒むことなどできなかった。  至は本当に優しかった。同情で付き合っている後輩相手に、面倒がらずにデートに誘い、デートを重ね、ちゃんと恋人として接してくれた。  好きだとか、可愛いとか、そんなことまで言ってくれた。  抱き締めて、キスして、セックスまでしてくれた。  それはさすがに断らなくてはならないと、そうは思ったのだ。思いはしたのだ。至は北斗をそういう意味で好きではないのだ。だから、そこまでしなくていいと、本当は止めなければいけなかった。  でも、至に抱かれてみたいという欲望に勝てなかった。彼がどんな風に相手を抱くのか知りたかった。どんな顔をしてどんな風に触れるのか。  だから、駄目だとわかっていても、一回だけだからと自分に言い訳して至と体を重ねた。  多分、至も一回きりのつもりだろう。好きではない男となんて本当は彼もしたくはないはずだ。でも、恋人だからそういう行為をしなくてはならないと思っているのだろう。  これが最初で最後のチャンスなら、北斗はどうしても逃したくなかったのだ。  しかし、一回だけだと思っていたのに、至はそれからも何度も北斗を抱いてくれた。  まさか、同情でここまでしてくれるなんて。  北斗はもうすっかり彼に恋人扱いされる喜びに酔いしれ、あと少し、もう少しだけと別れを先のばしにした。彼の恋人でいられるこの幸せな時間を手放したくなかった。  けれど、いい加減解放しなくてはならない。いつまでも同情で彼を自分に縛り付けているわけにはいかない。  至はモテる。彼が誰かに告白されたという噂を耳にしたり、彼に振られたという女子の会話を聞いてしまうことがあった。そのたびに、北斗の胸は痛んだ。  至は誰とも付き合わない。付き合えない。北斗がいるからだ。  振れば、北斗を泣かせることになる。きっと至はそう思って、北斗と別れられないのだ。  至の優しさに甘え、ずるずるとこの関係を続けてきた。  これからもずっとこのまま、彼の恋人でいたい。  でも、そんなことはできない。  もうすぐ至は卒業する。それを機に、北斗は彼との別れを決意した。  こんなに長く付き合わせてしまって、至にはとても申し訳ないことをしてしまった。北斗がいなければ、至は可愛い彼女を作って、その彼女と楽しい時間を過ごすことができたかもしれないのに。  北斗は自分の欲望を優先し、彼の大切な時間を奪ってしまった。  至が好きだから。どうしようもなく好きで、彼が傍にいてくれるのなら同情でもなんでもいい。離れたくなかった。  そんな自分勝手な理由で。  許されることではない。  同情で付き合ってもらっていると気付いていながら、ずっとそれに気付いていない振りをして、恋人のままでい続けた。  それを知ったら、至は怒るだろうか。  嫌われても、軽蔑されても仕方ない。  その覚悟で、週末、北斗は彼の家に招かれた。  ソファに座る北斗の前に、至がテーブルの上にコップを置く。中にはコーヒーが注がれていた。 「あ、ありがとうございます、先輩」  緊張に顔を強張らせながら、至に礼を言う。  本当は、恋人のように彼を名前で呼んでみたかった。至さん、と。きっと至は駄目だなんて言わなかっただろう。頼めば北斗の好きに呼ばせてくれたはずだ。  でも、北斗はそうしなかった。それだけが唯一、北斗が我慢したことだった。図々しく恋人面して、名前で呼ぶことなどできなかった。セックスまでしておいて、言えたことじゃないけれど。その一線だけは、越えなかった。  至は先輩でしかないのだと、自分は彼にとって愛する恋人ではなく後輩でしかないのだと、それを忘れない為に。勘違いしてしまわないように。  北斗は至を「先輩」と呼び続けた。  至が北斗の隣に座る。  こんな風に二人きりの時間を過ごすのは今日で最後になるのだろう。  浅くなる呼吸を落ち着けながら、北斗は口を開いた。 「先輩、俺、話があって……っ」 「ん? どうした?」  俺と別れてください、と言おうとして躊躇った。怖じ気づいたわけではなく、その言い方でいいのかと思ったのだ。  こちらから告白してお情けで付き合ってもらっている分際で、別れてくださいだなんて言ったら何様だと思われるのではないか。  至の方から別れを切り出すのが普通だろう。けれど至は優しいから、そうしないのだ。  だから北斗の方から言うしかないのだが、しかし別れてほしいなんて言ったら、まるで北斗が至に愛想を尽かしたようではないか。  ならどう言えばいいのだ。俺を振ってください? 捨ててください? もう会うのやめましょう? なにが正解かわからない。  別れるということしか頭になく、事前に言うべきことをまとめておかなかったことを後悔する。 「北斗?」  至が訝しげにこちらを見ている。  どうしよう。早くなにか言わなくては。  焦燥に駆られ、北斗は口を開く。 「俺っ、先輩と別れたいんです……!」  咄嗟に出たのがそんな言葉だった。 「あ?」  至の低い声に、ビクッと肩が跳ねる。  ああ、失敗してしまった。  やはり、別れたいなんて北斗が言うべき言葉ではない。それなのに自分の立場も弁えずそんなことを言ってしまい、至を不愉快な気持ちにさせてしまった。 「どういうことだ、北斗?」 「あっ、ち、違くて……俺、先輩ともう会わないつもりで……」 「ああ?」  至の声が一段と低くなる。  彼の纏う不穏な空気に、北斗の焦りは募っていく。きちんと説明しなくてはと思うのに、言葉が出てこない。  馬鹿みたいに口をパクパクして、狼狽する北斗を至がソファに押し倒した。 「あ、あ、せ、せんぱ……」 「別れる? 俺が嫌になったのか? あ?」 「ち、違っ、そんな……っ」  嫌になんてなるはずがない。それなのに、否定の言葉すらうまく口にすることができない。 「違わねーだろ。別れたいってことはそういうことなんだろ」  至は今まで見たことがないほど冷たい目で北斗を見下ろしている。  彼の怒りをひしひしと感じ、北斗はますますなにも言えなくなってしまう。  だが、彼が怒るのは当然だ。泣きながら好きだと言って同情を誘っておいて、今さら北斗の方から別れたいなんて、そんな自分勝手な発言をされれば不快に思うだろう。飽きたから別れるなんて言い出したと思われたかもしれない。  でも、違うのだ。そうじゃない。誤解を解きたいのに、なにをどう言えばいいのかわからない。  普段あんなに優しい至をこんなに怒らせてしまったというショックに、北斗はパニックに陥りかけていた。 「他に好きなヤツができたのか?」 「違っ! 違い、ます……っ」 「正直に言えよ。誰だ? 俺の知ってるヤツか?」 「ほ、ほんとに、ちが、ぁ、んんんっ」  苛立ったように唇を重ねられ、言葉を遮られる。  すぐに舌で唇を割られ、口腔内をめちゃくちゃに蹂躙された。どろどろと流し込まれる唾液を必死に飲み下しながら、北斗は体から力を抜く。  至が怒っているのは北斗のせいだ。きっとカッとなって、こんなことをしているのだろう。下手に抵抗すれば更に苛立たせてしまうかもしれない。至の気持ちが落ち着くまで、抗わずに受け入れた方がいいだろうと思った。  至の厚い舌が喉の方まで差し込まれ、ぬろろろろっと上顎を擦る。  ぞくぞくして体が火照り、そんな状況じゃないのにペニスが反応してしまう。 「んんぁっ、んっふぁっ……」 「キスだけで、もうズボンの上からわかるほどチンコ勃ってんな」 「んひっひっあっあぁっ」  ぐりぐりと至に膝で股間を刺激され、北斗の体は容易く快楽に溶けていく。 「こんなんで、俺と別れたいなんて言ってんのか」 「あっあっあっあぁんっ」 「自分で腰振って擦り付けてきてんじゃねーか」 「んぁっあっ、ご、ごめんなさ、あっあっあっ」  自分から別れを切り出しておいてこんな反応を見せたら、淫乱な尻軽だと至に軽蔑されてしまう。  けれど至が大好きな北斗は、彼に触られるとすぐに快楽に溺れ止められなくなる。至の膝を使って自慰をするようにはしたなく腰が揺れてしまう。 「こんな体で、俺と別れたあとどうすんだ? 他の男に抱いてもらうんだろ?」 「ちが、違うぅっ、がまん、がまんします……っ」  北斗は首を横に振って否定する。  至以外の男に抱かれるつもりなんてない。抱かれたいとは思わない。  至と別れたあと、体は彼を求めて疼くだろう。けれどそれを、他の男で慰めたりしない。満たされないまま、耐え続けるだけだ。 「我慢なんてできないだろ、こんな感じやすくて、エロい体で」 「できるぅっ、んっんあっ」  服を捲り上げられ、露になった胸の突起を至の指が押し潰す。 「あんっ、んっあっあぁんっ」 「ここも、俺が弄りまくったせいですっかりモロ感乳首になったよな」 「ひぁんっあっあっ、くりくりって、しちゃ、あっんあぁっ」 「北斗は乳首吸われんの好きだろ? そんでビンビンに勃起した敏感乳首に歯ぁ立てられんのも好きだよな?」 「んひぁあっあっ、あうぅっ」  至の艶を孕んだ声音が耳を擽る。そうされたときのことを思い出し、それだけでびくんっと体が跳ねた。ペニスからとぷりと先走りが漏れる。  乳首をぢゅううっと音が鳴るほど強く吸い上げられ、コリコリと転がすように甘噛みされたい。してほしい。  ねだってしまいそうになるけれど、北斗は必死に耐えた。 「俺と別れたら、誰に乳首可愛がってもらうんだ? え?」 「しないっ、あっひぅんっ、誰にも、してもらわな、のぉっ、がまんするぅっ」 「できねーだろ」 「はひぃんっ」  ピンッと指で乳首を弾かれ、北斗は弓なりに背を反らせた。  びくびくと痙攣する北斗を見下ろし、至が唇の端を吊り上げる。 「ちょっと弄られただけで甘イキするようじゃ、我慢なんてできるわけないだろ」 「ひっ、く、ふぅっ……」  至に縋ってしまいたくなるが、それを懸命にこらえる。我慢できないと言えば、至はまた北斗を憐れんで別れられなくなってしまう。 「がまん、します、できます、からぁっ」 「へえ。でも、乳首は我慢できてもこっちはどうだ?」  至が、慣れた手付きで北斗のズボンと下着を脱がせる。ぷるりと飛び出したペニスは、乳首への刺激で漏らした体液でぬるぬるだ。  我慢できると言いながら、全く説得力のない状態のそれに、北斗は羞恥に戦慄いた。  至は悪辣に唇を歪め、蜜を滲ませる鈴口を指の腹で擦る。 「ひゃあぅっ」 「こんなにしといて、我慢できるとかよく言えるな」 「うっ、あんっ……」 「こっちまでぬるぬるじゃねーか」 「あっ、あぁぅっ……」  至の指がペニスの裏筋を辿り、陰嚢を通り、会陰を撫でる。  ぞくぞくとした刺激に、北斗は無意識に脚を広げ、はしたなく陰部を晒していた。後孔が期待するようにひくりと口を開ける。 「ここ、弄る前からひくついてんぞ」 「あんっ」 「もうちんぽ欲しくて堪んねーんだろ」 「ひぁあっあっひっ」  ぬぐぐぐ……っと指が中に埋め込まれる。内壁はすぐに悦び、媚びるように彼の指に絡み付く。 「ほら、ちんぽ扱くみたいに中がうねってんぞ」 「んあっあっあっあひっ」 「こんなにちんぽ好きな体になってんのに、我慢なんてできるわけないよな?」 「んひぃいっひぁっあっひんっ」 「いつもここ、ちんぽで擦ってやったらひんひん鳴いて悦んで、もっともっとってねだってくるもんな?」  差し込まれた三本の指で、前立腺をごしゅごしゅと擦られる。痺れるような快感が全身を駆け抜け、北斗は歓喜の悲鳴を響かせた。 「はひぃっあっあっんひあぁああっ」 「ほら、いつもみたいにちんぽ入れてって言えよ」 「ああっ、らめ、らめぇっ、がまん、がまんしゅるのっ、がまんできましゅぅっ」 「ちんぽ欲しくねーのか?」  熱を帯びた声音に尋ねられ、欲しくない、なんて突っぱねることはできなかった。実際体はとっくに至の熱を求めている。けれどここで欲しいと言ってしまうわけにはいかなかった。 「いっつも俺のちんぽ欲しがってたの、ウソだったのか? 先輩のちんぽ奥まで入れて、いっぱいごちゅごちゅしてって言ってたの、あれは演技だったのか?」 「ちがぁっ、あっあっ、そんな、違います、えんぎ、なんてぇっ、んっひはぁっ」 「なら、もう俺のちんぽはいらないってことか? 俺以外の別の男にちんぽ突っ込んでもらうから、俺のちんぽはもう欲しくねーって?」 「そ、そんな、あっあっんひぁっ」  北斗は嘘でも彼を拒絶するようなことは言えない。今でも至のことが大好きで、本当は今すぐにでも彼が欲しい。北斗は至しか求めていない。  けれどその本心を伝えてしまえば、折角別れを決意したのに台無しになってしまう。  こんなはずじゃなかったのに。穏便に別れられるはずだったのに。  どうしよう。どうしよう。  焦るばかりで、なにも解決策は浮かばない。 「北斗、なあ、こんなに指にしゃぶりついてんのに、ちんぽはいらねーって言うのか?」 「あっうっんんぁっ、が、がまん、しますっ、がまん、んひっあっあぁっ」 「言えよ、北斗、俺が欲しいって」  北斗を見つめる至の瞳が、切なげに歪む。まるで縋るような彼の声に、北斗の決意が揺らぎそうになる。  これは北斗の願望が見せる錯覚なのだ。同情で付き合っている相手と別れたくないなんて、思うはずがないのだから。  北斗は弱々しくかぶりを振った。 「がまん、できます、俺、もう、先輩がいなくても、平気だか……っんひおおおぉ……っ!?」  ばちゅんっと、激しく音を立てながら一気に肉棒が胎内に突き立てられた。  突然のことに放心しながらも、体は腸壁を擦り上げられる快感に絶頂を迎えていた。 「おっ、ひっひっ、あっあぁっあっあっあひっ」 「ちんぽ突っ込まれてそんな蕩けた顔してるくせにっ、もうちんぽ突っ込まれなきゃ満足できない体になってるくせにっ」  絶頂の余韻に浸る間もなく律動がはじまり、ぐちゅっぐちゅっぐちゅっぐちゅっと直腸を掻き回される。頭がおかしくなりそうなほどの快楽を断続的に与えられ、目の前がチカチカして、体の痙攣が止まらない。  こんな乱暴とも言える抱き方をされるのははじめてだった。けれど北斗の体は痛みを感じることなく、快感だけに支配されていた。 「すぐに欲求不満になって、我慢できなくなるだろっ、どうすんだよっ、男漁りにでも行くのか?」 「そんにゃっあっひあっあっあっんひっ」 「それとも、新しくできた好きな男に抱いてもらうのかっ? そいつにもここ、」 「ひはぁあんっあっひっひあぁっ」  埋め込まれた亀頭が、肉壁の膨らみをぐりゅぐりゅと捏ね回す。 「こうやって、いじめてもらうのか? 好きだろ、北斗。いつもここ、ごりごりしてってケツ振ってねだるよな。俺と別れて、他のヤツに同じようにしてもらうのか?」 「ちがぁっあっひぃんっ、しにゃいぃっ、他の人となんて、あっあっんっんひぁあっ」 「ウソつけよ。こんなちんぽ好きの雄まんこが、我慢できるわけねーんだよ。俺がそうなるように仕込んだんだからなっ」 「あぅんっんっひぁっ、できりゅっ、がまんしゅるぅっ」 「はっきり言えよ、俺のことが嫌になったんなら。お前、俺に全然好きって言わないよな。付き合ってもずっと先輩呼びだし。ほんとは、そんなに俺のこと好きじゃなかったのか? 今まで、仕方なく付き合ってたのか?」 「ちがっ、違う、違います……っ」  とんでもない誤解に、北斗は快楽に思考を侵されつつも慌てて否定する。  確かに北斗は至に好きと伝えることは少なかった。至が好きと言ってくれても、北斗からは言わないようにしていたのだ。本当は言いたかった。でもあまり好き好き言ってしまえば、至が別れづらくなってしまうだろうと思ったから。 「好きっ、俺は先輩のこと、好き、です……っ」 「別れたいんだろ?」 「だ、だって、これ以上、先輩を付き合わせるわけには……っ」 「は?」 「せ、先輩こそ、俺のこと好きなわけじゃないですよね……? ど、同情で、俺のこと、恋人にしてくれたんですよね……?」 「はあ? なに言ってんだ?」  至は訝しげに眉を顰める。  本当に、意味がわからない、という顔をしている。  その反応に北斗は戸惑った。 「お、俺が泣きながら告白しちゃったから、だから先輩、俺のことフれなくて、それで恋人にしてくれたんじゃ……」 「んなわけねーだろ、同情で付き合うとか、あり得ねーよ」 「えっ、じゃ、じゃあ、なんで……っ」  きっぱり否定されて、北斗は狼狽する。  至は顔を歪めた。彼の瞳は怒りとも悲しみともつかない感情で揺れている。 「好きだからに決まってんだろ。俺もお前のことが好きだったんだよ。だったら、告白されたら付き合うだろうが」  確かにその通りだ。好きだった相手から告白されたら付き合おうということになるのは自然の流れだ。けれど北斗は、至に恋愛感情で好かれているなんて想像すらしていなくて、勘違いしてしまった。 「あ、お、俺……」 「お前は俺が、同情でキスしたり抱き締めたりセックスするような男だと思ってたのか?」 「あ、あ……っ」 「好きだって何回も言ったのに、お前は信じてなかったってことか」  冷めた声音で吐き捨てられ、胸にズキッと痛みが走る。  勝手な思い込みで、至を傷つけてしまった。  その事実に北斗は絶望した。 「あ、ご、ごめんなさ……っ」 「北斗はもう、俺と別れたいんだよな」  そう言って、至はずっぽり嵌め込まれた陰茎をずるずると抜いていく。  ここで離れてしまったら、本当に至と別れることになってしまう。折角彼の気持ちを知ることができたのに、自分の愚かな勘違いで別れることになるなんて嫌だ。  北斗は必死になって至にしがみついた。 「やあぁっ、ごめんなさ、ごめんなさいぃっ、別れたくない、先輩、好き、好きなんですっ」 「なんだ、俺のちんぽが惜しくなったのか?」 「んひぉっ、おっんんっ」  ぐぷんっとまた亀頭が奥にめり込んできて、北斗は目を見開き下品な声を上げる。  快楽に溺れそうになるけれど、しっかりと至の背中に腕を回してぎゅうっと抱きついた。 「ひが、違うぅっ、ちんぽじゃなくて、せんぱ、先輩が好きっ、先輩と離れたくないのぉっ、んっひっひぁっ」 「じゃあちんぽはいらないか?」 「んああぁっ、らめぇっ、おちんぽ抜かないれぇっ」 「俺と別れて、ちんぽなしでも我慢できるって言ってたよな?」 「うそっ、うそつきましたぁっ、あっあひっ、もぉ俺せんぱいのおちんぽなしじゃらめなのに、がまんできるってうそついた、あっあっ、ごめんなひゃ、あひぃっひっひうぅっ」 「ちんぽならなんでもいいんじゃねーのか?」 「ちが、ちがいまひゅっ、せんぱい、い、至しゃんのおちんぽがいいのぉっ、至しゃんのじゃなきゃやらぁっ、しゅき、好き、好き、至さんがしゅきなのぉっ」  北斗はぽろぽろ涙を零し、至の腰に足を絡ませ離れたくないと懸命に訴えた。 「ごめんなしゃ、ああぁっあっはひっ、別れたくないれすっ、嫌いにならないで、至さぁっんんっ、捨てないでぇっ」  ごりゅごりゅごりゅごりゅっと最奥を抉られ、快感に喘ぎながらも北斗は顔をぐちゃぐちゃにして至に縋りついた。  みっともない酷い姿を晒しているとわかっていても、恥も外聞もなく泣きじゃくり自分の気持ちをぶちまける。 「ふぇっんんんっ、ど、じょうで付き合ってもらってるって、思ってたから、あぁっあっ、だからぁっ、もう別れなきゃって、ひんっ、めんなひゃいぃっ、至さ、好き、しゅきですっ、大好きぃっ」 「ったく、ほんと可愛いヤツ」 「あっ、ひっんおぉおおっ」  ぐいっと体を引っ張られ、至の腰を跨ぐ対面座位の体勢にされた。ぐぽぽっと亀頭が奧の窄まりを貫き、強烈な快楽に襲われる。北斗のペニスからぴゅくぴゅくっと精液が漏れた。 「おっ、ひっ、ひぅっ……くふぅっ……」  息も絶え絶えの状態で、体液まみれのだらしない北斗の顔を、至は優しく撫でる。  愛おしむように見つめられ、嬉しくて、北斗はまた涙を流した。 「泣きすぎだろ」 「す、すみ、ましぇ……っ」  至に告白したときも、こんな風に泣いてしまったのだ。そのせいで変な勘違いをしたのに、また同じことをしている。  至の声は呆れているようで、けれど北斗を見下ろす双眸は柔らかい。 「そんなに俺が好きなのかよ」 「好きっ、あっあっんっ、好きです、至さんが、大しゅきですぅっ」 「俺も好きだよ」 「っ……!!」 「今度は信じろよ」 「は、は、はひっ」  感激で更に涙を滲ませる北斗に、至が口づけた。  涙で濡れた唇はしょっぱくて、けれど交わしたキスは酷く甘く感じられた。  

ともだちにシェアしよう!