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差し出す

「どうした?」 俊くんが黙り込む僕を不思議そうに見つめる。 僕はというと沢山食べたいのに胸がキュンキュンと甘く鳴くものだからいっぱいいっぱいになっていた。 「うぅ、やっぱこっち見ないでぇ…」 「お前、なんでそんな赤く、」 急に気軽に言ってた好きが意味を持つものになったせいか、恥ずかしくて顔が見れない。僕の心の中の俊くんへの思いは、ずっと子どもっぽいスキで満たされてたはずなのに、なんでこんなことになったんだ。 俊くんの大きな手が、顔を隠す僕の両手を優しく外した。ふしばった大人の手だ。僕よりも大きい手の平。ペンの持ち方が苦手だった俊くんが、たくさん練習してできた中指のペンだこ。 僕だけがこれが出来た理由を知ってるんだと思うと、なんだかたまらなくなった。 「お前、自覚した?」 「は、はひ!?」 「はひって、なんだそれ」 自覚とはなんのことですか!?と反応してしまう。そんなに露骨な顔をしていたのか、情けない声が大層お気に召したご様子で吹き出したように笑われた。今日いっぱい笑ってくれるのが嬉しいけど、ちょっと顔が熱いからもう勘弁してほしい。 「お前の気持ち。ここんなかのもん。自覚した?」 トン、と僕の胸元を指で突く。バックンバックンとお祭り騒ぎ状態の心臓は勢いよく血流を巡らせてくれるおかげで、笑えるくらい体がアツイ。 楽しそうに、全て知っているような顔で見つめられる。 いつの間にこんなに大人な、でもちょっとだけ子どもっぽい顔をするようになったんだろ。 僕と俊くんが再会したのはつい最近だ。連絡はとってたけど、会わない間の彼の時間は知らない。 僕の知らない時間を過ごした俊くんは、僕をおいてどんどん大人になっていく。 「きいちは大好きだもんな?俺のこと。」 「は、はぇあ…っ」 僕はこんなにもいっぱいいっぱいなのに、なんだかそれがくやしい。変な声しか出ないんじゃなくて、出せないんだよ。僕ばっかりがどきどきして忙しいから、俊くんも一緒にドキドキしてほしかった。 「言って。きいち」 「す、き。…すきです。」 唇が震えた。促されるようにぽろりと口から溢れた2文字が重すぎて僕には受け止めきれない。 うまく伝わっているかはわからないけど、さっき迄子供じみたスキしか知らなかった僕の精一杯の大人の好きだ。 俊くんの目が優しく細まったのをみて、間違いじゃないんだ。ちゃんと伝わったのだとわかった。 「ん、やっと言ったな。」 「え?」 「お前が口にしたのは初めてだな。」 初めて?と僕がポカンとしていると、俊くんが教えてくれた。 なんと直接はいったことありませんでした。 会うたびに忠犬のようにくっついて来て、全身から好き好きぃ!とオーラを出していただけで、実際は今が初めてらしい。 嘘だろ僕、心の中で叫びすぎだろ。気づいた俊くんもすごいね。 エブリデイ告白ばりの態度で突撃されてれば、勘違いかもという不安もなくなるよな、と言う俊くんに、ん?つまりどういう事かと首を傾げる。 「待ちくたびれた。自分の気持ちくらいきちんと口に出せるようになれ。」 「うう、面目ない…」 「ガキんときから秘密主義だもんなきいちくんは。」 「ひへへへ、ほんはほほはいひょ」 面目ありません!という反省の態度は流石に受け取ってもらえず、頬を引っ張られるという物理で謝罪させられることになった。 喋りにくいし、意外と力が強くて困る。何が一番まずいって、痛いことされてるはずなのに嫌じゃないところだ。 「ぁぐ、」 「お前が好きを自覚してないくせに、せこせこ懐かれる俺の身にもなれ。」 「うぅ、」 「どんな拷問?試されてんのかと思ったわ。」 「ふ、ふみまへん…」 親指を僕の口に突っ込むから喋りづらいったらない。 僕の恥ずかしい唾液は俊くんの手を通してぽたりとテーブルのうえに雫を落とした。 僕はそれが酷く背徳的なものにみえて、慌てて袖で拭う。俊くんが離してくれるように、ペチペチと腕を叩いてアピールするも、全然離してくれない。お仕置きなのかもしれないけれど、恥ずかしいからやめてほしい。 「なぁ、離してほしい?」 「ほひい…」 「振り払えばすむのにな?マテができてて偉いなきいちは。」 「ひ、ひゅんふ…」 見たことのない大人の顔で微笑まれる。めちゃくちゃ色っぽくて眼福なんだけど絵面やばくないっすか!? 零れそうになる唾液を飲み込もうと慌てて口を閉じたので、俊くんの親指をはむりと口に含んでしまう。 こくり、と飲み込んだ余剰な唾液は嚥下できたのに、悪戯に親指を舌で舐めるみたいになってしまった。 「ぁ、んぶ…っ」 「悪い子だなきいちは。」 「ふぁ!?」 さっきマテできてて偉いって褒めてくれたのに何ということだ! 僕は俊くんのおかげでこんなに情けなくよだれ垂らしてひいひいしているのに、僕の醜態を観て楽しそうにしている。俊くんはやっぱりドSだ。知らん間に開花したに違いない。 「ぷぁ、も…やぇて…」 「ふは、勃起した。」 「えええええ!?」 俊くんの親指と僕の舌が唾液で繋がる。意を消して手を押しのけると、どこでヤル気スイッチが入ったのか知らないけれど、トンデモ発言をされた。 というか、俊くんは僕で勃起するという事実に、腹の奥がきゅぅ、と収縮する。 なんだかわけがわからないうちに、しびびびっと全身に甘い痺れが走った。

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