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笑顔が素敵

「オトンがもはや邪魔しかしてないのは伝わった。」 「おうよ。病室できいちと一緒に運ばれてきたときは顔から火が出るかとおもったわ。」 ガラガラと音を立てながら運ばれてきたオトンと僕。想像するとちょっとシュールだ。 ベッドは横並びだったらしい。まさかの親子3人の発言川の字が産後直後とはオカンもおもわなかったらしい。 「結局お前に初乳上げてるときに急に起きあがってさ、生まれたか!?だぞ。やかましくてお前泣くし。」 「オトンまじでその頃から突拍子もなかったんだなぁ。」 オカンはあんなに頼りがいがあると思っていた旦那が、産後直後からマニュアルでしか動けないクソ真面目野郎になるとは…と思い出し笑いをしている。今は笑ってるけど当時はなかなかにショックだったらしい。 「そろそろ上がる。吉信も反省してんだろ。」 「庭のミントでも毟ってんじゃない?やれと言われたらやる男だよオトンは。」 「あー、ミントな。思い出しただけで腹立ってきたわ。」 「オカンおちつけ!まだオトンはやらかしてないよ!」 わかってるよ。と言いながら、ミント爆撃事件のことでも思いだしているようだ。あれは僕もびっくりしたけども。 オカンはお風呂入って腰痛も和らいだのか、先程までのぎこちない動きから回復したようで、体の水滴を大判のタオルで拭いていた。腰のあたりには、オトンが付けたのだろうしっかりとした手形が残っていた。 なんだかんだで仲いいんだよなぁ。ほんとわけんかんないこと多いけどさ。オカンは家庭の中ではオトンの上司的立ち位置である。たまにキレると元ヤンが出るけど、オトンはそこも含めて可愛いとか思ってそうだ。僕も俊くんを顎で使う日が来るのだろうか。あんましイメージはできない。 「晃、今日の昼はどうす、」 「あ。」 「あ?」 僕もオカンもまだ着替え途中だったのだが、ノックとか声掛けとかをしないオトンがガチャリと扉を開けた。 お互いフルチンなのでまじまじと見ないでほしいなぁ、などと思いながらパンツをはく。 オトンは腰の痕に気づいたようで、昨日は済まなかったな。と言った。 「お前の常識にノックはねぇのか!!」 「痛い!!!」 オカンはよっぽど恥ずかしかったらしく、それはもう見事に蹴り出していた。我が家の稼ぎ頭で、御近所さんからはイケオジ扱いされているオトンも我が家では残念親父だ。 真っ裸のオカンに蹴られたオトンは、なんだか少しだけ嬉しそうにしていた。そういうとこだぞ!! オカンは着替え片手に自室に走り去っていったので、仕方なくオトンの手を引いて起こしてあげた。 「あいつはいつになっても可愛い。」 「オトンは頭ん中にまでミントに侵食されてんの?」 「きいちはまだ発育途中だな。お前も晃に似るんだろうな。」 「おいセクハラだぞ。」 人の息子をまじまじと見てやがる!! 結局ミントは毟っても生えるのでオトンの罰は終わらなかったし、オカンは一日オトンにつくしてもらってご機嫌であった。ちなみにお昼はオトンが作ってくれたナポリタンでした。ごち。 「ということがあってだな。」 「なんつーか吉信さんに足りないのはデリカシーだな。」 わかりみ。 昨日あった事を、学校近くまで迎えに来てくれた俊くんに話しながら帰る。オトンと病室シェア事件の話では盛大に爆笑していたが、発育途中発言もされたことを言うと複雑な顔をしていた。人の顔色すら慌ただしくさせる天才か!さすがオトン。 じゃりじゃりとスニーカーの底で砂利を踏み鳴らしながら歩く。流石にうちの高校まで迎えにこさせるのも嫌だったので、近くの公園で待ち合わせたのだ。 丁度通り道に運送会社があるため、地面はボコボコと波打っていて歩き辛い。その道を真っ平らにするための舗装工事がそろそろ入ることになっていた。 小学校の頃はこんな道一つでもダンジョン扱いして楽しかったなぁ。今はなんでこういう道になるのかとか理由もわかってるから全然妄想に繋がらない。大型トラックが何台も通るからベコベコになるということは、オトンから教えてもらったのだ。 「そういや最近学校の話あんま聞かないな。」 「そう?話してるつもりだけどなぁ…」 俊くんが何気なく言った言葉に、ぎくりとする。 学校の話も何も、最近は学とも話してないし、益子も高杉くんと仲いいしで色々複雑な気持ちなのだ。学校では遂に偽造ラブレターから、僕が売りをしているなどという出どころ不明のデマが流れ始めている。 いじめといえばそうなのだろうが、今の所避けられたり無視されたりとかは無いのでなんとも言えない。 言えないから言えないのである!! 「なんもないっす。」 言えることを探してみたけどやっぱり特になかった。偽造ラブレター書かれたし知らん間に僕はビッチになったらしい!!って言う?言えませんよねぇ!! 「ふうん?益子の話も出ないのは珍しいな。」 「益子の友達と友達になったくらいかな。」 「学は?」 「最近生徒会忙しいっぽい。全然話してないよ。」 そういえば学にもなんかさけられてる気がするのだ。 うわ、僕そう思ったら全然友達いないじゃんか。俊くんがいるか。でも、俊くんは番だしカウントしないか。やばいやっぱり友達いないわ!! 「俊くん、僕頑張って友達増やすね。」 「やっぱりなんかあったのか?」 「や、片手で余裕で足りる交友関係に戦慄してました。」 なんだそれ、と可笑しそうに笑う俊くんを見る。 最近学校ではやなことばっかだけど、それでも俊くんが僕を見て笑ってくれるならなんにも気にならない。 僕は、僕の番のこの笑顔がずっと僕だけのものになるならば、その為だったら何でも耐えられてしまうのだ。 なんてちょっと、かっこいいことを思ったけれど、恥ずかしいから俊くんには教えてやらん。

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