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なんと可愛いアピールか。
夜にちょっとだけやらしい事をして、その後俊くんが意地悪なことをいうのでふて寝した。
夜中にパチリと目が冷めてトイレに行こうとしたら、お腹に回った俊くんの腕がそれを阻む。時計を見たら深夜の3時頃で、少しだけ肌寒さを感じながらもぞもぞと体を動かして抜け出そうとする。
「うぅ…、」
ぺちぺちと叩いて起こすのも可哀想なので、仕方なく下に体をずらして腕から抜け出そうとすると、ぎゅうと更に抱き込まれた。
妊娠してからトイレが近いので、深夜に目が冷めたこともあり結構尿意が限界だ。もぞもぞと体を俊くんの方にむけると、なんとか試行錯誤しながら体を抜けだした。
「はぁ、はぁ、っ…つ、つかれた…」
「ん…きいち?」
「あ、おこしてごめん…トイレいく」
「っ、具合悪いのか?」
眠そうに薄目を開けたかと思うと、慌てて起き上がる。どうやら僕がトイレで倒れたことがよほどトラウマだったらしい。苦笑いしながら普通にトイレだよというと、何故か俊くんも行くという。
「え、なに。したいの?」
「心配だからな。」
「ええ!!一人でできるもん!!」
「なら俺も出す。」
「無理やり!?」
過保護炸裂すぎて、思わず俊くんの肩に手を置いてベッドに座らせる。大人しく座った俊くんはそんな僕を見上げると、何故といった顔で首を傾げた。可愛い。
「ついてこなくて大丈夫!じゃ!」
「あ、おい。走るなよ?」
「アッハイ。」
ペタペタと早歩きで寝室を出ると、そのままとたとたとトイレへ向かう。深夜の静かな空気だ。慣れた俊くんの家だとしても少しだけ怖い。さっさと用をたすべくトイレに入ると、ふと疑問を抱いた。
「お腹おっきくなったら、たって出来なくね?」
具体的に照準もあわなければ手も回らない気がする。それなら座ってするしかないだろう。気が早いだろうけど、今から練習して置くかと下着とパジャマを脱いで腰を下ろして前を向いた時だった。
「ひょわっ!!!!」
「大丈夫か。」
便座に腰を下ろしたのでセーフだったが、下ろす前なら絶対にシラフで漏らしていたに違いない。僕は腰掛けた状態で跳ね上がってちぢこまった手足をそのままにドアから顔を出してこちらを見ている俊くんを、恥ずかしい水音を立てながら見上げることとなった。
たってするのとは違う羞恥心に、じわじわと顔に熱が集まる。不思議な顔して見下ろす俊くんが、納得したように頷く。
「今度から手伝おうか。」
「俊くんのぶわぁぁあかぁぁあ!!!」
「ぉごっ!」
手元にあったトイレットペーパーを投げつけると見事に顔面にクリーンヒットした。そのまま流したあとに服装を整えてから転がった俊くんを踏みつけて寝室に向かう。ぐえ、と聞こえた気がしたが知らない。怒った。待っててっていったのに!
ぷんぷんしながら寝室に入ると、布団にくるまってまぶたを閉じた。しばらくすると忍び足で近付いてきた俊くんが、僕の隣に横たわる。
僕の怒ってますよオーラにオロオロしながら、時折布団の裾を引っ張る。
本当に仕方なく、一枚しかないという理由で掛け布団を広げると、そのままご機嫌でくっついてきて腹に手を回してくる。
ふんふんと項や耳の裏などに鼻先を埋めて許してと甘えてくる様子に少しだけほだされた僕は、くるりと体ごと俊くんにむけると、ガブリと鼻先に噛み付いた。
「あでっ、」
「俊くんの変態、エロ、ジェントル過保護、顔面偏差値高男!」
「後半は褒め殺しだな。」
「どういたしまして!」
僕がどれだけ罵ってもクスクス笑いながら額に口付けられる。痛くも痒くもありませんといった具合だ。お返しに噛み付いた鼻先をぺしょ、と舐めると、ぐぅ、だかなんだか、変な声を出して抱き締めてくる。
そのままよしよしと背中を撫でていると、大人しく寝息を立て始めた。やっぱり眠かったらしい。
心配してくれるのは嬉しいが、僕だって恥ずかしいのだ。お腹見られるのも、心配だからとトイレまでくるのも。
「マテのできないわんこじゃあるまいし…」
俊くんの頭を抱きかかえると、そのまま僕も眠ることにした。いつもは腕枕をされる側だけど、今日はなんとなく、甘やかしたくなったのかもしれない。わかんないけど、踏みつけたお詫びかも。
翌朝、僕の胸元が俊くんのよだれでベタベタになっていたのだが、気にしてない僕に比べて必要以上に照れ散らかしていた俊くんをみて、恥ずかしがる所、絶対に間違ってるよなぁ…と密かに思った。
「んぃ、っ!」
授業中、隣りに座っていたきいちがびくんと跳ね上がった。膝を机にぶつけるくらい、ガタン!と大きな音を立てたきいちは、目を見開いたまま腹に手を添えて硬直していた。
「おい、どうし…」
「わ、っま、まって、すご、」
クラス全員が心配そうにきいちを見る。先生もチョークを止めて固唾を見守っているようだった。
腹を抱えてふるふると震えるきいちの手に重ねるように、そっと手を添えると、ポコンとなにかが動いた気がした。
「ひゅ、っ…」
「ね!?!?」
思わず動揺しすぎて変な声が出た。あきらかに何かが蹴った気がしたのだ。手のひらに小さな衝撃、もしかしてと思ってきいちの顔を見上げると、目をキラキラさせながら頷いた。
「先生ぇ赤ちゃんが動いたぁー!!!!」
「うわバカッ、声でかい!」
「まじで!?今この瞬間!?すっげぇー!!!」
きいちがビシリと手を上げると、宣言するかのように高々と声を張る。よほど嬉しかったのか、満面の笑みでだ。益子は益子でテンションを上げると、それが呼び水でクラスがざわついた。
三浦なんかは、触りてぇ!!とでかい体を揺らしてアピールしているが許さん。
「桑原、ええっと、片平?どっちで呼べばいい?」「きいちでいいよ先生!」
高校3年生になって追加された小論文の先生は、生徒名簿をみて戸惑いながらも柔軟に対応してくれる気のいい先生だ。きいちもこの授業が好きなのか、それとも得意科目だからなのか、進級してから数回しか受けてない授業でも既になついていた。
「とりあえずおめでとう、具合は?」
「赤ちゃん、めちゃ元気…うぉ、」
「おおぅ…」
「ウンウン、君の具合なんだけどなぁ。」
寝返りを打とうとしているのか、それとも遊んでいるのか、俺がきいちの腹をとんとん、と軽く叩くとそこを蹴り返してくる。
先生の質問に笑顔で大丈夫と返すと、心配してくれてありがとーございます!と元気に返す。
いいんだけど、間違ってないんだけど、その素直すぎるところは勘違いさせる原因になりそうだ。
先生も照れくさそうにどういたしましてとかいう。おいなんで照れてんだあんた。
「とりあえず、授業進めるね。途中で具合悪ければ抜けていいことになってるんだよね?気にせず言ってくれていいから。」
「はぁい、んひひ、」
きいちは胎動がよほど嬉しかったのか、あやすように腹をなでる。休み時間に募ってくる奴らは多そうで、そのきいちの様子にクラスがほわんとしている。
授業中だから、ちょっとだけ我慢しててねぇと小さく呟いたきいちの優しい声に、ぎゅっと心の柔らかいところを刺激された気がした。
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