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他愛もない話

「そういや、夏休み中に番ったらしいぞ。」 凪を抱き上げてあやしている俊くんが、おもむろに口を開いた。 「え、え?ま、まじで?」 「すげえ食いつき。焦がすなよ。」 「おぁ、っと、」 今日のご飯はパスタな気分だったらしい、あのあと凪と3人でリビングで寝て起きたら、俊くんがキッチンからパスタの束を取り出していたのだ。 「学?学と末永くんだよね?まじで、まじ、かあー‥あちっ」 「あ?もう見てられねえ。交代、凪よろしく。」 「はわぁ…よいしょっ、」 俊くんが僕の料理中にそんなこと言わなければソワソワしなかったんですけど! 受けわたされた凪を代わりに抱っこすると、悔しいことに僕のときよりもずっと手際よくパスタとソースを絡めるようにフライパンを振る。うっそだろ僕なんてフライパン重くて箸で混ぜてたのに?誠に? 「おぉ…」 「くっ、惚れ直した?」 「けっ!」 思わず見惚れていた僕の視線に気づいたのか、ニヤリと意地悪く笑う。俊くんのほうが僕よりむきむきなので力があるのは当たり前である。ただちょっとだけ悔しいとかは内緒だ。 ちぇー、と言いながら、体を鍛えることは諦めてないので、そそくさと凪を抱えながら片手でトートバックを漁る。 底の方に入れておいた忽那さんからもらったカズちゃん御用達の一杯分の小分けのプロテインを取り出すと、シェイカー片手にキッチンに行く。 「俊くん牛乳もらっていい?」 パスタを皿に盛り付けていた俊くんが、片手間に了承の返事をする。はっ、凪抱っこしてたらシェイカー開けられないじゃん。牛乳を取り出してそそくさと凪をベビーベッドに寝かせると、ふぐぅ…と、目に涙を溜めだしたので慌てて抱っこ紐をつけると再び抱き上げた。 「俺抱いておこうか。てか、なんだそれ。」 「え。」 カポ、とシェイカーを空けて、小分けにしたプロテインを中に入れたところで俊くんが気づく。別に隠しているわけじゃないけれど、なんとなく気恥ずかしい。 「ぼ、」 「ぼ?」 ぎこちなくそれに牛乳を注いで、きゅっと蓋を占める。ますます怪訝そうな顔で見つめてくるので、苦し紛れにごまかすことになってしまった。 「僕の粉ミルクだよ…?」 「経産夫用の栄養みたいなもん?」 「そそそ、そう!!そうそれ!!!」 それだー!!!と思わず食いつくと、ふうん、色んなもんがあるな。と関心したようだった。なるほどそれがあったか。そうしよう、それがいい。 なんとか僕の俊くんに隠れたプロテイン生活はなんとかバレずに済んだ。 凪が興味深そうに手を伸ばすのをよけながらコクコクと飲んでみると、なるほど普通にココアだった。 「ほら、きいちは飯食うぞ。凪はおしゃぶりさせとけ。」 「ほいさー。」 凪くんすまぬな、僕のご飯が終わったら存分に飲んでくれ。ベッドに寝かせようとすると泣くので抱っこしたまま、俊くんが混ぜてくれたなすとトマトのパスタを食べる。ソースは僕が作ったもので、俊くんもうまいと言ってくれた。 「ていうか!!!学も番ったとなるとうちの学年豊作じゃん?学たちで番3組目、どうするよ文化祭でお見合いパーティみたいになったら。」 「あぁ、それだけどな。あるらしい。」 「あるらしい?」 もくもくと食べていたパスタを飲み込むと、ごくんと水分補給をする。いわく、うちの学校で番持ちが増えたと言うことで、外部の学校見学の学生も気軽に番探しが出来るように、フリーのアルファやオメガは胸元にチーフをつけてアピールするらしい。 チーフをつけていて、なおかつ気になる者同士が気軽に声をかけれるように、希望者には外部の学生でもチーフを配布するらしい。もちろん興味のない人や探していない人は参加しなくてもいいよという。 「まじかよ婚活パーティーじゃん。」 「それな。」 「じゃあ俊くんがでるミスターコンテストって、もしや客寄せ?」 「ごふっ、」 まさか僕が知ってるとは思わなかったらしい、突然吹き出すと、げほごほと咽る。え、そんなに?笑えるくらい動揺するじゃん、別にやましいことがなければなんだっていいのだ。 「おま、なんでそれしって…」 「あり?なんでだっけ。まあいいじゃん。」 もくりとパスタを食べながらじっと見つめる。バツが悪そうに頭を掻く様子に首を傾げながら、そういやカズちゃんのモデルの話も文化祭明けくらいだなとカレンダーをみる。今年は僕が出産したこともあり、在校生だけど文化祭当日はお客さん側みたいな扱いになるらしい。まあたしかに準備とか手伝えないものな。なんかできることならやってあげたいけども。 「きいちは何時頃くるんだ?」 「んー、昼くらいかなあ、凪も皆に紹介したいし…授乳ケープ間に合うかな?」 「もう頼んだから明後日には届く。」 「はっや。」 9月の末にやるので、凪の授乳が終わってからにするかと算段をつける。俊くんのミスターコンも午後かららしく、何やら盛り上がりそうということで予定では14時頃らしい。僕も葵さんもカズちゃんと待ち合わせてから行くので、色んな意味で盛り上がりそうだ。 「なんか、楽しみ‥前は俊くんが参加者側だったのにね?」 「ああ、後藤に捕まんないようにしなきゃだっけ?」 「もう大丈夫でしょ、お互い最後の文化祭楽しもうね。」 「ああ。」 なんだか怒涛の一年だったなぁ。いろんなことが起こりすぎて、慌ただしくも濃厚な時間だった。俊くんはアクティブすぎるし、僕も番ってから産むまでがすぐだった。まあ、小学生からのつきあいを考えると長いのか。 「さて、僕は凪ちゃんにご飯あげますかねぇ。」 「ん、皿洗ってくる。」 「ありがと。」 くしゃ、と頭を撫でてからキッチンに向かう。成長期だったのか、ぐっと体格も背も高くなって大人の男のひとになった俊くん。 なんとも頼もしい後ろ姿だ。 「凪のパパは、かっこいいねぇ。」 んくんくと可愛い音をたてながらお食事中の凪のホワホワの髪の毛を撫でる。長いまつ毛も、少し下がり気味の眉も、ぴんくのほっぺも全部可愛い。 君はどんな大人になるんだろ。俊くんみたいな頼りがいのある男の子になって欲しいなぁ。 「ゆっくり大人になってね、大好きだよ。」 飲み終えた凪にけぷっとさせて、その瑞々唇の飲み残しをタオルで拭う。額に口付けると、くすぐったかったのかくちゅんと小さくくしゃみをした。 なんだかそれが可愛くて、頭を撫でながら見つめていた。 まさか俊くんが僕の一連の行動をみて悶ていただなんてつゆ知らず、凪と二人で早くパパに構ってもらいたいねぇ、と語りかける。 お腹がいっぱいで幸せな僕達は、うとうとしているうちに微睡み、俊くんにベッドに運ばれるまで気づかないままソファーでスヤァと寝てしまっていた。

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