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後日譚 二人の足並み 3*

「あ、あ、あ、」 狭い青木のアパートの部屋に、家主の蕩けた声が小さく響く。壁が薄いから、あんまり奥を虐めないで。そう言えたらどんなに良いだろう。 「ひぃ、う、あ、っあだめ、だ、めだっ、て、や、や、ま、って…ぇ、っ」 「ふ、…やだ。」 「や、やだ…俺が、やだあ、あ、っ、れん、さん、ん…!!」 先程から逃げる腰を鷲掴んでは引き寄せてガツガツと穿たれる。初めてだって言ったのに、タガが外れた目の前の男は感度によがり身を捩る青木の痴態に煽られてばかりで、全然言うことを聞いてくれない。 ぱんぱんと乾いた音を立てながら、熟れてきた青木のそこを褒めるようにして時折結合部を撫でる。どろどろに溶けた性器は、さっきから粘りの強い先走りを腹に飛ばしながら、恥ずかしい糸で腹と性器を繋ぐ。 「イ、ぐ…イぐからぁ゛!!!も、やぁ、ああっ!!」 「好きなだけ出せよ。もっとみせて。」 「うぁ、あ゛っ、ひ、ひぬぅ、っイ、ぁー‥!」 ぐにりと背筋を反らし、ぶぴゅ、と恥ずかしい音を立てて精液が押し出される。ドロドロのそれはしばらく抜いていないとわかるもので、精液溜まりを作ったあとは体の曲線にそうようにしてぼたぼたとシーツに溢れる。 「ひ、は、ぁ、あ、やだ、もうやだ、ぁ、っきもちぃの、こわい…ゆる、ゆるして…」 「っ、最初に…謝っただろ…」 「あ、あ、おく、ぉくやだ…!そ、そこやだってぇ、っ!」 「ごめ、んって…!」 「ーーーーっ!!!」 バツンと大きな音を立てて、青木の奥を押し開く。目を見開いて体を痙攣させながら、だらしなく開いた口から舌がみえた。 ぴんと跳ね上がる青木の足が、そのままだらしなく高杉の腕の中に落ちる。 膝裏を抱えあげて打ち付けていたせいか、奥まで届いた高杉の先端がぐにぐにと奥を突く。 「はぁ、ここだな…」 「ひ、ぅ…ら、ぇ…も、いらな、ぁ…」 「そんな寂しいこと言うな。」 「ゃ、あ、あだぇ、ぬ、ぬぃ…てぇ、っ…やだ、あ…」 胸まで真っ赤にして、鼻水も涙も全部だらしなく垂れ流しだ。これ以上恥ずかしい姿を見せたくなくて、手を顔で隠す。 それが駄目だった。 「ぉ、あっ!!ひ、ひぁ、あ゛や、ぇ、えっ!うぁ、あ、あっ!」 「駿平がその、態度なら…」 「や、やぁ、あっし、しぬぅ、しんじゃ、うっいやぁた、め、だっ、へ、ぁああっ!」 「俺は素直に、させんだけだ…な?」 ドン、と隣の部屋から抗議の音がたつ。 明日からどんな顔をして挨拶をすればいいのか。 青木ははっとした顔で反応すると、集中しろと言わんばかりに律動を早められた。 ぷちゅ、ぐじゅ、粘膜に弾ける水音が、青木の耳から入って頭を馬鹿にさせる。気持ちいい、気持ちがよすぎて、だめになってしまう。 「んぁ、ぁ、あっあ、ま、またでぅ…れ、んさん…っ、でる、ぅ、から…ぁ、あっ」 「素直になって、きた?ふ、…見せて。」 「ふぁ、あ、や、イく、ぁ、あー‥、あ、あ、」 もに、と袋を揉まれて奥をコツコツされる。もうほとんど色のなくなった精液が高杉の腹にかかり、腹筋の割れ目を辿るかのように流れて結合部を濡らす。 いじわるに笑う高杉が、声に出さずにやらしいと言う。それがトリガーとなって全身を支配すると、青木の内壁はじゅわりと粘液をまとわり付かせるようにして性器を締め付ける。 「っぁ、く…」 「ふ、は…っ」 高杉の感じた声に、してやったりと笑う。辱められているはずなのに、悪戯が成功したとでも言うような青木の笑みに高杉の喉が鳴る。 「なま、いき…っ、」 「っあ!ふぁ、ぁっはげ、し、れ、んっんん、ぁ、あ、だ、だめ、だめ!」 「駄目じゃ、ないだろ。」 がじ、と耳朶を噛まれ、ぞくぞくと身を震わす。 内壁が酷く熱くて神経が過敏になっている。しこりのようなところを往復され、経験もないところに押し付けてきた性器を包み込むように奥が拓く。 「あぁ、?っ、んぃ、あ、あ?あっ、んぁ、うっ…」 「ん、出す…っ」 「ーーーっ、ぁ、は…熱、…っ、」 わけがわからないまま、青木の腹の奥に吹き上げるようにして量の多い何かが内側を満たす。 搾り取るようにじゅぱじゅぱと吸い付くそこに、目元を赤らめた高杉が青木の唇を開くと、上から唾液を垂らして飲み込ませる。 「ぁ、あんぅ‥っ、」 こくんと喉を鳴らしてそれを飲み込むと、高杉の性器で膨らんだ腹は体液でびしゃびしゃと汚れていた。 はぁ、はぁ、と2つの荒い呼吸が部屋に響く。隣からの抗議の音は、もうしなくなっていた。 どさりと青木の上に高杉が倒れ込む。かすかに膨らんだ腹が押されて、ぷちゅっと蕾から精液がこぼれた。 「ん、…れ、ん…さん…」 「…うん。」 「れん…さん、」 「うん、」 青木の首筋にすり寄って甘える高杉の背を優しく撫でる。実らない種は青木が全部くった。 この上等な男が青木の腹に出したものは、きっとその隣を狙う奴らが悔しがって涙するほど欲するものに違い無い。 「駿平、」 「はい。」 そっと頬にすり寄った。掠れた色っぽい声が、優しく名前を呼ぶ。 余りにも激しい初体験に、しかも中出し。そういえば、ゴムのサイズがなかなかないと言ってたか。 青木は、そんなとりとめもないことを思いながら、高杉が引き抜くのを待った。シャワーを浴びたかったし、お腹だって空いた。 それにこれ以上隣の人に迷惑はかけられない。 「駿平。」 「はい…、え。」 抜かれない性器を、余韻が甘く締め付けた。それはきっと不可抗力だし、それを煽るかのように高杉が耳元で囁いてきたからだ。 腹の内側でびきりと硬さを増す高杉のそれが、青木のまさかを肯定した。 「足りない。」 「たりな、い…?」 頬を染めながら強請るように見つめてくる高杉は、可愛かった。だけど発せられた4文字は全く可愛くない。むしろ、全然、可愛くはない。 無言で首を振る青木を、愛おしそうに見つめると、ゆるゆると腰を揺らめかせる。 嘘だろう、俺はいいと言っていない。 「あ、うそ、だ、だめ、だめだめだめ、えっ!」 「お前は、駄目ばっか…だな。」 「誰のせいだと、っぁ、んっ!」 こり、と良いところを擦られて、甘ったるい声が出た。慌てて口を抑えると、王子様のような綺麗な微笑みで見つめられる。一度目ならトゥンクと胸をはねさせていただろう。だがそれも、抜かずに2発目ともなると悪魔の微笑みだった。 「駿平を満足させるまで、付き合うからな。」 「お、おれのっ、せいにしたこの人、ぉっ、や、めっ、」 「はあ、ごめんな。我慢させて。」 「謝れば、いいっておも、うなぁ、あっ!!!てか、我慢してな、っ」 我慢していないと続けようとして、再び奥に嵌められて背筋が骨抜きにされるほどの快感が身に走る。 意地悪な先輩は、やっぱりずるかった。 青木の悲鳴を飲み込むようにして深く口づける高杉が、ようやく満足して性器を抜く頃には、初めてなのに酷使したそこがはくはくと白濁をこぼしながら緩むくらいになっていた。 気絶した青木が翌日目を覚ますと、余りにも緩みきった顔で寝息を立てる高杉の顔を見てふつふつと羞恥心とともに若干の苛立ちが湧き上がる。 「んの、人はほんっと…」 「んん、しゅんぺ…まだ、ねてろ…」 「うわっ!」 ぎゅうと抱き込まれ、高杉の顎が青木の後頭部に当たる。嫌味なくらいに長い足が青木の足に絡まると、いよいよ身動きがとれない。  まるで離さないと言わんばかりの高杉の様子に、絆されてしまった青木はおずおずと抱き返そうとした。 「…この人、自分だけパンツはいてる…。俺はフルチンなのに…。」 むかっとした。しかも散々っぱら搾り取られたせいで、昨日まで朝から元気だった息子さんはしおしおとしなだれている。青木の臍の下に当たる何かは考えたくはない。きっとチャンネルにちがいない。青木はよくテレビを見ながら寝るから、きっとこの固くて長いなにかはチャンネルだ。そうに決まっている。そうでないと困る。 高杉が再び寝入ったことを確認すると、腕からずり下がる要領でゆっくりと拘束を逃れた。 喉がカラカラだし、腹も減っていた。高杉が起きたら朝飯でも食べられるようにと思い、色々文句はありつつも持ち前の忠犬精神で青木は朝食を作るつもりでベッドから降りようとした、のだが。 「うわっ、」 ガクンと膝に力が入らずにべしょりと床にすっこけた。それはもう見事に前のめりにだ。慌てて手をついたから顔をぶつけることはなかったが、腰を上げた土下座のような形になってしまった。 下半身が痺れて、全然力が入らない。腰が悲鳴をあげるようにじんじんと痛む。理由なんて一つしかなかった。 「朝からすげぇ眺めだな。」 「…あんた、まずはおはようでしょ。」 くっくっ、と喉を鳴らすような笑い声とともに高杉の声が降ってきた。昨日から激しく抱かれたせいてで、高杉の扱いが鬱憤とともに雑になる。 「おはよう。昨日はお世話になりました。」 「尻に向かっておはようじゃなくてさぁ!!」 「ぶは、くくっ、あー、いいわぁ。」 さわさわと撫でるその手が親父臭い。慌てて失礼な手を振り払うと、ぺたんと尻をつけて床に座り込む。キョロキョロと見渡して隠せるものがないか探したのだが、下着の一枚も見当たらない。 「俺のぱんつは!?!?」 「洗濯中。着替え漁るにも勝手に引き出し漁るのもなと思って何も着せてねー。」 「ううっ、急にまともなこと言うじゃないっすか…」 見られて困るもんなんてないが、気を使うなら抱き潰さないで我慢してほしかった。 「んで、駿平くんはなんで朝からそこにいんの?」 「…れんさんに朝飯作ろうと。」 「……おう。なんか、さんきゅ。」 まさかそんなことを思っていたのかと柄にもなく照れた。寝癖が跳ねている青木の頭が可愛くて、手を伸ばして整えてやるとぴくりと肩をはねさせる。 立ち上がってへたり込んでいる青木を抱き上げると、タオルケットにくるんでベッドに寝かせた。 「朝飯、俺が作ってやるから駿平は寝てな。」 「え、」 「昨日やりすぎたから、挽回させて。」 きょとんとする青木の額に口づけると、そのままキッチンに向かう。初めて家に来たくせに堂々と冷蔵庫を開けると、高杉は手際よくトーストにハムエッグを乗せた物をあっという間に作り上げた。 というよりも、ハムと卵とパンしか入っていないので、他に作りようもないのだが。 「おまえさ、コーヒーくらいストックしとこうぜ。ミロって、久しぶりに飲んだわ。」 「ミロバカにしてんすか蓮さん。まじでいいっすよ、貧血にきくし。」 サクサクと高杉手製のそれを食べる。粗めの塩コショウだけで半熟の目玉焼きって美味しくなるんだと新たな発見をした。 高杉はなんとも言えない顔で牛乳でといたミロを飲む。ブラック派の高杉にとっては小学生以来の懐かしい味だ。 「おいし…」 「大袈裟だろ。焼いて乗っけただけだし。」 「だって、俺料理できない…パンとか生のまんまいってたから…」 「まさかこの家に炊飯器ない理由って、」 「俺が米炊けるとおもってんすか?」 「そこ威張るとこじゃねえから!」 青木は高杉が作ってくれたそれを、大事に大事に食べるから、先に食べ終えた高杉はその様子を眺めるのみとなった。 もそもそとパンの耳からさくさくと食べていき、半熟の目玉焼きを崩さないように、時折慎重に食べるところを変えながら。 「飯作れねーのに、作ろうとしたんだ?」 「パンをチンするくらいはできますよ。」 「いや焼けよ。」 「しおしおであちちのパンもわるくないれふ。」 これが一番うまいですけど。 サクリと食べると、ハムの油分が熱でとけてパンに染み込む。 最後にはぷりと唇で半熟のそれを挟むと、黄身が流れないように、ぢゅ、と吸い付いては、垂れたそれを舌で拭う。最後のひとくちを食べたあとは、名残惜しそうに手についたそれをぺろりと舐めた。 「お前さあ…」 「はい?あ、最高でした。ごちそうさまでした!」 「俺もゴチソウサマ。」 何がとは言わないが。 互いに一人で暮らしているので、こうして向かい合って朝ごはんをとるのはなんかいいな。そんなことを思っていると、高杉が青木の口端についていた食べかすを拭う。 青木が貧血気味なのも偏った食生活のせいなので、ミロだけで補えるわけもない。高杉は炊飯器すらない、冷蔵庫もほぼ新品のような状態に頭の痛い思いをした。 「お前、つぎの契約更新すんなよ。」 「え!?なんで!?住むとこなくなっちゃうから嫌ですよ!」 「俺んち来いよ。流石にこんな食生活知っちまったら見てられねーしな。」 「え。」 「炊飯器の使い方から教えてやる。今度買いに行くぞ。」 高杉は、青木の前で取り繕うことをやめたせいで、少しだけ口調が荒くなった。それに自身が気が付かないまま、そんなことを言う。 口調は荒いのに、その言葉は青木を想ってそう投げかける。 あまりにもどストレートな同棲のお誘いに、青木の頭は弾けそうだった。 「それ、って…おはようからお休みまで、一緒ですか?」 「おはようからお休みまで、飯の面倒みてやるよ。」 「それ、それってつまり…」 青木がなにか言いかけるのを塞ぐように、高杉の手のひらが青木の口を覆う。 キョトンとした顔で見上げると、面白いくらいに顔を真っ赤に染め上げた高杉が、今その考えに至ったと言わんばかりに狼狽える。 俺のもの認定を、見事頂いた次第だ。青木は、この人、付き合うとデレが半端ないなとしみじみ感じていると、しばらく無言で羞恥心を噛み締めていた高杉が、口を開いた。 「い、やなら、べつに、」 ああ、この人は俺をこんなに骨抜きにしておいて、自分で選ばせようとするのか。 俺様な面もあるくせに、愛した人には強く出られない。そんな青木の憧れだった高杉は、自分から言っておいて後ずさりしようとする。 その手をいつも慌てて掴むのは、青木だった。 あの日の夕日が染まる帰り道も、朝日が差し込むこのワンルームでも。 「お願いします!!!」 食い気味に叫び、ぱしりと両手で高杉の手を掴んだ。 あまりの勢いにぎょっとした顔をしたが、頬を染めて嬉しそうな顔になるのを堪えるようにもぞりと唇を動かすと、小さく「おう。」と呟いた。 二人の足並みは数年後のときを経て、ようやく揃うことになった。

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