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浮気をされたオレのふところは今日も潤っている

 大学になってオレは幼馴染である恋人と同棲をはじめた。    中学から好きだと自覚してすこし距離を置いたらその分だけあっちが近づいてきて、こっちが近づいたら何故か彼女を作られたりとオレたちはわけのわからない関係を続けていた。幼馴染だったのでなかなか気持ちを認められずにいたのだ。親愛と恋愛の区別はつきにくい。男同士というのもまた関係を確定できずにあいまいにした理由の一つだ。    最終的に大学に通うために地元から出るということになって渋々ながらお互いが告白して付き合いが始まった。  好きという気持ちを相手に伝えたり相手から伝えられることにオレはたちは全く慣れないままに共同生活はスタートした。    ちなみに大学は別々のところだから住む場所は結構揉めた。  オレたちはお互いに妥協してそれぞれの大学に向かう路線の乗換駅の近くにマンションを借りた。    何でも言いあえる幼馴染同士かといえばそういうこともない不安定なオレたち。  友達というよりも腐れ縁で何だかんだと一緒にいる時間が長くてここまで来てしまったような気がする。  そのオレたちの間に決定的な亀裂が入ったのは断りきれずに付き合いで参加してしまった飲み会。  連絡を入れずにオレが朝帰りをした。もちろん、やましいことは何もしていない。男だけでの雑魚寝。それにアイツは怒り狂った。    色気なんか一切ないむさ苦しい空間に数時間いたことが許せないらしい。  オレを最低の浮気者と罵った。    男同士だから安全セーフという考え方は出来ないらしい。アイツの罵倒は止まらない。  二日酔いで頭に響くアイツの怒鳴り声にオレは嫌気がさしていた。    オレは男を恋愛対象にしてないからべつにいいだろと主張したがアイツは受け入れなかった。  アイツはどう見ても男だから、男が恋愛対象じゃないと言われても納得できないだろう。  そうは言ってもオレはアイツが好きだが男を好みのタイプとか抱かれたい、抱きたいなんて思ったことはない。  頭ではアイツも分かっているとは思うがオレを怒鳴りつけて出ていってしまった。  アイツはオレと違って同性愛者なのかもしれない。男に欲情するタイプ。それなら男はお前だけという感覚が理解できないのかもしれない。    もうすこし言葉を考えるべきだと反省したのはその日の午前中だけのことだ。    部屋から出ていったアイツは浮気をした。  ご丁寧に自己申告だ。  女とのハメ撮り写真なんかも送ってきた。  ひとりで淋しく昼にカップ麺をすすっていた時に写真を見てしまったので麺が鼻から出た。痛かったのでよく覚えている。    しかも写真どころかムービーまであった。  ビックリするほどエロかった。  撮影者はアイツなので女の感じてヨガっている姿がバッチリ。    喘ぎ続ける女にアイツがそんなにテクニシャンであるのは初めて知った。  高校でも彼女がいたのでオレよりも技量が高いのは想像がつく。    オレとアイツはキスもまだの清らかすぎる付き合いをしていた。  踏み出すきっかけみたいなものが分からずにいた。恋愛初心者は自分からはなかなか動けない。オレは自分の経験のなさを棚上げして何もせずにいたことを開き直っていたのかもしれない。    肉欲というのが薄かった。アイツも何も言わないので気にしてないんだと思っていたが違ったのだ。   本当はヤリたくてたまらないんだと胸がいっぱいになって食べ途中のカップ麺は捨てた。  鼻が痛くて涙が出るので見るのも嫌で家にあったカップ麺の在庫も捨てた。  アイツのお気に入りの激辛みそ豚骨はこの辺りでは見かけないので買うのが大変だと言っていたが知ったことじゃない。    アイツの言い分は女を好きじゃないから浮気じゃないというもの。  意味が分からない。  どう考えても浮気だ。  アイツの中でオレの無断外泊は浮気だがオレは認めなかった。  そして、反省する態度もない。今後も繰り返すだろうと言われた。    まあ、飲み会で午前様。そういう日もあると割り切って欲しいところだがアイツは神経質だった。  自分の気持ちを理解してくれないオレのことがどうしても許せないらしい。    このとき、オレもすこしは悪いとアイツを放置した。一言連絡を入れればアイツは迎えに来てくれたかもしれない。なんだかんだ文句を言いながら自分を頼ってくれて嬉しいと酔っぱらったオレの世話を焼くのが簡単に想像できた。  だから、無断外泊について悪かったと思ったりもするがアイツもアイツで浮気をした上に見せつけてくるなんていう悪趣味をしてきたので罪悪感は相殺だ。    元より謝るほどでもないと思っていたこともあったから今回のことはお互い様でなかったことにするのが得策だと結論を出した。発端がオレなのでアイツばかりを責めるものでもないと思ったのだ。  そんな仏心なんか出さずにいれば良かった。  無駄に理解を示したりなんかして話し合いを放棄したせいで事態は悪化し続けた。    半年後、なぜか浮気の規模は拡大してオレたちの部屋に毎日女を連れ込むようになったアイツ。  頭がおかしいとしか思えない。病気か。そんなにエッチしないとやってられないのか。性病ならうつりたくないのでオレはアイツとキスは元より湯船も同じものにならないようにした。いっしょの食器も使わないようにした。紙コップ、紙皿、割りばし。エコってなにってぐらいなオレの姿にアイツはなぜか満足げ。オレが環境破壊をしているのが嬉しいらしい。頭の病気だ。    このときオレの頭にあったのは洗い物が減って良かったけど毎日使うとなると紙皿なんかはコスパがあまりよくないということだ。  水筒なんかはオレのだと言ってもアイツが使う可能性がある。それは気持ちが悪いので紙コップでいい。    そこでオレはアイツが毎日オレに送り付けてくるムービーを友人に見せた。  ぶっちゃけムカついていたのもある。  大学の友人たちはオレに同棲している地元から一緒の幼馴染がいると知っている。  アイツとの共通の友人はいない。  そろそろオレだって誰かに愚痴りたかった。  寝室は一つ、ベッドも一つ。それをアイツは女と使ってオレはソファ。不条理すぎるだろ。  ベッドで寝れるときもあるが昼間にアイツと女がイタしていた場所だと思うと気分が悪くて寝付けない。  ムービーを友人に見せながら同居人が最悪だと言いふらすことぐらい許されるはずだ。    大学が違うのでアイツのせいでオレの家が連れ込み宿になっていることは話題にならないらしい。  女をとっかえひっかえして遊び人をしていても類稀なる奇跡の美形ってわけじゃない。  雰囲気イケメンぐらいだ。同じ女は見ないのでセフレでもないワンナイトラブってやつ。  後腐れなく性処理する相手。   そう思うと浮気ではない気もしてきた。  アイツが女をなんとも思っていないのと同じで女もアイツをなんとも思っていない。  何とも思ってない者同士の交流でとばっちりのようにオレがストレスを溜めている。  これはどう考えてもおかしい。  そう思ったので友人たちに巨乳から貧乳、喘ぎ声が大きいのから恥じらいまくってるのを見せて金をせしめた。なにせ無修正。エロエロだ。粗い画像とはいえ飢えた男たちは食いついた。その中で写真を買いたいという奴もいた。女の顔は適当に塗りつぶして渡した。    アイツと女の浮気写真を金を貰ってばらまくことに罪悪感はない。  自分だけがストレスを溜めるのはおかしいという意識は日に日に増していた。  どうしてオレがアイツのことでイライラしないといけないのかわからない。    アイツはついに女だけじゃなく男にも手を出した。  細めのかわいい感じの年下だったりサラリーマンだったり各種いろんな相手を部屋に連れ込んだ。  ムービーも写真も男のものが当然オレのところにくる。  ときには相手に了承してなさそうな隠し撮りっぽいのもあった。  これをバラまいたら相手は社会的に潰れる。それはさすがにかわいそうなのでオレは浮気相手に話をつけた。   『ここオレの家なんすよ。誰が汚れたシーツ片付けてるかわかってんの』    残念ながらラブホじゃないだよね、と告げると相手はホイホイ金を払う。  口止め料こみなんだろう、社会人は多めにくれる。女の写真をバラまいたりするよりも金になった。  新規画像が手に入らなくなった友人たちは残念がったが、オレの機嫌が上向きになったのを見て同居人の連れ込みアンアン事件が解決したもんだと判断してくれた。    そのうち何回か同じ相手が来るようになった。男同士のワンナイトラブは難しいのかもしれない。同性愛はやっぱりマイノリティーだからとっかえひっかえとはいかないんだろう。    慣れたもので募金箱よろしく集金ボックスを玄関に設置したら浮気相手たちはお金を入れてくれるようになった。  オレはローションや精液で汚れたシーツの始末を苦痛だと思わなくなった。部屋のにおいに感じていた嫌悪は薄れて何も感じずに手際よく片づけられる。むしろ、潤ったふところに気分が良くなり鼻歌を歌ってしまう。以前と比べて気持ちに余裕が出てきた。    そして、下手の横好きで料理を作り始めた。  食べる気のしないのについ購入してしまうカップ麺とはおさらばだ。    いろいろと食材を買いこんで試しに作り続けるオレ。  一人分には多すぎるので浮気相手に食べてもらったりしている。  アイツはエッチの後に爆睡するタイプらしく起きてこない。  だからアイツの浮気相手と二人で食べる時もあれば百均のタッパに詰めて渡したりもする。  タッパは返ってきたり、こなかったり。  百均だから戻ってこなくても気にしない。    ときどきリクエストされるようになってオレの腕が上がったと楽しくなってきたりする。  アイツとの会話が減って部屋が寒い気がしたけれど浮気相手たちと話してなかなか楽しい。  毎日誰かしら来るので退屈しなくていい。    話を聞いていると社会人はどうも大変らしい。  ストレスが溜まるとセックスしたくなる、男同士なら妊娠の心配もなくて楽ちん、なんて浮気相手たちは口にする。  根っからのゲイで抱かれたがりや人肌がないと落ち着かないなんていう人もいた。  みんなそれぞれ悩みを抱えて生きているんだと思うとアイツとのことでくよくよしていた自分がちっぽけに思えた。    まだまだ学生気分とはいえ、そろそろ最終的な進路を考えないといけないというオレに浮気相手のひとりから住み込みの家政婦さん的な仕事を紹介してもらった。    気難しい人らしいがタッパに入ったオレの料理を気に入ったという。  最悪、料理だけでいいので欲しいなんて言われてこれはもうそこに就職するしかない。  丁寧すぎる手紙をもらってオレの心は決まっていた。    浮気を続けているアイツにいつ切り出すかはまだ考え中だが毎日毎日アンアン男を喘がせるテクニックはちょっと見習う方がいいかもしれない。盗めるものは盗むに限る。    男はアイツだけとかなんとか思っていたオレはいつの間にか変わってしまった。  一度「べつにアイツじゃなくてよくね?」ってなると世界は広がるものだ。  良い変化なのか悪い変化なのかはわからない。    料理の感想を丁寧な言葉で告げてくる浮気相手の知り合いという名のオレが大ファンの小説家。  大学に向かう電車の中でよく読んでいたお気に入りの文庫本。  浮気相手たちが好きにくつろいだりするリビングにも置いてある。  オレが料理を作っている間に読む人もいて読者をじわじわと増やしていて気分がいい。    ハーレムラブコメばかりのラノベ業界で主人公がヒロインに一途で尽くし系。よくある無自覚モテ男じゃない。ヒロイン以外に興味はないという姿勢が女子にも人気でアニメ化も大成功。  作者は純愛ラブコメ代表作家なんて言われるようになっていた。  それがオレの務め先候補。  オレの料理を気に入ったらしい気難しい年下の彼。  まだ現役高校生である小説家だが親元を離れて一人暮らしだという。オレの力添えで良い作品を書いてくれるならいくらでも力を貸してやりたい。    最終的に相手が望む永久就職を視野に入れてそばにいるのもいいかもしれない。  なんせ就職難のこの時代、甘い話には乗りたいところ。    彼が小説の主人公のように一途であるかは分からないが小説のサブタイトルの一文字目を繋げて読んで告白してくるぐらいの情熱は持っているようなので、少なくともアイツよりもオレのことを大切にしてくれそうだ。    浮気されたがそれを不幸にするもしないも自分次第だろう。  新しい出会いに感謝してさよならというのもひとつの選択だ。    まあ、ふところが潤っているので今のところはすぐにどうにかしなくたっていい。  オレが動いてアイツが斜め上というか斜め下な対応をするのはいつものことだから慎重に行動しないとダメだ。  変に思い込みが激しく前のめりに行動するアイツはオレと心中しようとするかもしれない。  急いては事を仕損じる。    ゆっくりと考えて答えを出そう。  

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