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第1話

 セックスは大好きだけど、本当に終わりはあっけない。射精の直前五秒くらいが最高で、イッた瞬間から瞬く間に興奮が冷めていく。そう、精液出しながら。抱かれてる女の子は俺がそうなってからもぐったりしちゃって気持ちよさそう。なんか、羨ましい。 「そう思わん?」 「静かにしていられないなら、自分の部屋へ行ってもらえます?」 「電気代がもったいないでしょ。ねーねー、思わん?」 「うっせーなマジで……」  可愛い可愛い後輩のベッドに寝転がりながら、雑誌をペラペラめくりつつ、同意を求める。勉強熱心な後輩は、舌打ちしてくるけど、俺を本気で追い出そうとはしない。だって、ここ、俺の家だし。正確には俺の親が節税対策で購入したマンションで、部屋が三つもあるから後輩に一つ貸してあげているわけだ。店子のくせに態度がでかいのは、俺が高校の時から甘やかしてきたのと、こいつの元々の性格のせいだろう。 「透〜聞いてんの〜?」 「聞いてます。あいにく今忙しいんです」 「冷たいね」 「そっすか?」 「ねーじゃあ、コーヒー入れてあげるから、一緒に飲もうよ。リビングでさ」 「暇なんですか」 「暇なのよ」  だから相手してよ。結構な秒数の沈黙の後、透は大きなため息を吐いてクルリと椅子を回し、ようやく俺の方を見てくれた。いやー、今日も超絶イケメンくんだな。艶々のクセのない黒髪は、なんのセットもしていないのにあるべき姿に常におさまり、大きな目は涼しやかで、鼻と口は存在を主張しないくせに完璧な造形だ。白い肌にはシミやシワどころかくすみもホクロもない。天然でここまで綺麗だともはや別の種類の生物なのかもしれないとさえ思う。中身はいたって普通の真面目な大学生だけど。 「お茶請けに、チョコ買ってあります」 「え、マジ?俺の分もあるの?」 「ありますよ」 「やったー!!!じゃ、早速コーヒー入れてくるわ!勉強ひと段落したらおいでね!」 「うーい」  透の部屋のドアを開けっ放しでキッチンへ向かい、いい方のコーヒー豆を棚から出してミルにかける。いい匂いだー。惜しんでないで早く飲まないと、油が回って風味が落ちるな。明日の朝もこれを飲もう。そんなことを考えながらコーヒーを落としていたら、透が部屋から出てきた。透は、平均よりは高いものの、俺よりは少し背が低く、大学に入ってからすっかり筋肉が落ちた俺とは違って、現役時代の綺麗な筋肉をキープしていて、そもそもスタイルがいい。顔が俺の握り拳くらいしかないんじゃないかってくらい小さくて、いつも袖が足りないっていう程度に腕が長くて、腰の位置が高くて、膝と地面が遠い。そんな透の手には、有名店の紙袋。 「お前〜最高かよ〜俺、そこのチョコレートむっちゃ好き」 「俺もです」 「で、このコーヒーはそれに超合うわけだ。はい、お待たせ」 「あざっす」 「こちらこそ、あざっす」  各々のマグにたっぷりの熱々コーヒーと、老舗菓子店のチョコレート。最高だ。透とはこういう趣味が似ているから、大学合格を聞いた時に一緒に住もうと誘ったのだ。もちろん、真面目で素直というところは当然の部分だけど。 「でさ、どう?エッチの後、つまんなくない?」 「まだその話続いてたんすか」 「だってさー。女の子っていいよね、ああいう時。男より満足度高いのかな。なんかこう」 「俺、女興味ないんで。男好きなんで」 「……え?そうだったの?」 「はい」  え?マジ?初耳なんだけど。高校で二年、一年離れて、一緒に住んで二年。短くはない付き合いで、それは初耳だ。噂さえ聞いたことがない。口どけのよいチョコレートを、コーヒーであたたまった口へ放り込み、ゆっくりと味わいつつ思案する。ああ、おいしい。 「あ、だから、結構付き合ってって言われてたのに全部断ってたのか」 「ですね」 「勉強と部活で忙しいって言ってたからわかんなかった」 「実際、忙しかったですしね」 「ほー……」 「……すみません」 「なにが?」 「キモくないすか、ホモなんて」 「キモい?何が?お前が?全然。俺が全女性ターゲットじゃないように、お前だって全男性ターゲットじゃないだろ。俺のことそういう風に見てないだろうし」 「ですね」 「まあ、仮に見てたとしても、そっかーどうしよっかなーって悩むかもだけど、キモくはない。あ?お前誰かにキモいとか言われてんの?潰してやるよ誰だよ言えよ」 「言われてないです。自虐です」 「自虐ダメ、絶対」 「はい」  おいしいチョコレートは、ふた粒で十分だった。透もそうらしい。マグに残ったコーヒーをこくこくと飲みながら、そうだったんだなーと、いくつかのことに合点がいった。こんなにイケメンなのに彼女を作らないことも、猥談に乗ってこないことも。そうかそうか。 「てか、俺の方がすみませんだよね」 「なんでです?」 「いや、無神経だったよね。色々」 「普通ですよ」 「そう?」 「はい。ましな方です」 「なら、まあ」 「はい」 「……芸能人だと、どんな人が好き?」 「あんままじめにテレビ見ないんでわかんないっす」 「あ、そう」 「はい。で、今の質問みたいなのは、俺的にはセーフです」 「うん」 「先輩」 「んー?」 「彼女にフェラしてもらったことあります?」 「あるよー。結構嬉しいけど、正直上手な子ってあんまりいないよね」 「じゃあ、俺が上手にしてあげます」 「え?」 「ホモバレしても、態度の変わらない先輩にお礼です。射精した後も、気持ちいいですよ」 「……マジで?」 「マジで」  透は空になったマグをテーブルに戻し、完璧に整った顔でニヤリと笑った。そして、人差し指と親指で作った丸を口元に持っていって、その中に入れるように赤い舌をべろりと出す。エロ!エロいなお前!!!! 「お、お願いします!!」  パジャマにしているスウェットを下着ごとスポンと脱いだ俺を見て、透は笑った。エロい笑いじゃなくて、あははと、まるで高校生のように声を立てて。 「わーやばい。ドキドキする。緊張する!」 「期待していいですよ」 「期待する!」  透はラグに胡座をかき、ソファに座ったままの俺の膝の間に身体を入れて股間にうなだれている俺のを掴んだ。うわーマジか。すごいなこのビジュアル。超絶イケメン後輩男子が俺のを、あ、咥えた。俺もさ、若いからさ、相手が男だとか後輩だとか関係なく、勃起するんだね、初めて知ったわ。 「は……気持ちいい……何お前、マジでうまい……ん……は……」  ソファの座面に、知らずに爪を立てていた。その手を、透がするりと撫でてくれる。操られるように手のひらを返して、指を絡めて両手をつなぐ。透はちらりと俺の方を見上げて、ゆっくりとさらに根元まで咥え込んだ。 「うあ、あ、あ……!すげっ……!」  下から上まで舐め上げられたと思ったら、一気に狭くて熱い場所にねじ込まれる。さらにぎゅうっと締め付けられて、裏筋のところを丁寧にたっぷりと舌で刺激される。お尻のほっぺたに力が入り、腹の奥にも力が入り、うまく動けないのに腰が揺れる。出したり入れたりしたい。して。ああ、すごい。気持ちいい。もっと。そう思ったらズルズルっと絞られながら口から抜かれて、背筋にゾクゾクと射精感が駆け抜ける。あー、やばい。いきそう。待って、もったいない。ああ、でも、いきたい。 「気持ちいい?」 「うん、いい。すごい、いい。もっとして」 「いいよ」  透は笑いながら、先っぽをヌトヌトと舐め回し、唇でキュムキュムと挟んだりして俺の反応を伺っては、また喉の奥まで俺のを飲み込む。それが、すごい。舌のざらつきとか喉を擦る感触とか、まじで女の子の中より、いいかも。あ、あ、吸われる。出ちゃう、待って。 「あー……!あ、あ、ちょ、激し……!出ちゃうって……!ぐぽぐぽ、ダメ……!!」  透は俺の制止も聞かず、強く両手を繋いだ状態で頭を動かして俺のを大きく扱き上げる。お前の喉、どうなってんの?手を離せ。お前の頭押さえつけてガンガン腰振らせろ。  猛烈な快感は一気に高ぶらされて、一瞬怖いと思った。いつもは自分のペースで出せるのに、今は完全に透に流されているし、支配されている。そして射精“させられる”と思った途端に、壮絶な恐怖と多幸感とに襲われて、俺はあられもない悲鳴をあげて達した。こんなの、初めてだ。 「んあああ……!あ、ああ……あっ……ふあ……ん……」  快感は、長く尾を引いた。顔が熱い。口が、閉まらない。そこから少しヨダレが垂れていると、頭ではわかっているのに、力が入らない。大量に吐精して、お尻が痙攣してる。頭の中が、フワフワする。すっ……げぇ……。  初めて陥った状態に俺が呆然と、荒い呼吸をすることしかできないでいると、透はゆっくりと半分ほどを口から出して、俺を見上げた。その目を、見つめ返す。言うべき言葉を思いつかない。ただひたすら、まだ、気持ちよくて。そんな俺を見た透は、目元を綻ばせた。そして、咥えたままの俺の先っぽを、口の中でゆっくりと舐め回す。 「あ・あ・あ……!あ、とお、る……!あぁ……!」  俺の自慢のちんこはすっかり透の舌技に喜んでしまい、ビクンビクン、カクンカクンと身体が揺れる。時々吸われて、ああ、もう、なんなの。腰が、溶けそう。だめ、もう、やばいって。 「やめて、おねがい、とおる、そこ、だめ……今だめだって……!」  俺の渾身のお願いを、透は全く聞いてくれなかった。それどころか、舐め啜る口の中の動きは激しくなり、何お前の舌ってモーター付いてるんだ?便利ーって馬鹿なことを考えるほど、そんなことしか考えられないほど、敏感な俺のちんこは翻弄されまくった。すごい。透のテクもすごいけど、射精したちんこをこんなにも執拗にいじられたことなんてなくて、そんなこと考えもつかなかったし、透のテクがすごいし、もうなんか、全部がやばくて、俺はついに泣きながら叫んでいた。 「いや、いや……!!いやぁ……!!やめてやめて、出ちゃう!ああ、ああ、ああ、だめだめだめ……だめぇ……!!」  ソファの背もたれに乗りかかるようにして、思いっきり仰け反り、俺はまた絶頂させられた。その拍子に透の口から俺のが抜けて、お陰で人生初めて噴いた潮を、ラグと透にぶっかけてしまった。そんなことはどうでもいい。本当に死ぬかと思った。俺は仰け反ったままの状態でしばらく身体が硬直し、透がよしよしとあやす様に抱き寄せてくれるまで震えが止まらなかった。 「ごめん、ちょっと張り切り過ぎました」 「……おま……マジか……マジか……」 「気持ちよかった?」 「────うん。すごかった」 「よかった」  まだ呼吸が整わず、ふらふらしている俺を、透は申し訳なさそうに眉を下げてポンポンと背中を撫でてくれた。本当に凄かった。一人になって部屋の電気を消してベッドに潜り込んでも、まだ、なんとなく余韻があって身体がじんわりとあたたかい。 「あいつ……あんなのどこで覚えてくるんだ」  すごかった。本当に気持ちよかった。そういえばあいつ、俺が出したの飲んだのかな。あんな綺麗な顔した超絶イケメンのくせに、エグいエロテク持ちとか最強かよ。 「はあ……気持ちよかったぁ……」  新しい扉が開いた気分だ。扉の向こうにいたのは、付き合いの長いイケメン後輩だったけど。  ◆  正直に言おう。俺は透のフェラテクにはまった。彼女と別れたのもそれが遠因じゃないかと思う。もう一回して欲しい。そのことばっかり考える。だってマジで、びっくりするくらい気持ちよかったし。あれ以来、友達との他愛ない猥談も、「マジかよー!俺もエッチなことしてぇ!!」って感じだったのが、「いや、俺はいいわ」ってなっちゃう。今まで何人かの女の子とエッチしたけど、たった一回の透のフェラチオの方が、ずっと満足度が高かった。やばい。あー、頭から離れない。 「でさー、最近付き合った子が、結構手慣れてるって言うの?お口ですんのとか、すごい上手くて」 「えー!いいなあ!!」 「だろ?いやー、あのテクニックは金取れるね。俺はつきあってるから払わないけど」 「てゆうか、金取ってたんじゃね?」 「は?俺の彼女を悪く言うな!」  いや、お前らさ、金取れるフェラっていうのはうちの透くんみたいなのを言うんであってね……って、待て。待って。そうか、透くらいうまい人は多分プロにならいるだろう。うん。金払えばいいんだ。  という事で、今まで縁のなかった風俗デビューを果たした。友達に聞けば、何人かは行った事があって、だから適当なところを紹介してくれて変な店に行かずに済んだ。千円札数枚で、俺は見知らぬかわいい女の子とのキスとフェラを得た。得たわけだが。 「どうだった?」 「んー……普通だった」 「そりゃお前、変なオプションつけてないんだから普通だろうよ」 「いや、テクが。もっとうまいかと思ってた。プロなんだし」 「ハズレだったってこと?」 「あ、なるほど」  担当してくれた女の子があのレベルだっただけで、もっとうまい人はいるのかも。同じチームでもやっぱり、強打の選手と堅守の選手がいるわけで、透みたいに顔よし性格よしテクニックありの走攻守揃ってトリプルスリーをキメられるスターはそういないのは当たり前だ。この間の女の子は顔がとてもかわいかったしおっぱいも大きかった。愛想もあった。でも俺はね、今はエロテク求めてるからさ。そんなこんなで、俺はネット上の口コミを頼りに何度か色んな店でチャレンジした。学生には結構な出費だ。そして得た知見は、透くん最強というものだけだった。 「ダメじゃん」  本当に、ダメ。あの感動をもう一度味わうためには、透に頼るしかないって思い知った。でもさ、言いづらいでしょ。付き合ってもないのに、ちょっとしてって。俺は何もしてあげられないんだし。そもそも、ほどほどでいいんじゃん、フェラなんて、セックスなんて。なのに、透にしてもらいたくてどうしようもなく悶々としてる。 「なんか最近、お前、ボケっとしてんね?」 「えー?……かなぁ……」 「何?恋とかしてんの?わかるー!!俺もさ、バイトの新しい子が」  恋?恋はしてない。いや、してるのか?透のエロテクに、恋。楽しそうに喋っている友達をぼんやり眺める。もし仮にこいつが、透と同じくらいフェラ上手かったらなぁ。頼むんだけどなぁ。 「……いや、ないわ。無理だわ」 「え?何が?」 「何でもない。帰る」  透は男だ。俺も、男だ。俺の性行為の対象は女性で、だから、仮に自分の周りにフェラの上手い男がいたとして、そいつに咥えて欲しいかって冷静に考えたら、無理だった。無理だよ、そりゃ。全然無理、透以外は。それってつまり。 「はい?」 「いや、だから」 「醤油取ってもらえます?」 「あ、うん。はい」 「あざっす。……で?」 「だから、その……俺と付き合ってくれないかなって……」  俺、割とそういうところあるんだよね。この子と付き合いたいって思ったら、すぐ言っちゃう。断られても、えーなんでーいいじゃん、物は試しにさ!とか言ってメゲない。粘る。そして、ちゃっかり付き合ってもらって楽しく過ごす。  でもさすがに、透へ告白するのは勇気が要ったし、だからなかなか言えなくて夕飯の最中のテレビ番組がコマーシャルで途切れたタイミングっていう、まったくセンスのない雰囲気で伝える羽目になった。  透は綺麗な長い指で醤油差しを摘んで、小さなお皿に注いでいる。今日、お造り安かったから。 「からかってます?」 「そんなわけないだろ」 「ですよね。じゃあ、何で?」 「……何でって、言われても……」 「はは」  乾いた笑いって、こういうのなんだろうな。透は醤油差しをテーブルに戻して、箸を持ち直し、唇の端だけ歪めたみたいな笑顔らしき表情で俺を見た。そんな顔、見たことない。居心地の悪さ、半端じゃない。俺は自分がやからした罪の重さに、思わず目を逸らした。緊張に、心臓が暴れまくってる。 「あのね、先輩。こういう時は、好きだからに決まってるだろ!とか言うんですよ。学校で習ったでしょ?だめだなぁ」 「……」 「俺、彼氏いますし」 「……」 「口でされるの、そんなに気持ちよかった?たまにしてあげますよ。それでいいじゃん」 「……」  色々言いたいことはあった。だけど、声を出せば涙が落ちそうだった。情けなさと、悔しさで。傷つけたよね、絶対。俺、サイテーだよね。今ここで、食事の途中で俺が席を立ったらおかしな雰囲気になる。だから俺はただひたすら、ご飯を口に入れた。喉の奥が締まる。鼻の奥が痛い。バカじゃないの、俺。軽率すぎる。挙句に正論で断られて泣くとか、絶対ダメだ。耐えろ。死んでも泣くな。殺されても、泣くな。 「ご飯終わったら、してあげますね」  歯を食いしばって、味噌汁のお椀を手元に寄せながら、俺は首を振った。ごめん。今すごく余裕がなくて、自分が悪いのに、お前に気を使わせてるってわかってるのに、まともにお前の方を見られない。ごめんな、傷つけて。でも俺、今つくづくわかったよ。お前のこと好きだわ。彼氏いるんだっていう事実に、信じられないほど動揺してる。お前、誰かと手繋いだり、キスしたり、好きだよって言ったりしてるんだな、耐えられないわ、そういうの、知りたくなかった。なんか俺、だいぶお前のこと、好きっぽい。今さらだけどさ。 「────ちそ、さま」  どうにかこうにか全部を食べ終えて、手を合わせて呟いて、俺は俯いたまま立ち上がる。二人揃ってる時は、準備は一緒に、片付けは各自で。いつもなら片方が食べている間は、お互い食べ終わっても、時間があればそのままダラダラと話をしたり一緒にテレビを観たりして過ごしてた。今日はちょっと、無理だけど、でも大丈夫。俺、打たれ強いし立ち直り早いから。多分、明日の朝にはいつも通り、おっはよー!とか笑って言えるんじゃね?うん、そうだよ、大丈夫。俺さえしっかりしてれば、ちゃんと、元どおりになれる。 「言いたいことないの?先輩」 「…………めん」 「謝るくらいならバカなこと言わなきゃいいのに」  バカなこと。そうかな。バカなことかな。俺なりに結構、考えたんだよね。透だから、あんなに簡単にじゃあしてよって言えたんだなって。普通、男好きだっていう男に、いきなりフェラなんかさせないでしょ。すっごく気持ちよかったのだって、プロの人に似たような感じのテクで抜かれたけど、透みたいに俺の目見て笑ってくれたり、手繋いでくれたり、やり方とかよりそういうのが大事だったんだなって。だから、バカなことじゃない。透は欠点がないくらいいい奴で、その上俺にあんなに気持ちいいことまでしてくれて、今だって俺のこと、殴りたいぐらいだろうに、冷静でいてくれる。それなのに俺は、透を捕まえたくて、色々すっ飛ばして付き合ってって言っちゃった。これは、確かにバカなこと。もっとちゃんと、段取りがあるじゃん、物事にはさ。ちゃんと、俺、透のこと好きっぽいんだけどって、先に言うべきだったのに。まあ、何をどうしたって、彼氏持ちなんだから断られたんだけど。こんな風にはならなかっただろう。 「……」 「何?」 「……軽蔑、する、のは、……ごめん……」 「俺が、先輩を?なんで?」  それだけ言うのが精一杯だった。謝ったってしょうがない。だけど、俺の口から出たのはこの期に及んでまだ保身の塊みたいなセリフだった。あー、ダメだわ。俺、頭おかしい。もう限界。俺はね、透。お前に軽蔑されて、嫌われて、離れていかれるのが一番怖いんだよ。ごめんね、自分勝手で。こんなの、好きって言えないよね。もう、消えてしまいたい。  俺は逃げるようにバスルームへ駆け込んだ。毟り取るみたいに服を脱いで、頭からシャワーを浴びる。泣けるかと思ったら、泣けなかった。泣く資格がないからかな。一方的にひどいことしたのは俺で、透が被害者。俺が泣いてる場合かよ。よかった、涙が出なくて。  ガシガシ乱暴に頭を洗って身体を洗って、何度か深呼吸して、恐る恐る小さい声を出す。大丈夫。涙は出ない。 「あー……あ、あ……」  泣くのを我慢してると、感情が落ち着いていても、ちょっと声出しただけで涙が溢れたりする。泣くなら今のうちだと思った。ベッドでシクシクなんか、泣きたくない。泣きたいのは俺じゃないだろって思うし。でも、もう、大丈夫みたい。  湯気を纏ってバスルームから出て、ため息つきながら新しい下着をキャビネットから引っ張り出そうとしたタイミングで、突然ノックもなしに透が入ってきた。は!? 「おっ、前、なんだよ、急に入ってくんなよ……!!」  あ、やべ。出ないと思っていた涙が、ジワリと滲む。きっとこれは、突然のことにびっくりしただけだ。俺は慌ててバスタオルで下半身を隠した。当の透は、腕を組んで戸口にもたれて、無表情に俺を見ている。なんなんだよ、もう、勘弁してくれよ。涙を見せるのが怖くて、俺は俯いて透に背中を向けた。声が震えないように腹に力を入れる。 「もう出るから。すぐ出るからちょっと待ってよ、パンツくらい履かせろ。急いでんの?どっか行くの?あ、彼氏んとこ?てか、だったら彼氏ん家で借りれば?」 「風呂、終わったんすか」 「見りゃわかんだろ。ちょっとは遠慮しろよ」 「なんで泣いてんの?」  泣いてねぇし。そう言うにはもう、結構限界だった。ふーふーと深呼吸して、涙を止めようと躍起になる。なのに透の声に反応するみたいに、全然止まらない。焦った俺は、たった今出てきたバスルームの扉に手を掛けた。いくらなんでも、風呂の中まで追いかけては来ないだろう。そう思ったんだけど、相手は一枚上手で、俺の腕を掴んで引っ張り、俺の思惑を阻止した。 「ちょ、なに、や……」  透は俺の腕を掴んだまま、自分の部屋へ向かう。腰にかろうじて巻きついているバスタオルが外れそうで、透の行動が理解できなくて、俺は満足に抵抗もできないまま連行された。ちょっと乱暴にベッドに突き飛ばされ、動揺している俺の腹に、透が乗りかかってきて肩を押さえつけられる。 「なに、なに……」 「なんで泣いてんの?」 「……うっさいな!自分が情けなくてだよ!お前は関係ない!」 「関係ないんだ」 「ほっといて!」 「フェラして欲しいんでしょ?ちんこ出せよ」 「違う!要らない!透のバカ……!!!」  バカは俺だ。透は俺を心配してくれてる。俺が泣くから、かわいそうだと思ってくれてる。それなのに、どんな理由であれ、透が俺をかまってくれるのが嬉しい。そのくらい俺は透が好きで、それってついさっき自覚したばっかりで、自覚したと同時に失恋してて、俺はもう。 「離して、頼むから」 「なんで泣いてんの?」 「こんなの、よくないよ。彼氏いるんだろ?浮気じゃん」 「俺にしゃぶられんの好きでしょ?」  好きだよ。そうだよ。お前にしゃぶられんのが、好きなんだよ。お前が好きだから。でも今更そんなことを言ってどうなるんだろう。俺は顔の前で腕を交差させて涙と表情を隠し、失恋って結構キツイなぁと他人事のように思った。 「はは……そうそう。好きなのよ、フェラしてもらうの。透にされて開眼しちゃって、風俗通いもしちゃったんだよねー」 「……は?」 「知ってる?本番なしでキスとフェラだけだと、結構安いんだよ。でもさ、好みの子見つけるのにあちこち行ってたら、すげぇ散財しちゃって。透と付き合ったら、お金要らないじゃんって思っちゃって。ほんと俺サイテーだよなー」 「サイテーっすね」 「でしょ?だからもう、ほっといて。さっきの話も忘れて。俺今、自分のサイテーぶりに自分で呆れて泣けてきてんの。救いがないよねー」  だからお願い。出て行くとか言わないで。全部忘れて。俺を嫌いにならないで。できるだけ早く、この気持ちを捨てるから。 「先輩さぁ」 「……んだよ」 「セックスのとき、女の子が気持ちよさそうなのが羨ましいって話してたでしょ?」 「……だね」 「それって、自分も女みたいに抱かれたいってことじゃないの?」 「はぁ……?知らねぇ。どいてよ」  そんなこと考えたこともない。だいたい、抱かれるってなに。お前が抱いてくれんのかよ。もうやだ。頭ん中グチャグチャで、バタンキューで眠りたい。 「言えよ」 「何をだよ……」 「俺に抱かれたいって。俺のオンナになりたいって。言ったら気持ちいいことしてあげますよ。俺、セックスもうまいから」 「……ほんと、ごめんって……勘弁してよ……」  どうしてそんなひどいこと言うの。全部俺が悪いのはわかってるし、透が怒るのも無理ないって思うよ。でも、勘弁してよ。付き合ってって言った俺を、お前は突き放したじゃん。彼氏だっているじゃん。俺は後悔してるし、反省してる。だからもう、ひどいこと言わないで。許して。お願い。涙が全然止まらない。なのに透は力づくで俺の腕を外させて、上からさらにのし掛かるみたいにしてベッドに両手で押さえつけた。ああ、もう、誤魔化しも効かない。覗き込んでくる顔が、相変わらずかっこいい。ちょっと、涙でぼやけるけど。 「……透ってさぁ」 「何ですか」 「見て見ぬ振りとか、そういうの、してくれないんだよな」 「あんたが泣いてんのを、見て見ぬ振り?するわけないでしょ」 「はは、してよ……俺、超惨めじゃん……自分が悪いんだけどさ……」 「なんで惨めなの?なんで泣いてんの?」 「なんでだろ……お前の彼氏に申し訳なくて、かなぁ……」  横取りなんかするつもりはない。なのに、彼氏持ちに、フェラなんかさせてしまった。かわいい彼氏さんなのかな。かっこいいのかな。いいよね、恋人。透みたいな超絶イケメンくん、一緒にいるだけでハッピーだよ。しかも性格も良くてエッチも上手?わお、サイコー。おしあわせに!全然邪魔するつもりないからね!ほんとごめんね!! 「どいて、透。もう、やめてよ。二度とあんな失礼なこと言わないから」 「先輩はさ」 「何ですか」 「見えないふり、しすぎだよ。ちゃんと俺を見ろよ。自分を見ろ」  言われて、我に返ったみたいに脳の奥がピリッとした。ずっと多分、焦点が合ってなかった。透の顔、こんなに近いのに、表情を読み取れてなかった。きっとそれは、辛くてちゃんと見てなかったから。ギュウッと目を閉じて、もう一度、マジマジと目の前の男を見る。イケメンなのは変わらないけど。 「……なんか、お前の方が泣きそうじゃない?」 「あんたはさっきからボロ泣きだろうが」 「もう止まったよ。だからお前も、泣くなよ。俺が悪かった」 「それから?ちゃんと思ってること言ってください」 「……別にさ、ほんと、今更だし、付き合って欲しいっていう話は、もう、忘れてくれていいんだけど」  同性愛者でも異性愛者でも、好きな人とか恋人ができるのって、やっぱりどこか、運が良くないとダメだと思うんだよね。そういう人に巡り合う運っていうか。透と出会って恋に落ちて、お互いを必要としているその彼氏、すっごいラッキーだと思うし羨ましいけど、その人を押しのけたいわけじゃない。失恋なんて、珍しいことじゃないし、俺は多分また別のだれかに恋をするだろう。だけど、それでもこの期に及んで、誤解されるのは辛かった。 「俺、結構考えたし、自分で納得したから言ったんだよ。付き合ってって。俺、透のこと、好きみたい。俺が言わなきゃいけなかったのは、それだよね」 「なんすか、それ」 「先に言えばよかったよね。好きだって。好きだから、だから、俺と付き合ってって。俺のさっきの言い方じゃ、ほんと、お前のエロテク目当てに付き合ってって言ってるようなもんだもんね」 「……」 「きっかけはそうだけど。でもさ、俺、透以外の男にすっごい上手いから舐めてあげるよって言われたって脱がないし、透以外の人にしゃぶってもらっても、あんな感じにはならなかったよ。透の代わりには、誰もなれないと思う。そりゃ、気持ちいいし、出るけどさ。一人でベッドに入って眠る直前までドキドキするような、あんなのは、なかった」 「風俗通いは本当なんすか」 「お恥ずかしい限りです」 「マジかよ。バカじゃないの、マジで」 「うん。でもまあ、必要経費でしょ。勉強になった」 「先輩は、俺に甘えてりゃいいんですよ」 「後輩に下半身の面倒まで押し付けられないだろ」 「言えよ」 「何を」 「俺に抱いて欲しいって」 「だから」 「嘘つきました。彼氏はいません。俺、フリーです」 「……えー……そっちの方が嘘っぽーい……」 「なんでだよっ」 「いやぁ……」  言うに事欠いて何それ。透でもパニックになることあるんだな。てか、彼氏に悪いだろ、その嘘は。疑い深く冷ややかに透を見上げる俺に、透は珍しく慌てたような顔をして舌打ちしてる。騙されませんよ、先輩は。 「俺はねぇ、あんたにずっと片想いしてるんだから、いないったらいないんだよ!」 「はぁ?じゃああのフェラテクはどこで覚えてくるわけ?」 「だから、それは、その……そういう相手は、いないこともないっていうか……」 「……」 「え、全然乱交とかハッテンとかじゃないからね?ちゃんとセーフセックスだし、本気の不特定多数と行きずりとかじゃなくて」 「どけ」 「先輩!」 「俺、そういうの潔癖だから」 「知ってますけど!」 「透のことは好きだけど、知らない男触った手で触んないでくれる?」 「はぁ!?知らない男しゃぶった口であんたのことイかせましたけど!?」 「透くん、ほんとそういうとこあるよね、サイテー」 「なんでそうなるんだよ!」 「何、透、俺と付き合いたいの?俺の彼氏になりたいの?あちこちでテキトーに男抱きまくってるくせに?」 「そう言う先輩は風俗通いしてんすよねぇ!?急変しすぎだろ!さっきまでのしおらしい態度はどこいったんだ!」 「え、だって俺悪くないってわかったし。てゆーか、じゃあなんでお前さっき俺にあんな意地悪したわけ?」 「意地悪したんじゃないですよ!先輩から付き合ってとか、夢かと思うし、ゲイでもないくせにそんなの言い出すなんて、絶対俺のエロテク目的に決まってるし、実際そうでしょ!?一言くらい、嘘でも好きって言わせたかったんですよ!なのにあんたは」 「好きだよ」 「……先輩……」 「これは嘘じゃないし、言わされてるわけでもない。俺は透が好き」 「だったら」 「でも俺、そういうだらしなさ、受け入れられませんので」 「だからーーー!!!!」  透はわさわさと綺麗な髪をかき混ぜて雄たけびを上げ始めた。押さえつけていた透の腕が外れたので、その隙に透の下から脱出する。あ、くそ!透はそう言って俺を後ろから羽交い締めにした。そして俺は、密着する透の身体にドキッとする。あはは、やべぇな、マジで好きだわ。どうしよう。 「俺のそういうのは、今この瞬間金輪際止めます。だから俺と付き合ってください」 「信用できない」 「なんで?」 「え。なんとなく」 「なんとなくって……そんなの、じゃあ、どうしたら……」 「決まってるじゃん」  後ろから抱きついて、しょんぼりしながら俺の耳元で話す透がかわいい。好き。少し緊張しながら、そっと透の太ももの辺りに手を置く。そしたら、透の腕に、力がこもった。 「ちゃんと好きって、言って欲しい」  聞いてないし、ちゃんとは。俺はちゃんと言ったし。一応、両想いっぽいけど、聞きたいし。なんか俺、すごい乙女じゃない?恥ずかしくなってきた。やばいやばいやばい。どうしていいかわからなくてそれを捨て台詞にとりあえず逃げようとしたら、透の腕は解かれて、お尻を支点に勢いよくぐるんと回転させられて、真正面に向かい合ってしまう。いつどんなときでも、お前は超イケメンだね。俺はもう、顔が熱くて死にそうだよ。 「……好きです。前から、結構、昔から」 「……そっか」 「はい。でも、先輩は男と恋愛する人じゃないってわかってたから、全然、期待とかはしてなくて、ただ、好きで、一緒にいられて嬉しかったです」 「うん」 「この間は、ちょっと……調子に乗りました。結果オーライかもだけど、本当に、あなたのことを押し倒すつもりとか襲うつもりは本当になかったんです」 「うん」 「あんなの、合意の上とはいえ、性行為と一緒です。だから、ごめんなさい」 「うん。俺もごめん。多分すごい無神経に傷つけてたと思う。お前の気持ちも知らないでさ」 「……先輩のそういうとこが、好きです」 「あはは、わかんない」  俺が笑ったら、透もようやく笑ってくれた。嬉しい。好きな人に、好きって言ってもらえた。 「……透、好きだよ。俺の初めての彼氏になって」 「はい。俺も好きです。先輩の唯一の彼氏になります」 「乱交を含めて、浮気したら殺すからね」 「しませんよ」 「うん。なあ」 「はい」 「……キスしてもいい?」 「え?……いいですよ」  キスは結構自信あるんだよ。それに、好きなんだよね、キスすんの。透の手をぎゅっと握って、そーっと顔を近づける。透も軽く目を伏せて俺のキスを待ってくれてる。まつ毛なっが。この距離で見ても、イケメンに隙なしって感じ。  透の唇は、柔らかかった。ちゅって音を立てて軽く吸ってから、ぺろりと舐める。そしたら、透も口を開けて、俺を受け入れてくれた。キスには自信があったんだよ。でも、透とのキスは別世界だった。フェラの時のモーター付いてるみたいな舌使いじゃなくて、すっごく優しくて甘いキス。舌がね、柔らかくて大きいんだよ。多分。わかんないけど。全然グイグイ来る感じじゃないのに、口の中全部、透のせいでとろけちゃう。気がついたら、透の太ももに乗りあがるみたいにして、首に両腕回して縋りついてた。俺の彼氏、超キスうまいんですけど。キスしてる間、透の手が俺の腰とか尻とか撫でてて、それも、気持ちいい。 「はぁ……交際初日で、エッチしたことはないんだけど」 「俺もです」 「したい、かな」 「俺もです」 「初日って言うか、まだ、一時間も経ってないけど」 「抱きたい」 「直球だな……」 「もう、絶対抱く。メスイキさせてあげますね。俺のオンナにしてあげる」 「ちょ、透、待って」 「大丈夫だから、俺に任せて」 「うん、そうなんだけど」  ほんとそれ、さっきから気になってるんだけど。戸惑う俺をそっちのけで、かわいい後輩くんは俺をベッドに再び押し倒して、まあほら、バスタオルなんかとっくの昔に外れて、俺まっぱじゃん?臨戦態勢万全って感じだよね。だけどさ。 「透は、俺を女の子の代わりにしたいのか」 「はい?俺、女興味ないって言いましたよね?」 「だって、オンナにしてやるとか、言うから」 「ああ、それはね」  超絶イケメンは、Tシャツを脱いで放り投げるだけでも驚くほどかっこいい。うわー久々にじっくり見たけど、お前現役の時より筋肉増えてない?いいなー羨ましいわ。俺もちょっと走ろうかな。そういう関係ないこともぽろぽろ思い浮かべるのは軽く現実逃避をしているからかもしれない。透はそんな俺に、眩暈がするほどの笑顔を見せた。 「俺に抱かれないと満足できないようにして、先輩が二度と女抱こうなんて考えないようにしてやりたいからですよ」 「は?お前……過激だな」 「そうっすか?」 「言っとくけど、俺はお前のこと好きだからエッチするんだからな。まあ、その、興味はあるけど、そういうの」 「うん。嬉しい。言い方酷かった?すみません」 「別に……いいけど……」 「優しくしますね」 「うん……俺も、あの……き、気持ちよくなりたいから、……がんばって」 「ぶっ!先輩、かっわ……がんばります!」  セックスも上手いんですよって、自分で言うだけあって、透は巧みだった。途中まではさ、うわーこういうことするんだ、なるほどね、俺はそこまで気が回らなかったなーとか、参考になりますって目線だったんだけど、いよいよお尻を弄られて、一緒におちんちんも扱かれて、変な声出るし汗も出るし、なのに透はかっこよくて、俺にたくさんキスしてくれて。ああ、だめ、待って。 「透、ちょっと、ごめん、こわ」 「え?怖い?」 「こわい、うん」 「気持ちよくない?」 「気持ちいいけど、身体の中、内側、触られるの、初めてだし」 「…………」 「エッチするとき、オナニーもだけど、自分で、動いて、自分のペースで」  だから、自分の知らない気持ちいい場所を教えられて、そこを弄られて、頭ン中真っ白になっていくのは怖い。挙句、今までとは比べ物にならないような巨大な絶頂が来そうで怖い。女の子はこんな恐怖を味わってるのか。自分の身体が自分の物じゃなくなる感覚。さらに言えば、同意の上だけど、好きな人相手だけど、侵入される恐怖。 「……やめましょっか。すごい顔して……口でしてあげる。先輩は、俺の触ってくれたら」 「え、やだ」 「駄々こねないでくださいよ、頼むから」 「やだよ、したい。ゆっくりなら平気」 「怖いんでしょうが」 「だって透が喋んないから」 「はいきた俺のせい」 「そうだよ全部お前のせい」 「ですよねー責任取ります」 「責任取って、メスイキさせろ」 「はは。もーこの人は……覚悟しろよ」  目を覗き込んで囁く透の低い声に、ぞくっとした。鳥肌が立ったわけじゃないのに、肌が、ぶわっとした。お尻に突っ込まれてる指を、自分でもわかるくらいきゅうって締め付けた。あ、これ、オンナにされちゃうわ。透に、抱かれちゃう。  なんだかちょっと、頭のネジが何本か吹っ飛んだ感じだ。さっきまでは異物感で落ち着かないだけだったお尻が、お尻の奥が、透の指で捏ねられて熱くなっていく。先走りもすごいことになってて、透の両手が、俺を堕としにかかってるのがわかる。何この感覚。あ、あ、やばいやばいやばい。 「とお、る……あ、なに、あ、あ……!」 「先輩、好き……好きです、こんなこと、先輩にできるなんて、サイコー……」 「くふっ……う、ふ……!あー……!おしり、やっばい……あう!あうぅ……!」 「うん?やばい?それねぇ、イキそうになってんの。気持ちいいよ?イッてみようか」 「こわ……、こわ、い……待って、あ!ああ!待ってぇ……!」  当たり前だけど、透は動きを止めてくれなかった。乱暴ではないけど、おとなしくもないその指で、俺は、二度目の射精"させられた"経験を得た。フェラの時とは比べ物にならないほどでかくて深い絶頂を叩きつけられ、大声で悲鳴を上げて、手足を突っ張らせて、それしかなす術もなかった。  目は開けているのに、視界が定まらない。身体の震えが止まらないし、声がこぼれるのも止められない。心臓バクバクで、呼吸が忙しない。ああ、俺、お尻でいっちゃったんだ……。 「先輩、上手。かわいいです。お尻気持ちよかった?」 「ん……すごい……」 「いっぱい出ましたね」 「メス、イキ」 「んー……どうかな、女に突っ込んで出すのと、違った?」 「うん……まだ、気持ちいい……」 「よかった。もっと気持ちよくなりますよ」  俺は油断していた。透にされることに夢中になって、いざこうやってイかされて、想像もつかなかった新しい絶頂が現実になって、正直満足した。だって、擦って出すよりすごい上に、長く続くんだよ、気持ちいいのが。でも、これは、忘れてたけどセックスだった。俺にたくさん優しく透がキスしてくれて、力の入らない腑抜けた俺の脚を透が持ち上げて、まだまだ気持ちよさにヒクヒクしてる俺のお尻に、透のが、透のかたいのが、予告もなしに入ってくる。ぬるんって、痛みさえなく、奥まで。 「う、あ、ああぁ……!」 「あーすっげ……俺、先輩抱いてる……嬉しい……」 「ひ、ひぃ、ひ、あ!ああ!んああ!」 「痛くないね?気持ちいい?」 「あ、あぐ、あ、とーる、とーる……!だ、め、あー!!」 「まだちょっとしか動いてないよ、落ち着いて」 「ちょっと?うそ、あー!すっげぇもん、あ、あ、こわい、あつい……!」 「俺のちんこでいこうね。気持ちいいですよ、最高に」  透の腰使いはすごかった。俺の中を探るみたいに、自分の形を馴染ませるみたいに、ゆっくりねちっこく動いて、俺が落ち着いてきたのを見逃さずに、かっこいい笑顔で大きくズンズン掘ってくる。本当に、掘られてるって、そうとしか表現できないような動きで、入れられて、抜かれて、どっちも気持ちよくてどんどん気持ちよくなって、もう死んじゃうって叫んでた。 「とーる、とーる、すごい、あー……!あー……!あうっ!」 「当たってる?擦れてる?先輩のお尻、気持ちいいです」 「すっご……!しんじゃ、しんじゃう、しんじゃうよぉ……っ!ああああ、だめだめだめそこだめぇ!」 「あーさいっこぉ……先輩、好き……っ!」  目の前が、パッと光った感じだった。一瞬遅れて猛烈な快感。尿道の辺りがぞわっとしたのに精液は出なくて、代わりに全身が、本当に内側の奥底から指先まで全身が、ゾクゾクビリビリ、味わったことのない感覚で覆われる。視界の端に映る自分の脚が、笑っちゃうぐらい痙攣してて足先が丸まって、空を蹴っている。笑っちゃう。気持ちよすぎて、笑っちゃう。すごすぎる快感に、笑うしかできない。俺は、欲しかった最高の絶頂を手に入れた。 「先輩才能ありますね」 「は?お前が上手いんでしょうが」 「相性かも」 「それは、ばっちりだから」 「ですね」  めでたくメスイキした俺は、望んだとおり、絶頂後の長く続く多幸感に酔い痴れた。透は、俺が時々震えて声を上げるを飽きもせず、隣に寝転がって嬉しそうにそれを眺めていた。優しい超絶イケメンエグいエロテク持ちの絶倫後輩は、俺を労うようにキスをして、汗の引かない肌を撫でるもんだから、俺は余韻で何度も小さくいかされた。結局それにつられて透が盛り上がって、初夜なのに二発もやった。最高に、気持ちよかった。セックスは、本当に気持ちいい。最中も、終わってからも、ずっと。

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